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Net Issuance2
 半年前の記事から注目していた米国債のネット発行額は国債需給から金利の推移を考える上で重要である。上がノルデアの期ごとの予想であり、下がJPMの年ごとの予想である。半年前に取り上げた通り、2020年Q3から足元にかけてFedの買入れを差し引いても国債のネット発行超が続いている。今後についてはバイデノミクスとも呼ばれる追加経済対策に大きく関わっており、もし何も実現しなければ昨年分のファンディングが終わって今年は再びネット買入れ超に転ずる予定になっていたが、もし実現すれば昨年以上の発行超になると想定されている。発行超の拡大は当然国債市場の需給を圧迫し、実質金利の上昇要因となりそうである。
IG Supply
 一方、同じ金利リスク供給商品である企業投資適格債(USIG)の発行はさすがに各投資銀行の予想によると2020年対比で大きく減速しそうであり、国債の発行超の拡大のインパクトを多少なりとも薄める形になりそうである。
Taper
 ネット供給・吸収増の議論で変数となるのは、追加財政出動に加えてFedの購入ペース調整である。昨年のジャクソンホール講演での新枠組み導入から冬にかけて何かと期待されてきた中で本ブログが再三否定してきたFedの資産購入ペース増額はもはや誰も話題にしなくなり、代わりにFed高官のいくつかのタカ的発言をきっかけに180度真逆に早期テーパリング懸念が盛り上がった。もちろんこちらもパウエル議長が直ちに否定したが、人心の移ろいの速さについて驚嘆せざるを得ない。

 このまま購入ペースを変更しなくても国債増発であたかもテーパリングが行われているような需給環境に近づいていく。従ってここから更にあえてテーパリングが始まる理由はない。12月FOMCの「テーパリングを始める場合は余裕を持ってアナウンスする」、1月FOMCの「テーパリングについて話すのは時期尚早」を素直に信用して問題ないだろう。前年のコロナショックで起点が狂っているのでインフレ指標が一時的に上振れても当然無視してよい。

 金融政策が動きそうにないということで、国債金利はひたすらもう一つの変数である1.9兆ドルの追加経済対策の行方を追う形になる。上院民主党は少数派によるフィリバスター(議事妨害)を阻止できる60議席に届かない、辛うじて単純過半数の51議席しか持たないから結局公約推進は難しい、という議論もあったが、結局フィリバスターのフの字もないまましゃんしゃんで進んでいる。上下院で予算決議があっさり可決され、それにより(予算可決を前提として利用でき、フィリバスターを20時間で切り上げることが許される)財政調整法に基づく財政調整措置で民主党は単独で法案を通すことができるようになった。超党派で審議する必要がなくなったので共和党の0.6兆ドルの代案はテーブルから外れ、ただ他の制限により1.9兆ドル満額まで支出できるわけではない。最終的に合意が得られる規模については1.0兆ドル程度から満額近くまで様々な予想がある。もし下限に近い規模となればUSIGの発行ペース減速と合わせると大したネット発行超にならなそうであり、どうも満額近くまで警戒されているらしい中で規模がしょぼければ金利上昇は頭打ちになりそうだが、果たして。
Payroll
 金融政策が動くまで相当遠く、財政の方が注目されていることから、雇用統計の結果に対して米金利は一喜一憂しなくなっている。右の散布図は非農業部門雇用者数(Nonfarm Payroll, NFP)のサプライズとその日の米国10年金利の変動をプロットしたものであるが、雇用指標が悪くても金利が下方向に行かなくなっている。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。