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 本ブログが1/21から取り上げた新型コロナウィルスだが、果たしてそれからの2週間弱で中国の年封鎖と経済活動停止という大騒ぎになった。「これで旧正月の休場中に株を処分できないままパンデミックになったらたまったものではない」という香港株参加者の警戒心は正しく、中国・香港株が休場していた間にとんでもないことになった。米国で上場する中国株ETF MCHIは一時10%以上下落した。香港株は本土株より一足先にオープンしたが、数日かけて10%のドローダウンを演じた。そして最後に休場明けを迎えた上海株は巨大な窓を空けて下落したが、そこからは政策期待などで何とか持ち堪えている。
 
 依然筆者は医学には全く明るくないためこの記事全体が全くの推測にすぎないが、だんだん明らかになった中国発新型コロナウィルス流行の全体像を書いてみようと思う。
 
 SARSのウィルスも、恐らく今回のコロナウィルスもコウモリの体内で変異したことは間違いないが、中国とはいえ屋内で寝る人間と夜行性のコウモリが直接接触することはあまりない(BBCも見かねて報道したように、コウモリスープは中国の食べ物ではなかった)。コウモリがその辺りの野生動物にウィルスを移す機会は十分あるが、野生動物もウィルスを移されると病気になるのでそれでも人間に移ることはあまりない。しかしその野生動物を大々的に食用に捕獲する集団がいれば話は別である。SARSの時は食用のハクビシンが中間媒体として人間に移した。今回の中間媒体は蛇とも言われているが正確には特定できていないようだ。日本では他人の食文化を批判するのを遠慮する風潮があるが、人より珍しい野生動物を食べたら自慢できる、それも保護動物ならなおさらマウントを取れるという中国の富裕層のメンタリティをいくら批判しても叩きすぎということはない。本人達が真っ先に変な病気を移されて死ねばよかったし、もしそうなら富裕層の生存本能でこの風潮もなくなるのだが、残念ながら富裕層は加熱して食しているため安全であり、代わりに捕獲、運搬、販売といった産業チェーンが感染源になった。

 コンスタントに野生動物食のために新型ウィルスに感染するような人民にお金をばら撒いて、これだけ発達した交通インフラに放り込んだらどうなるか。それが今回のコロナウィルスの壮大な社会実験であった。中国人民の公衆衛生意識は巨大で便利なインフラに全くふさわしくない。それは経済格差の拡大とポピュリズムに苦しむ先進国をよそに中国政府が「2020年までに全面的小康社会へ」という目標を掲げて猛烈に貧困層にばら撒きを行い一部を富裕層に仕立ててしまった結果でもある。

