CSI vs SPX
 先進国株が「割高」と「過剰流動性相場が来る」のせめぎ合いで高値圏でグダグダしているところに、中国株と香港株の暴騰がやってきて真面目に考える意味を消し去ってしまい、全てを喜劇に変えてしまった。本ブログは5月時点で少なくとも香港株については内憂外患で怖いとわざわざ記事を書いていたが、完全に底値圏での売り煽りになってしまった。唯一の救いは「何かの拍子で24,800をブレイクしたらブル転する」としてあったことだ。

 香港株の視点から見ると大きいのは6/30に導入された「国家安全法案」のおかげで、香港株の上値を抑えてきたデモ騒ぎが急速に鎮火しつつあることである。法案そのものはもちろん厳しく抑圧的であり、香港の「アジアの金融センターとしての地位」への悪影響ばかりが議論されてきたが、それはあくまでも外の視点であり、それでも暴徒にのさばらせ続けるよりは本土絡みのお金とビジネスが帰って来そうなだけマシ、ということになる。結局どこであろうと中国企業が資金調達したい場所がそのままアジアの金融センターになるのである。国家安全法案に絡んで前回の記事で危惧していた香港の特殊地位取り消しの話題は特にインパクトがなかった。

テクニカルのトリガーが次々と引かれる


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 そして香港株を持ち上げたメインドライバーは明らかにアフターコロナで鳴かず飛ばずだった上海株の方であった。一口に中国株とは言っても色々な市場や指数があるが、代表として語られることが多い上海株は歴史的にボラティリティが高く、間歇泉のようにバブルとバブル崩壊、そして懲りた後の長い鳴かず飛ばずを続けてきた。そして水準としては2007年高値の半分で推移している。その何度目かの間歇泉が始まったように見える。
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 7/6の上海総合指数の1日の上げ幅は5.7%とチャイナショック以来の大きさとなった。この上げにより様々なシグナルがトリガーされている。IMG_2767
 A株の時価総額上位50銘柄からなるFTSE China A50は2012年以来の水平レジスタンスとなっていた15,000を派手にブレイクした。8年間にわたる大きな三角保ち合いが上にブレイクされたとなると相当の値幅と日柄を持つトレンド出現と解釈されることが多い。
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  香港のハンセン指数も3月安値から20%ラリーしてブル相場入りを宣言した(なおS&P 500のブルマーケット宣言は4/8であった模様)。
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 1990年からのチャートを引っ張ってきて上海株の対S&P 500の12年半にわたる劣後サイクルの底打ちを論ずる声すらあるが、これはさすがに眉唾だろう。

中国証券報の「健康牛」買い煽り

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 さて中国株の暴騰のきっかけだが、7/6に関しては明らかに「政府系メディア」とされている中国証券報の買い煽り記事である。「A株健康牛」という一面見出しは中国語を解さなくても何となく意味を推測できるがもちろん「健全なブル相場」である。そして一面の下半分にはIPO広告が10個並べられるという露骨さである。これは自由世界の投資家が見るとまず反射的に白けたくなるが、このような政府のメッセージがコテコテに盛り込まれた紙面を見た時に反射的に寄付きで全力買いできないようでは中国株投資家として合格点とは言えない。国家政権が政治力を使って相場を操縦しようとしている国家資本主義の環境下では、暴落する相場を反転させることはたまにしかできないが、今まで何も織り込んでいなかった相場を急に動かすことくらいは造作ないのである。

 また、少なくとも貿易戦争が始まるまでの中国経済の最大の障害はデレバレッジ運動であった。これは文字通り企業や銀行が債務を積み増すのを抑制しようとするものであり、中国株の上値をも抑えてきた。2015年の中国株バブルからの(最終的にはチャイナショックのトリガーを引いた)バブル崩壊の後遺症を当局が忘れたことはないはずだ。それをあえてバブルになっても構わないとブル相場を煽るのは、自らボトルの上に座ってボトルネックになっていた当局がボトルの上からどけることを意味する。

 記事そのものを解読するのにはやや国語力がいるし、どうせ政権の方向性の方が重要であり、各論に感銘を受けたり論破したところで意味がないので深掘りする必要はない。内容の日本語まとめはこちらである。「力を付けるために株高が必要」のロジックは考え込んでも無駄だ。「市場の不正を防ぐための施策や制度改革は十分やってきた」(からバブルになっても大惨事にならないだろう)という自信が現れている。

