NFP
NFP Investing
 6/4発表の米国の非農業部門雇用者数(NFP, Non-Farm Payroll)5月分は先月に続いて予想以下となった。4月分は一旦壮大な長期金利のショートカバーを招いた後にスティープニングとなり、一方5月分は素直に長期金利の低下に結びついた。経済のリオープンに伴い100万人以上の急回復を狙って長期金利ショートで臨む市場参加者が絶えなかったようで、特に4月分に向けたショートは紆余曲折を経ても助かっていたことから5月こそ「100万人超 or 人手不足でリフレーショントレード」のよい勝負に見えた分だけ、沼は深かったようである。

JOLTS 
 雇用者数の伸び悩みの背景としては明らかに前回の記事で取り上げた「米国の手厚い失業保険が低賃金労働と競合」が続いており、あまり不思議さはない。4月と5月で一体何が変わったと言うのか。原因が供給側にあるならば時間が経てば解決されるはずであり、実は景気の悪化を示唆しているのではないかという懸念は杞憂である可能性が高い。念のためにJOLTSを確認すると、4月分はむしろ伸びが加速している。恐らく市場参加者のNFPへの期待はJOLTSに近いのだろう。
Unemployment Job Open
 失業者は依然1千万人近く存在しているが、失業者数と求人数の比率は1.06まで低下してきた。これは選ばなければ(ミスマッチがなければ)だいたいの失業者は職を見つけられることを示唆する。この水準まで低下するのに前回の金融危機からは7年かかった。
Hourly
 平均時給も急加速こそしていないものの伸びている。平均時給は低生産性の職が失われると上昇し、逆に低生産性の職が増えると低下する傾向もあり素直なデータではないが、業種別の数字を並べればその癖は緩和される。
Quits
 恐らく好待遇の求人が増えていることから、自発的な離職率も上昇している。コロナショック直後に労働者が職にしがみ付いていたのと対照的である。

 というわけで需要サイドは依然堅調であり、雇用市場からデフレーショナリーな兆候が見られたわけでは全くない。特にサービス業は労働者が集まらないからと言ってまさか海外に商売を取られるわけでもない。

 デフレーショナリーな解釈として本ブログの前回の記事は「労働時間あたりの生産性が大して変わらない以上、人々がどのように家計を成り立たせようと総雇用が増えなければGDPは伸びない」を挙げており、インフレ―ショナリーな解釈にも与しないし金融引締めにはもっと繋がらないとしていた。これが結果的に6月の方向性とマッチした形となる。また前回の記事では「金融引締めよりも先に労働力を市場から押し出した財政政策を引締めるのが筋」としていたが、現に金融引締め期待が後退する横で6月に失業保険給付上乗せ停止予定ラッシュが来ている。筋論に沿った展開は双方向への極論を後退させると思われる。

 一方、どちらサイドの問題であるにせよ、雇用の数字がそれこそ100万人超えレベルのパーフェクトゲームを示現しないことはFedに金融引締め開始を急がない言い訳を与えることになる。Fedはこの辺りの数字についてForecastではなくActualを見ると言っているので、JOLTSなどとの合成パーフェクトゲームではなく本当のパーフェクトゲームを確認して初めて個性を出す(パウエル議長が示唆したように特定のグループの雇用にスポットライトを当てるなどの論法で更に引締めを遅らせる選択肢もある)ことになっているはずであり、それまでは判断すら始めづらい。少なくとも6月FOMCには間に合わなかった。となると長期金利ショートが報われるのは早くても2ヶ月後のジャクソンホールになってしまう。元々ショートと言うくらいなので速やかに報われないとキャリーに負けてしまうわけで、全員で2ヶ月間長期金利ショートを引っ張れる見込みが低下すると踏みの連鎖を招いた形となった。一方景気期待の方は合成パーフェクトゲームで走れるので金利低下と合わせてゴルディロックスが優勢になったのは不自然ではない。

 しかし、長期金利と言うくらいなので長い目で見てテーパリング匂わせが2ヶ月や3ヶ月遅れたところで、最終的にはどこかで合成パーフェクトゲームの方にActualも収斂する可能性が高いとなると、6月FOMCやその後のFedイベントがダメ押しの金利低下イベントになる期待値もあまり高くないというのが雇用周りからの示唆になるのではないか。一方その上で、失業保険給付上乗せ停止に伴い6月分か7月分で本当に雇用爆増パーフェクトゲームが来たとしてもそれは「ようやく来た」形となり、以前ほど長期金利ショートの情熱をかき立てるものではなくなりそうだ。結局いずれの方向についても極論が排除される形になると見ている。

関連記事

米国の手厚い失業保険が低賃金労働と競合
米国の大失業時代と「在宅に売りなし」

この記事は投資行動を推奨するものではありません。