China Default Nikkei  
 中国の内需については既にさんざんこき下ろしたが、それと並行して中国企業のデフォルト増加も話題になっている。中国は2020年にデフォルトが急増しなかった代わりに、2021年になっても2020年を上回るペースでデフォルトが続いている。
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 フィッチが各年1H同士で比べたデフォルト額面も概ね同じ推移となっている。
China Default bbg
 Bloombergの統計は4月分までしか見つからないが、こちらも似たような傾向を示している。
Nikkei HY Spread
 先進国は軒並みデフォルトが急減しているので中国のデフォルト増は完全に一人浮いている形となる。その結果ドル建てハイイールド債利回りで見ると、グローバルで当たり前の低下(信用の改善)が続く中で、中国企業だけはコロナショック最中と比べても利回り拡大が続く。これは調達サイドの中国企業から見ると資金調達コストがどんどん高まっていることを意味し、投資家からすると新たにエントリーするなら利回りが上昇しているものの、過去から投資していた投資家にとってはキャピタルロスが発生することを意味する。そこまで中国経済の現状が悪いのか。

China Default1
China Default2
 フィッチによると、デフォルトが増えた分は国営企業(SOE)が中心である。デフォルト金額も件数も民営企業は2019年がピークであり、一方金額は国営企業も民営企業も2020年から微増であり、件数で見ると2021年になって国営企業が急増している。2020年の国営企業のデフォルトラッシュ及びそれ以前のデフォルトの歴史については昨年の記事が詳しい。昨年は確信犯が多かった。2021年については日経の記事は「国有大手はデフォルトしないとの神話のもと、企業は債務を積み上げてきた。モラルハザードを問題視した政府が改革に乗り出した」「大型国有企業の相次ぐ不履行は、モラルハザードを打破しようとする政府の債務整理策の一環だ」と表現する。つまりマクロ環境の悪化や資金繰り環境の悪化の結果、仕方なくデフォルトが増えたというわけではなく、当局による「モラルハザード防止」のための確信犯デフォルトである

 2021年4月から中央政府は地方政府が暗黙の保証を与えて資金調達に利用してきてLGFV(地方政府融資平台)の整理を改めて強化し、隠れ債務の増加とそのための融資を厳禁した。それにより当然LGFVのデフォルトは増える。また格下げラッシュも続くだろう。LGFVが地方政府の暗黙の保証から切り離されてしまうと、残る道は①政府に救済を求める②本業を頑張ってBSを頑健にする③デフォルトしかないが、①は期待薄、②は無能揃いのイメージしかないので期待薄、という整理である。しかし、このデフォルトラッシュは完全に当局(国務院)が平地で乱を起こしているだけであり、「LGFVの整理を再開できたということは経済が回復しコロナ後の特殊時期は終わった」象徴としてポジティブに捉えるほどの気分にはなれないにしろ、マクロ環境の悪化を示唆するものでもない。LGFVは往々にして情報公開が不十分であり外国人投資家はあまり投資できないので、海外に波及する可能性もない。LGFVはこれから役割を地方債発行にリプレイスされる予定の市場なので見捨てられる理由しかないが、これから育てたい地方債市場は必ず守られるので、地方債にすら波及することはないだろう。
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 華融の償還能力問題も本ブログの中ではとっくに終わった話だと思っていたが、どうもその後もダラダラと続いているらしい。実は華融はその後、何の問題もなく粛々と社債を償還しているのだが、当局が出来もしないくせに無意味に「債券保有者に大きな損失を強いる計画」を匂わせたりするせいで、社債は償還発表が来るまで投資家に信用してもらえない。この件は劉鶴が担当しているそうだが、「劉氏は誰でも救済するという姿勢ではなく、モラルハザードも好きではない。一方で、金融危機の引き金も引きたくない」とのことであるが、どうせ引き金を引けないチキンなのに口先だけ脅しを入れて投資家を不安にさせることに意味があるとは思えない。単に他の発行体のファンディングを無意味に妨害しているだけではないか。もともと中国共産党関係者が乱脈経営を中から外からと要求したり、気まぐれに介入して資産価値をぶち壊していくリスクが伴う計画経済市場の中にあって、その政治リスクと釣り合ってきたのが最後には当局が責任を取って救済してくれるという「信仰」である。「信仰」を取っ払ったら一体何の取柄が残るというのか。企業経営が「市場化」されていないのに資本市場だけ「市場化」されてもゴミの山が残るだけではないか。

 いずれにしろ、今回のデフォルトラッシュは当局による確信犯であり、以前2019年に地銀が連続破綻を起こした時と異なりインターバンク間で相互不信や信用収縮を引き起こすには至っていない。また先日のRRR Cutなどで金融引締めが和らぐ方向性も(深読みや連想は厳禁であるが)見えており、デフォルトラッシュを過度に恐れる必要はなさそうである。
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 クレジット方面で他の市場の参加者が最も注目すべきのはあくまでも不動産業界である。こちらも銀行融資の更新を断られたりして厳しい財務運営が続く。四川省の新興不動産企業「藍光集団」のデフォルトが話題を呼んだ。また中国で最も債務が重い超巨大デベロッパーである恒大集団(Evergrande)もBS縮小に四苦八苦している。不動産価格は勢いが鈍りつつも上昇が続いているので、本来債務が多ければ多いほど、BSが大きければ大きいほどより儲かるだけであったはずであるが、こちらでも当局が銀行に不動産企業及び住宅ローンに融資総額規制を敷いて火遊びしている。郭樹清・銀保証監会主席は「不動産価格が永遠に下がらないとベットする人は重い代償を払う」と言っていたようだが、現に代償を払ってきたのは不動産価格が下がると思って家系ごと転落した人の人生である。なので、不動産企業を虐めて重い代償を払わせたところで、結局不動産価格はディザスターでしか下がらない。BS拡張が無リスクではないと教訓を与えるだけで済むならよいのだが、起こした乱を当局は対処できるのか。巨大不動産企業の経営危機が起きたり、ないしはデフォルトラッシュが始まったり在庫処分で不動産価格が下落に転ずると、予定調和的なLGFVと違って多方面に波及する可能性を秘める。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。