 旅行客のマナー問題も同じである。普通はちゃんとした教育を受けて初めてまとまったお金を稼いで海外旅行に行けるという順序があるのに、本ブログが以前にも指摘してきたように、国土開発に伴うばら撒きにより、他の国であれば到底海外旅行に行かなそうな教養の層が爆発的に資産を増やしたのが背景であった。先進国の人間と話が合いそうな、大学に行ってホワイトカラーを始めた層は住宅ローンのための貯金で海外旅行どころではない。彼らの大家は元々その田舎だった土地でバラック小屋の扉を開けっ放しにして鶏や豚を飼って生ゴミを食べさせていたような人々である。
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 中国政府は行動パターンが自由主義諸国と大きく異なっているため、正しいことをやっても何かと叩かれやすい。チャイナショックの時も人民元をドカンと切り下げたのはなんだかんだ正解であり迅速な対応であったが、この世の終わりのような雰囲気を数ヶ月作ってしまった。今回も初動こそ「人から人に移る新型ウィルスではないか」と初めて言及した8人の医師を反射的に拘束したり、地方政府の行事を優先して情報を隠蔽していたが、いざ事態の重大性を認めて戦時体制に切り替えると、武漢など大都市の封鎖やバラック病院の建設を専制国家ならではの実行力で決行した。もし中国が透明な民主主義国家であったら現政権以上の対応策ができたとは到底思えない。筆者は「SARSの時ですらなかった春運と呼ばれる旧正月の民族大移動との合わせ技のインパクトはどんなに警戒しても杞憂ということはなさそうだ」と警鐘を鳴らしていたが、専制政府による強権発動のおかげで春運の全国は概ね4割減となったようだ。どんなに危険でも無駄な家族団欒を優先しがちな人民を強権で封鎖できたのは上出来であった。
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 中国の対策が仰々しいからつい何かのパンデミックと勘違いしがちであるが、医療態勢が整っている先進国では新型コロナウィルスにかかっても中々亡くなるところまでいかない。中国から日本に帰国した人達を日本で調査した結果が最も端的に説明しているが、軽症状や無症状の患者は相当多い。だからこそ広まる。エボラ出血熱レベルまで致命率が高いと患者は人に移す前から元気がなくなり結果中々広まらないのだが、新型コロナはその正反対である。そして日本で観測された8/565の陽性率は相当高く、これを素直に武漢1100万人の人口に当てはめると15万人以上の陽性が居そうだし、従って最終的には「調べたら陽性になる」集団というのは相当な数に上ると思われるが、そのうち大半は無症状か軽症のまま免疫で退治されるのではないか。完全な封じ込めは不可能なので、せめて春運のような大規模な伝染ルートを遮断し、また明らかに密度が高そうな地域における人同士の接触を遮断し、伝染の速さをなるべく各地の医療インフラがパンクしない程度まで遅滞させながら梅雨を待つしかない。
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 ギリアド・サイエンシズがかつてエボラ熱のために開発した未認可薬レムデシビルをはじめとして色々な特効薬が取沙汰される段階になっているが、この話は飛び道具で解決するものというより、あくまでも大量な患者に地道に対症療法で対応できるキャパシティが問われている。致死率が「武漢、武漢市以外の湖北省、湖北省以外の中国全土、そして中国以外」の順に高いのは明らかに医療インフラがパンパンになった順に見える。
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 死者や重症者は極めてゆっくりとしか増えていないにも関わらず、感染者数だけ綺麗に増え続けているのも、元々軽症な集団がウロウロしていた中で毎日そのペースでしか検査が進められないからではないか。中国は新型以前にそもそも一斉に数千人単位でやってくる肺炎患者に対応できるキャパがないのが問題である。重症者に加えて無駄に軽症が大量にいるのも医療機関のパンクの背景になっているだろう。
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    先進国は確率論的に明らかに効率がよさそうな中国人旅行客のブロックだけを決めた後は概ね放置しているが、それは患者が見つかってもその都度治せばよいのであって、いちいち経済活動を止めるよりもそちらの方が害が少ないという判断と思われる。実害としては新型コロナなどよりも毎年万単位の死者を出しているインフルの方が遥かに重い。WHOも専ら「医療態勢の脆弱な国」にスポットを当てているところを見ると概ね同じ判断だろう。WHOは親中国家エチオピア出身の事務局長がいるせいで(なかなかに緊急事態宣言を出さず)中国贔屓ではないかと批判されたが、WHOの決定は16名の独立した専門家によって行われることになっており、一人の事務局長が全てをひっくり返すのは難しい。「人や貿易の移動を止める必要はない」という判断にはそれなりの根拠があるはずだ。WHOへの不信からニヒリズムに陥るべきではない。
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 さて経済への影響。「中国のGDPは2003年と比べてサービス業の比重が高くなっているため影響は大きい」という見方が圧倒的であり、90日しかないのにこれほど出社停止や閉店が続いていると少なくとも1QのGDP伸び率は大きく下落するだろう。ただそれがせいぜい1Qで終わるというのも見えているので、例えば半永久的に成長期待が崖のように下がったチャイナショック並みのインパクトはなさそうだ。中国経済の問題は数日間の消費ごときではなく、SARSから17年経ったのにまた似たような形で野生動物を食べて変な新型ウィルスのパンデミックを起こす人民がいることそのものである。今後も定期的にこのような騒ぎを起こすのではないかという目で見られるようになり、中国で積極的に事業を行おうとする海外企業は激減するだろう、ということである。

 ところで、もとより先進国ではまともに対処する価値がないと思われているわけだが、中国でもどこかの時点で軽症の人達がウィルスをばら撒きつつある中でも割り切って経済活動再開に踏み込もうという議論になるだろう。春節の無意味な民族大移動をブロックできたのは恐らく効果的であったが、それ以降の封鎖継続は経済効果との兼ね合いとなる。しかし選挙がない中国では政府は無限責任を負うため、人命より経済を優先するような決断を改めて下すことは難しいはずだ。国際的にはWHOが「貿易や人の移動を制限することは勧告しない」としつつ緊急事態宣言を出した状態が続いており、この緊急事態宣言が解除されて初めて正常化となる。それまでサプライチェーンの慢性的な分断は続くだろう。しかし1月ISMへの影響の薄さを見ても、いろんな企業から入荷遅延がボコボコ報告されてもそれだけでリスクオフを招くイメージもあまりない。あくまでも問題は需要の方である。
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 こちらがテンセントが公表している新型コロナの患者数だが、上図は新規確定(青)と新規疑惑(黄)、中図はその累計である。下図は累計回復と累計死亡人数である。今までは新規確定がキャパによって規定されていたのに対して、その外側で新規疑惑が遥かに速いペースで増えていたが、この新規疑惑は頭打ちから減速に転じつつある。都市封鎖により拡大ペースがコントロールされ始めたか。いずれにしても先週のS&P 500記事で「コロナウィルスネタはもう少しで賞味期限切れを迎える」とした通り、マーケットの話題としての新型コロナウィルスは一巡しつつある。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。