PMI drop china_1
 中国景気について長らく更新していなかったが、基本的にこの間エキサイティングな話は何もない。2月時点で本ブログはその後の中国景気の展開を完全に規定していた。あれからコロナワクチン接種はハイペースで進んだものの、今度は変異種に対して中国開発ワクチンの効き目が弱いという新たな問題が出てきた。前回の記事では「肉弾戦」と表現していたが、先進国がリオープンに向かう中で断続的なロックダウンが続いている。人の移動が盛り上がらなければサービス業は当然盛り上がらないし、そもそも1月の記事で取り上げたように諸外国と違って個人へのばら撒きがほとんどなかったので、各主要経済体の中で一人ペンドアップデマンドがないのは当然である。5月のゴールデンウィークでは国内旅行人数は2.3億人と辛うじてコロナ前の水準と並んだが、旅行収入はコロナ前の77%となっている。競合する海外旅行が完全になくなったことを考えると半端ない旅行需要の戻らなさである。
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 6月分の財新サービス業PMIは先進諸国のサービス業PMIがリオープンで盛り上がる中で分岐点の50近くまで低下している。消費の回復の弱さは多くの市場参加者にとってネガティブサプライズとなった。中身を見ても新規事業も雇用もパッとしない。
Manu Sub
 製造業の方は諸外国のリオープンを受けた輸出特需が一応続いており、サービス業の弱さと逆転することになった。この構図は2月からあまり変わらないサービス業の雇用は期待できないので、雇用は製造業の弱い輸出成長を頼りにする形となる。先進国はちょうど供給力がボトルネックに当たっており需要だけが先行しているのでアジア諸国はその恩恵を受ける。もっとも新興国の回復が変異種の拡散などでやや雲行きが怪しくなっており、先進国の供給力も時間が経つにつれて回復するので輸出特需は一時的なものと見るべきだ。
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 輸出の大企業が多いとされる国家統計局の方のオフィシャル製造業PMIに至っては新規輸出受注が既に水面下に沈んでいる。

china CPI june 2021
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 一方、原材料の高騰は需要が危うい中国企業に更に打撃を与える。中国の5月PPI伸び率は例にもれずリーマンショック以来の水準まで高騰しており、ついに中国発のインフレ懸念が来たかと議論を呼ぶことになった。現にこれまで中国PPIと債券価格の連動性は高かった。一方、(もちろん豚肉価格が落ち着いたのもあるが)消費者の弱い購買力を反映する形でCPIは低迷している。非常に大雑把な議論となるが、海外と中国の景気格差、物価格差により中国製造業は引続き国内販売よりも先進国への輸出を選好する傾向が続くだろう。輸出特需が減速するとその傾向は一層明瞭になると思われる。
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Profit expectation
 幸い、中国の鉱工業利潤は海外への輸出で荒稼ぎしており、この利潤はやや遅行であり先行するデータを見ると直観通り持続可能ではないという見方が多勢であるが、輸出特需が鎮火するのに伴い値下げで利潤を圧縮できる幅は大きい。
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 現に中国製造業も特需が一時的であることをよく分かっており、高い利潤は設備投資の拡大に結び付いていない。
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PMI price paid 
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 PPI自体も中国当局の価格安定のための国家備蓄放出で鎮火が近そうである。公式PMIの支払い価格は6月になって低下している。更に内需が期待できない中、輸出競争力を喪失すると大変なことになるのは当局もよく分かっており、深圳市などでは賃金抑制に動いている。もとより中国の米ドル建て最低賃金はパプアニュージニア並みであり、タイやマレーシアよりも低い。
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 中国発のコンテナ運賃も爆上がりしており中国発インフレを印象付けたが、こちらは広東省のロックダウンで港湾機能が低下した影響が大きそうであり、一時的なボトルネックに分類される。ボトルネックは一時的なインフレに寄与するが、その寄与の仕方は単純ではない。自動車などは半導体が足りなければ完成しないのでその間他の裾野の生産活動も止まる。

 消費も輸出も期待できないとなると、残る景気牽引策は土木工事しかない。しかし今年に入って以来財政赤字の縮小と不動産引締めが続いており、こちらも中国発インフレを牽引できそうにない。本土系メーカーに押されているというのもあるがコマツは中国の建機需要が想定よりも落ち幅が大きいと見ている。KOMTRAXの建機稼働率の中国部門も春以降不調である。どの切り口から見ても中国からはデフレーショナリーなストーリーしか出てこないそもそも外需依存なので、レポートなどで惰性で「米中が牽引する経済回復」というワーディングを用いている人はそろそろ「中」の文字を削除すべきである

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。