Asian cases
 6月以降グローバルでデルタ変異株の流行がゆっくりと進行している。これまでも米国や欧州で変異株や第二波が話題になったことはあっても大がかりなリスクオフのきっかけになったことはないが、後になって慌てることにならないためにも予習が必要に思える。筆者は医学には全く知識がないので、数字の議論のみ行う。以前の流行と異なり様々なワクチン接種が進んでいる中での流行となり、以前のように陽性数増→やや時間をおいて死者増というシンプルな展開を辿るわけではない。

 上のチャートで見ると多くの国でシンクロして陽性数は増えている。EUROのマスクなし観戦などリオープンを強行するイギリスが真っ先に感染者、死者共に急増している。東南アジアは2020年に経験したことのないペースで感染者数と死者数が増えている。独仏は感染者数は増えたものの、死者は増えていない。オーストラリアは少しだけ死者が増えている。教科書的には死者数は遅行指標であり、死者が増えていないからと言って感染者数を軽視してはならないということになっているが、チャートを見ると教科書通りに遅行しているのはオーストラリアくらいであり、他のケースではあまり遅行していないのが興味深い。

Variant
 インドで始まったデルタ株が各国に伝播するタイミングは微妙に違っており、流行れば既存種を駆逐するとされているし現に多くの国で症例の大半を占めることになったが、相対的に独仏で目立って少ない。
Hospitalization
 金融市場は経済制限(ロックダウン)を嫌うだけで、死者数を気にしない。とすると金融市場に影響を与えるのは病院のキャパである。国によっては政府が経済再開(リオープン)を重視することもあり、従って感染状況の良し悪しだけで判断することはあまり役に立たないが、病院のキャパがいっぱいになったら内心どんなに市民の生命を軽視していようと対策しないといけない。というわけで上が先進国諸国の入院者数と、中でも重症でICU入院者数の推移である。やはりイギリスが最も危うく、2020年のピークを超える頃には今のリオープン突撃路線を修正せざるを得ないだろう。独仏と米国はまだ余裕がある。大陸欧州はアストラゼネカ製ワクチンに文句を付けて「米国より大幅に遅れた」ものの、4月から接種ペースが大幅に上がり、途中でmRNAワクチンも手に入って優等生の地位から動く気配がない。
Asia ex china total cases
Vactination share
 東南アジア諸国は明らかに2020年に経験したことのない感染者数となっている。これは人口が多くワクチンが行き渡っていなかったからである。一度は医療崩壊したもののその後ウヤムヤで終わった元祖インドと異なり、この辺りは真面目にロックダウンして肉弾戦を行っている。ワクチン接種が進んでいればたとえ陽性数が増えても重症化しづらくなるはずだという期待もあるが、最もワクチン接種が進んだイギリスでもそれなりに重症者が増えていることは、ワクチン接種が相当進んでも種類によってはフルオープンがまだ早いことを示唆する。もっとも東南アジアにしろイギリスにしろ、ワクチン接種済の集団の間で感染が爆発して重症化が進んだという話ではなさそうである。mRNA系ワクチンを大々的に導入した国はさすがに安心感があるが、それ以外のワクチンしか入手できない国は多かれ少なかれ中国と同類の肉弾戦の続行を迫られる。接種率すら低かったら尚更である。なぜか接種が進まないオーストラリアが神経質になっているのもそういう背景だろう。リオープンプレイが許されるのはmRNA組に限られる
Vaccination
US vaccination by state
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 ワクチンの接種ペースはいま頑張ってキャッチアップする国もあるが、先行組でも過半数の接種が進んだところで希望者数の限界に当たってペースが鈍っている。米国においても多くの州でその傾向は明らかである。日経は二極化と表現する
US vaccination by state2
 米国では何の疑念もなくmRNAワクチンが行き渡るはずであったが、接種意欲が州によって分断されているのがボトルネックであり、接種が遅れている地域でワクチン未接種者の間で感染が拡大している一部地域のマスク着用の再義務化がセンチメントを悪化させてリスクオフのきっかけともなった。ハナから経済重視の米国は今更再ロックダウンなどできるわけがない、と決め付けると後日浅慮がすぎると怒られる可能性が残るが、さすがに入院者数を見ても再ロックダウンまでは相当余裕があると思われる。マスク再義務化はあくまでも象徴的な出来事であり、米国にしろ新興国にしろ、完全な正常化まで一筋縄ではいかないことを示唆しているにすぎない。デルタ株の集団免疫を獲得するのに人口の80%がワクチン接種を済ませる必要があるようで、接種意欲の壁を考えるとこちらへの道は案外長く、多くの国で絶対多数のワクチン接種による集団免疫獲得を諦めて騙し騙しで経済再開を続けることになりそうだが、そうなるとゼロ・トレランスの国々との間の人の移動は長く遮断されそうであるし、諸事情でワクチンを打たなかった人々がリオープンした街を歩いて移される危険性はむしろ昨年よりも遥かに高くなっている。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。