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 各方面をヒヤヒヤさせてきた米金利が新年度に入ってようやく落ち着きを見せ始めた。3月FOMC以降、10年金利は概ね1.6~1.75、30年金利は概ね2.3~2.5のレンジで推移してきたが、足元ではレンジを切り下げている。リオープンを受けた米景気指標の改善が続いているが、概ね米金利には無視されている。テクニカルな調整とはいえNY Fedが発行額に合わせて20年国債の買入れを増やしてTIPS買入れを減らすと仄めかしたこと、先週の30年債入札が極めて堅調な結果に終わったこと、そして日本勢が米国債市場に戻ってきたと噂されているのがその背景と思われる。財務省が発表する対外証券投資(週次)で4月1週目の本邦勢の対外中長期債投資は久しぶりの大幅買い越しになった。

 2月後半からの米国やオーストラリア、イギリスなど各国国債金利の急騰はどうやら日本勢の債券売りが背景になっていたようである。これは対外証券投資の2月分でも確認できる。2020年から日本マネーのオーストラリア国債や州債への積極的な投資が話題になった。10年オーストラリア国債などは10年米国債以上の利回りが出る上に3年までRBAのYCC(イールドカーブ・コントロール)政策で固定されており、従って安心感をもって高い利回り(スティープなカーブ)を享受できるとセールスしやすかった。しかし今年に入ってさらに大幅に金利が上昇し続けると耐えられなくなった本邦投資家がオーストラリア国債をはじめとする各国債券をぶん投げ始めたのがグローバル金利上昇トレンド開始の号砲になったとも言われている。本邦投資家勢がぶん投げた後、2月3月と更に米国を中心に大幅な金利上昇が続いたため遠投しておいてよかった形となる。
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 では3月に金利が十分に上昇したところで買い戻せばよかったかというと、3月は大きな損失を出したら取り返す暇もなく決算に影響して目立ってしまうし、規制当局から期末時点の金利リスクスナップショットを開示させられることになっているので、リスクを取るなら期末が過ぎた後まで持ち越したくなるのが人情である。新年度になった途端に自由度もやる気も増す。いくら金利上昇余地がまだあるとは言っても、金余りは一朝一夕では解消しないので永遠に投げたまま何もしないわけにもいかない。それが4月に入ってからの本邦投資家の外国債券買いの背景だったと推測される。
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 一方、金利の上昇余地は縮まったものの、では直ちに金利低下に勢いが付くかというと、債券の上値追いはもしあっても本邦投資家主導というより、あくまでも縮んだ金利上昇余地をバックストップに買いを入れる他の参加者に頼ることになるだろう。現実的に海外金利は昨年から大幅に上昇しており、ジャクソンホールでのアベレージインフレーションターゲティングの導入や、金余りで米国の預貸ギャップが拡大するから米金利はもう上がらないと漫然と考えてきたコントラリアン(トレンドが始まる前から逆らってきたのでコントラリアンですらないかもしれない)はすっかり会議で発言権を失っているはずだ。代わりに最近はご進講で散々SLRやら早期テーパリングやらと金利上昇ストーリーを聞かされている可能性が高いので、一転して上値を追い掛けられるような気持ちになれるかというとそうとは思えず、「長期金利が安定化する」というのが最も確からしいシナリオではないかと思われる。
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 米10年金利の30年間のシーズナリティ。何もなければ秋まで安定が続くか。

 これから公表が始まる日系生命保険各社の年度運用計画について、米国債投資増への期待が俄然盛り上がっている。もっとも毎年のこれらの公表は金額が大きいと思われる割りには相場を直ちにドライブした記憶はあまりない。まさか発表した後に素直にその通りの投資行動を取るとは思われていないからである。

 さて対外証券投資の中身を原典から当たってみる。冒頭のBloombergチャートにもまとめられた週次統計は投資主体ごとに分類されていないが、月次統計は分類されている
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 生命保険会社は基本的には契約者に対する負債の変動に応じて資産側のデュレーションを調整する。金利の相場勘で売買するというよりも、やるべきオペレーションのタイミングを調整したり、(どこの国の債券を買うか、またどこまで株式に浮気するかなど)資産ごとのアロケーションを調整する程度にとどまる。4月分のデータは来月を待たないと分からないが、2月分も3月分も外国債券を軽く売り越している。新年度に入ってザ・セイホが大挙して米国債購入に動いたかどうかは現時点では蚊帳の外からは分からない。
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 信託勘定は銀行や信託銀行が受託している年金資産を投資するフローを指す。こちらは生保以上に株と債券のアロケーションを政策的に定めるだけであり、中長期的に年金からのフローは概ね安定している。その政策に合わせるためのリバランス作業の一環として株が上がったら株を売って債券を買ったり、逆もしかりで、月末や期末の逆張りフローとしての認識を持たれている。3月分は彼らが期末を前に大幅に買い越している。
Banking
 銀行勘定は銀行や信託の余剰資金による債券投資である。こちらはトレーディング色が強く上下にブレが激しい。前の二つの主体と異なり「切らされる」ことも多々ある。2月、3月と2ヶ月にわたる豪快な投げが観測されている。
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 ついでに、日本に限らず米国など海外年金も今年に入ってから米国債の購入に動いていると言われている。クーポンを取り除くことにより効率よくデュレーションを伸ばせてコンベクシティも効かせられるストリップス債の組成活動は今年に入ってから活発化しており、これは年金基金からの金利リスク需要を示唆していると解釈される。もっとも1月も2月も活発だったのでそれだけを手掛かりに金利をロングしていたら吹き飛ばされるところであった。ただ、いずれにしても国債需要というのは相場勘だけで動くものではなく、金利が上昇したところでは淡々と買いたいのは日本勢に限ったことではない。
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 逆に米国債を売っている主体はというと、ヘッジファンドコミュニティの米国債保有の代理変数であるケイマン諸島による米国債保有額は年初から1月、2月と削減が続く。
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 野村が推測するグローバルマクロ、CTAの米国債ポジショニングもタイミングの違いはあるものの、概ねショートを綺麗に決めてから利食い始めている傾向を示している。ショートがあまりにも綺麗に決まったので、一転して慌ててショートカバーを入れて金利をどんどん押し下げる場面がやってきやすいとは思われない。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。