HSI
 中国、香港株は本ブログが予想した通り、依然苦戦が続いている。最高値更新が続く米株を横目にハンセン指数(HSI)は3月以降の水平レンジを下に抜けた。ハンセン中国企業指数(HSI)のチャートは更に悪い。4月の記事「中国、香港株は依然チャートが弱い」からハンセンの29,700突破を上昇トレンド復帰の必要条件と言い続けた。その後グローバルのリスクオンや発作的な資金流入によって29,700を試そうとした素振りはあったものの、5月の記事「チャイナテックは引続き当局の圧政に苦しむ」で「もし29700突破が成れば3万ポイント台で定着しない法則をひっくり返す可能性は引続き期待しているが、それまでは良くてレンジ取引ということになりそうである」としていた通り、29,700突破まで手を出さないと決め込んでいれば今回の急落を回避することは難しくなかった。

 テクニカル要因だけでなく中国株不調の背景にあるファンダメンタルズについても、「センチメント改善のきっかけは政権交代くらいしか思い付かない」と極論まで飛ばした現政権への圧倒的な不信はその後のトラップ回避に大いに役に立った形となる。「一応7/1の共産党100周年をすぎればある程度の政治面の大らかさが戻ってくるか」ともしていたが、少しでも期待していたのが間違いであった。7/1を過ぎて金融面ではややサポーティブに転換したものの、チャイナテックへの圧政はむしろ7月に入って最高潮に達した。

 6/30にNY市場に上場したDIDIに対して中国当局は7/2に新規ユーザー登録禁止7/5にはアプリストアからの削除その辺の上場ゴール案件も青ざめるほどの厳しい締付けを行った。サイバーセキュリティ調査とのことであるが、根拠の一つに国家安全法も挙げられており、これはアリババなどが罰金で済ませた独占禁止法違反よりも重大な問題である。これをただの個人情報保護問題や先日のアリババへの調査への延長と思っていると事の重大さを見誤ることになったため、出尽くすまでやや時間(つまり値幅)を要した。また罰金もようやく一段落したと思われていたところであったため、投資家の心を折るタイミングであったことは間違いない。DIDIの最大株主はソフトバンク・ビジョン・ファンドであるためソフトバンクと日経平均まで被弾することになった。また余ったお金で新興企業に投資してきた投資収益への依存を強めているテンセントも大株主として被弾した。

 上場への嫌がらせとしか思えないタイミングでの調査となったが、昨年上場を阻止されてその後規制を強化されたアント・フィナンシャルの例を思い出すと必ずしも海外の上場株投資家に損させるのを目的としていたわけではない。DIDIの場合も調査の必要があるので数週間前から上場を延期するよう提案されたようだが、DIDIが上場を強行したので雷が上場後に落ちることになった。事情は毎回概ね共通している。元々中国の道路や移動情報などの国防にかかわるとされる(個人情報よりも重い)データの扱いが問題視されているのに、この忖度拒否が当局を激怒させたのは当然である。問題の根源となった中国テックの海外上場への規制体制自体も見直されようとしている米国側からも監査が不十分な企業を上場廃止にしようという動きがある中で、総時価総額1兆ドルを超える米国上場の中国テックADRは内憂外患に挟撃されることになる。

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CWEB vs Peers
 本ブログでは「香港、中国のニューエコノミー株は少なくともUSピア対比で持たざるリスクをあまり感じない状態が続いている」としてきたのでここは鼻高々になってもいいところであるが、ここまで極端な展開は想定していなかった。特にテックレバレッジETF同士で比較してCWEBのこれはさすがにこれは事故レベルだろう。対数グラフでこれである。運悪く規制が直撃したCWEBと比べてCXSEは分散が効いている分だいぶ堅調であり、ハンセンとも違って概ね横ばいを保てたが、それでもSPY対比で伸び悩んだ形となる。
Ranking
 さて、センチメントが引続き悪い=一層のリスクプレミアムが要求されるのは当然だとしても、中国株は既に事故レベルまでの対米株のアンダーパフォームの結果、割安になっている。アリババはかつてグローバル時価総額ランキング5位まで食い込んだことがあったが、今はトップ10からも脱落している。米国上場が困難になれば、これまでテックジャイアントが投資していた未公開企業は本土市場でより低いバリュエーションで上場せざるを得なくなり投資収益が伸び悩む可能性がある。しかしチャイナテックの本業が堅調なのは変わらない。アリババとテンセントの2022年フォワードPERは21と24まで低下しており、非テックまで広げると平安保険などは6である。ここまで被弾せずに済んでいるならリスクプレミアムを取りに行く価値はあるのではないかと思われる。

 引続き絶好調のUSピア対比でもアウトパフォームするか、とまで言われるとまだ微妙である。懸念点がなければ、上がりきった米株からの染み出し効果が米国以外にも現れてくる(昨冬はそうだった)ことも期待できただろう。実際、過去のグローバル株大天井ではだいたいハンセンが最後にぶち上がってきた。一方、今回は明確に懸念材料があった。短期的にはむしろ文句の付けようがないGAFAMをとことん引っ張りつつ、過熱感警戒でベータを落としたければ少しでも問題が出てきた組から順に蹴り落としていくのが最も居心地のよいポジショニングになってきたように見える。その流れからの反転は容易ではない。米株がクラッシュしても「時間が戻った、もう一度投資をやり直せる」くらいとしか思えないが、中国の場合は当局が本当に退化することもある。

 しかし、かと言って中国株がここまで大幅に下がった後にまだ本ブログの口癖である「持たざるリスクがない」のが続くかというと、さすがにもう持たざるリスクも出てくるだろう。これほど短期間に悪材料が集中したのも珍しいくらいであり、ここまでポジションが振り落とされた後はさすがにもうリスクが限定的に見える。
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 本ブログが区切った7/15の遥か手前でサプライズで実現したユニバーサルなRRR Cutなどは期待しすぎると期待外れに終わることもあるし、当局全体が急にビジネスフレンドリーに転換したことを必ずしも意味しないが、これほど豪快にぶん投げられた後は限界的なポジティブサプライズも素直に受け取られると期待できるだろう。今までの急落を回避できていれば長期投資で配置する価値はあるように思える。むしろ、中国・香港株は2007年以来反発や上昇を追いかけてもあまりいいことがある印象がないので、こういう急落時にだけ拾うようにしたい。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。