Non farm payroll
 ワクチン接種が進み経済が再開する米国で5/7に発表された4月分の非農業部門雇用者数(Non Farm Payroll, NFP)は予想外に低調となった。レストランやレジャー関係が再び人を雇い出すに決まっているのだがなぜか滑ってしまった。元々ショートがたまっていた米金利は瞬間的に1.4台まで踏みが連鎖した。
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 もっとも、中身をよく見るとこの指標は親インフレ的であった。リオープンが続いているのは紛れもない事実なので強気な予想を立てていたエコノミスト達の直観通り求人が足りなかったはずがなく、逆に労働者の供給が少なかったから雇用者数が減ったようである。求人労働異動調査(JOLTS:Job Openings and Labor. Turnover Survey)が示す通り、求人数は宿泊、飲食そしてエンターテイメントといったリオープンセクターに引っ張られて堅調である。

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 であるにもかかわらずGSが示す通り、手厚い失業保険給付(Unemployment Insurance, UI)は雇用再開への障害となっている。セクターごとの失業者数/求人数を雇用の引締り度(Labor Market Tightness)とすると、この割合が低いほど雇用が逼迫しており、高いほど求職者が溢れている形となり、左右のチャートとも共通して低いほど雇用が逼迫している。失業保険の補填率(UI Replacement Rate)は労働省が定義する概念であり、週次の失業保険受給額(Weekly Benefit Amount, WBA)がそのセクターの週次(40時間とする)労働収入の何%に当たるかを示す。右図によると補填率の高い職種ほど雇用状況がタイトである。特にレジャーや小売りといった時給が低く補填率が高い職種の採用の失業保険との競合が目立つ。レジャー・ホスタビリティに至っては働かずに失業保険を受給した方が収入が1.2倍になる。一方時給の高い専門・企業向けサービスは700万人程度の失業者の1/3程度しか求人がない。むしろ中期的にはこちらの失業の方がスティッキーになるかもしれない
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 この構図は今に始まったものではなく、リオープン前から雇用人口比率がどんなに低下しても失業給付金との競争で民間賃金は低下していない。フィリップスカーブを嘲笑う動きである。

 リオープンに伴いどう考えてもレジャー需要が高まる中で当該セクターで人手不足となれば当然供給不足に伴い価格は上がりやすくなる。これが、雇用統計が反射的な金利のショートカバーを招いた後に直ちにリフレーショントレードが始まった背景となる。もちろん、バイデン大統領やイエレン財務長官が述べたように民主党政権の失業給付上乗せだけが雇用の回復の鈍さの背景というわけではない(GSが示したように関係ないと言い張るのは無理があるだろう)。学校や保育サービスがリオープンしていないことも女性の職場復帰を阻害しているそうだ。依然コロナが怖い労働者もいるだろう。ただどのような問題であれ供給サイドの問題である限り雇用の低調はインフレ的である。マクドナルドは人手不足の深刻化を受けて時給引上げを発表している
GDPNowAtlanta
GDPNowcastNY
 一方、労働時間あたりの生産性が大して変わらない以上、人々がどのように家計を成り立たせようと総雇用が増えなければGDPは伸びない。Atlanta FedのGDP NowもNY Fed GDP Nowcastも5/7にやや引き下げられている。滑った雇用統計がインフレ的とはいえ、供給サイドに原因があるインフレを金融引締めで対処すると縮小均衡を作ってしまう。従って金融引締めよりも先に労働力を市場から押し出した財政政策を引締めるのが筋である。金融引締めでもし第三次産業の廃業が増えた日には失業保険が切れた後の職までなくなってしまう。

 現に商務省は雇用統計の結果を受けて300ドルの上乗せ失業給付金の撤廃を主張している。現にAmerican Rescue Plan Actの期限を待たずに共和党知事が支配する州を中心に既に6月から失業給付上乗せ分の減額や打ち切りが始まるようである。夏以降には雇用の逼迫の多くは解消される可能性が高く、となれば金融引締めを待たずこの分のインフレ圧力も解消されるだろう。

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