先週のS&P 500はさすがに「持込可の試験」と表現した通り分かりやすかった。ここまでは2018年2月のVIXショックとほぼ同じ展開であり、「2018年2月のVIXショックでは一旦は「リスクパリティの売りは新材料に基づくものではないから逆らっても大丈夫、待ち焦がれていた買い場ができてよかった」と一旦は激しい反発を見せてから二番底を付けるまでさっぱりな値動きとなっており、今回もそれが参考になるのではないか」としていた通り、月曜から一旦は暴力的な上げを演じた後に再び下落に転じた。「第一波のセリング・クライマックスは金曜だったと思っているが、今狙えるのはあくまでも短期的な反発であり、長期的にこれだけの激しい下落がこの水準でピタリと止まって即座に反転した確率はそこまで高くは見積もれない。デッドキャットバウンドを見て慌てて高値を追いかけて二番底にハマることにならないように少しだけ逆張り買いを入れても心理的には有意義だろうが、全て見送っても諦めきれるくらい慎重に運びたいものである。いかんせんボラティリティが先週までとは全く違う。3100近辺までの反発でもあれば拾ったナイフの手放しどころに見える」は一字一句変えなくても先週の相場のまとめに使えそうである。週明けに少しは押し目買いを入れた方が心理的に月曜夜からの暴力的な上げに釣られづらくなっただろう。そして拾ったナイフの手放しどころの推定まで完璧であった。予め決め打ちしていなければ3100近辺では「10年来の上げ幅」に足がすくんで売れなかったであろう。実際、急落からの激しい反発は「マーケットが薄いのと神経質になっている以上のインプリケーションがない」。3100でポジションを整理できていれば後の相場は楽に乗り切れたことだろう。
市場という女がパウエルというみつぐ君から今度美味いご飯奢ってもらおうと思ってたら、いきなりみつぐくんが家の玄関前に立って待ってて、さすがにちょっとドン引いたような感じ。
— ジョンブルシット (@John__Bullshit) March 3, 2020
市場は体調が悪くなりそうと思ってとりあえず薬と十分な栄養・休息が必要だなと思って診察をお願いしたところ突然FEDが開腹手術し始めたのでえ?末期癌なの?と訝しんでる状態 https://t.co/ZOUF60hodC
— ヒッポAM (@hippoasset) March 7, 2020
相場が緊迫したところでFedは3日夜に50bpの緊急利下げを敢行したがこちらは微妙なタイミングもあって概ね不評で終わった。もとより3/18に会合が控えている中、残り15日間をどうして待てなかったのか、Fedは人々が知らない悪材料を持っているのではないかと市場参加者は疑心暗鬼になったことだろう。人間以外にどう見えるかというと、テキストマイニングに基づく投資戦略なら「緊急利下げ」というワードはショックの時にばかり登場するし、実際過去6回の50bp以上の緊急利下げ後のS&P 500のパフォーマンスは惨憺たるものであった。結局、ビッグニュースであるはずの50bp利下げは大した好材料にならないまま、金利市場は次の3/18の追加利下げを期待し出した。この過程で米金利は5σと言われる急激な低下を体験した。未曾有の動きは更にマーケット全体の雰囲気を神経質にする。
中国発のコモディティのダブつきはマーケットを殺伐とさせて更にロシアとサウジの決裂に繋がり、B.C.(Before Corona)時代1バレル50〜60ドルのレンジだったWTI原油は中国の需要減退懸念で40ドル台に下落してから週末をはさんで30ドル割れまで急落した。こちらは実体経済にとって決してネガティブではないものの、2015年のように米国のシェールガス企業の信用悪化からクレジット市場に激震が走るとの懸念を招かざるを得ない。ハイイールド債への投資は銘柄をよく見ずにETFを通して投資する投資家が増えてきたため、エネルギーという一部のセクター発の投げ売りは市場全体に波及しやすい。それが更に株式市場に悪影響をもたらした。月曜から値幅制限が5%と狭い米株指数先物はサーキットブレーカーを発動させることとなった。
テクニカルには前回の10月安値と面合わせで一回反発したもの、3100から再び反落しており、どうも2850を再び割りそうである。となると週足では右肩が狭い汚いヘッドアンドショルダーとなってしまう。週足は実体がほとんどない上ヒゲ陰線となり、戻り高値である3136はヘッドアンドショルダーの右肩・兼・上ヒゲレジスタンスとなってしまった。前回の記事では「既に非製造業PMIは50を割っているので、短期的には3200まで跳ねるのも難しいだろう」としていたが、3100まで戻ることすら短期的に難しくなってしまったようだ。サポートの方は引続き200週SMAの2630近辺である。
ポジショニングはシステマティック勢については先週の記事でも添付したように綺麗になったはずだ。ファンダメンタルズの不安要因がなかったVIXショックと異なりVIXはブローアップしてから30〜40台で滞空を続けている。またVIX =40は日次で言うと1σ =40% / √250 =2.5%程度の値動きを示唆しているが、先週の連日の鯨幕チャートはその水準を正当化してしまっている。アドレナリンが出るような激しい上下相場は安定の敵である。リスクパリティを持ち出すまでもなく現代ポートフォリオ理論によると激しい値動きでアドレナリンが出ない投資家の方が多数である。しかしリスクパリティは先々週のぶん投げからポジションも小さくなり主役から降りつつあるはずだ。そこから更に下を叩いているのは人間のファンダメンタルズ的発想だと思われる。
ファンダメンタルズ的にはまずはハイイールド債市場の緊張が話題になるだろう。50bp利下げは瞬間的には相場師的なタイミングの悪さを指摘されるかもしれないが、長期的に見れば魔術師的なタイミングかコミュ障的なタイミングかなどどうでもよい話だ。しぶとかったドル円もようやくフラッシュクラッシュしたことだし、ハイイールド債までクラッシュしたら相場は一巡したと認めてよいはずだ。新型コロナはイタリアなどで深刻さを増しており、これは売りで踏まれてもいずれヘッドラインで助かる安心感を与えてきたものの、単体で下を叩きたくなるほどの材料となり得るかどうか。
というわけで下を崩す材料はチャートとハイイールド債市場などクレジット懸念、サポート材料は緩和的な金融環境と中国からの財政サポートということになりそうだ。金融システムは(儲からなくなった一方で)頑丈であり、リーマンショックのような流動性危機からはほど遠い。新型コロナ対策でマーケットメイカーがオフィススプリットなどでやる気を出せずどこかのマイナーなマーケットで局地的に流動性が薄くなっても、それは我々個人投資家が賢そうに懸念したり噂話で説教し合う問題ではない。3100は何か好材料がないと相当遠いものの、2630〜3100のレンジと決め打ちするなら真ん中は2865であり、とすると2700台はさすがに売り場ではないだろう。もっとも新規買いを入れるならハイイールド債なりVIXなりが落ち着くのを待てばよく、先物のサーキットブレーカー発動が話題になる中であえて急いで飛び付く必要もなさそうだ。本当は2630〜3100レンジと宣言したいところだが、VIXが50もあるようではレンジ逆張りを試みるのは論理的にはやや分が悪い。何かの問題解決で3100をブレイクされたら教科書的には最高値更新も再び視野に入るのでそこからロングして10%獲るのは簡単そうであり、であればその分3100まで戻るのは難しそうであり、その手前は再び拾ったナイフの捨て場となりそうだ。ここまではVIXショックの展開通りの持込み可の試験であったが、ここからは再び教科書がない世界に戻ってしまう。
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