ファンダメンタルズとポジショニング

 最後の点についてはFTが「中国株のラリーはファンダメンタルズではなく流動性によって支えられている」という旨の記事を書いているが、それは世界中同じである。その中にあって中国株は今のところ「コロナ第二波と再ロックダウンリスク」と「アメリカ大統領選リスク」の双方から隔離されており、何ならバイデンリスクの最良なヘッジとなる。民主党の方がより人権にうるさいから反中になるという声もあるだろうが、そうは言っても今のような大掛かりな関税を現実化できるのはトランプしかいない。人権で批判されたところで株が下がるわけではない。バリュエーションは2021年のフォワードPERで見ると上海株が12, 香港株が10近辺と過剰流動性バブルに取り残されている。しかしこれらの指数は上手く煽られればバリュエーション正常化、煽られなければ万年チープに回帰、という類いの指数であることに注意すべきである。
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 完全な官製相場かどうかを確認するには、本土株と違って海外勢が政策に左右されず自由に取引できるCNHや香港株を見ればよい。CNHと香港株のどちらかが白け始めると残りの相場は本土株だけのバブルという解釈になるだろう。今のところUSDCNHと香港株の方向は上海株と揃っている。海外勢は回復場面にグローバル株指数ショートで立ち向かう場面があったが、センチメントや売り安心感の違いによりショートを畳む時もハンセンショートが最後である。つまり海外勢はショートカバーの最中であり官製相場を笑っている場合ではない。

健康牛になりづらい市場構造

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 上海株の特徴として、ブル相場が始まると口座開設が殺到したり取引高が急増するので証券業が好調になりがちであり、そうすると証券業が急騰して更に指数を持ち上げるというサイクルがある。同じように証券会社に「国家隊」などと言って落ちるナイフを掴ませても彼らが損したら指数に返ってくる。
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 更に上海株がまるで急落のような勢いで上昇してバブル化しやすい背景として、信用買いが一般化していることが挙げられる。本来お金を用意して投資するよりも引き上げる時の方が必ず速いので指数のチャートは上下対称になり得ない(上げ相場はLongで下げ相場はShort)が、多くの参加者が最初から信用でリスクを取れるだけ取るような市場ではそれも関係なくなる。今回も当たり前のように信用残高が急増している。これがあまりにも積み上がったところで当局に目を付けられて引き締められたりするとすぐ逆回転を始めるため、常に要注意である。足元では2016年年初時点よりまだ信用残高が小さいが急増しつつある。上海・深圳両市場の信用残高の最新の日次データはこちらでモニターできる
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 前回の間歇泉である2014年の利下げ〜2015年前半のバブルとバブル崩壊を振り返ってみると、2015/4/1に人民日報が「乱高下でも緩やかなブル相場を変えるものではない」(緩やかなブル相場=慢牛。これがその後のバブル崩壊であまりにも縁起が悪くなったため今回は「健全牛」と新しいネームが付いたようだ)、また4/21には後に罵声の海に沈められることになる「4000点はブル相場の始点にすぎない、バブルは見られない」の煽り記事が出ていた。そこから多少の振り落としを経て一時5000点を付け、そこから信用買いに支えられたバブルが崩壊した。一旦崩壊すると全ての施策が効かなくなる。今回もこれに当てはめると、官製買い煽りからバブル崩壊までおおよそ2ヶ月の猶予と25%の上値余地があるということになるか。これまでの展開を参考にすると買い手は煽られた人民、売り手はオーナーなど大株主というところか。香港株の方はコロナショック全戻しあたりが目処となるだろうか。

 しかし、中国株投資は米株投資などとは異なり常に大規模なバブル崩壊への恐怖との隣り合わせとなる。今はハンセンなどはまだ年初来で見てもまだだいぶ安いのでバブルというよりまだキャッチアップ中であるにすぎないが、それでも乱高下に振り落とされるリスクが伴う。結局中国株のような万人が短期目線で政策を信用で追い掛ける市場に「健康牛」などありそうにないのである。バブル開始前に積めなかったなら、1〜2ヶ月後の利食いを目処に乱高下でそれなりに調整したところで拾ってみるくらいの参加になるしかなさそうである。

風水による香港株占い

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 最後に「非論理的なバブルに立ち向かうには非論理的な手法を採用すべきだ」ということでCLSA証券が毎年発表している風水による香港株占いを拾い直してみようと思う。2018年にあまりにも大外ししたのでしばらくチェックしておらず、これを見ていれば前回記事を書かずに済んだが、今のところちょうど3月底8月天井というリアルな予想になっており、官製買い煽りからの日柄と合致している。過去の香港株風水の答え合わせはこちらである

 というわけで過剰流動性相場のアホらしいところを最も誇張されたところを我々は見ている。2018年年初も2019年春も、そして2007年もそうだが毎回株高の最終局面で中国・香港株がキャッチアップで噴いてきたことが多く、最終局面での人々の心を大らかにしていく。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。