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CWEB
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 やはり触らない方がよかったと言うしかない。本ブログがDIDIについてようやく調べ終わったところで、更に教育機関やデリバリー業界への圧政第二弾、第三弾が続いている。本ブログは当局の圧政の流れを5月から取り上げ続けたのに、やってきたバーゲンセールで目が眩んでしまったのは失敗であった。何ならバーゲンセール後の下落幅の方が大きい。


Edu
 7/24に中国国務院は学校教科の個別学習指導を提供している全ての機関が非営利団体として登録され、新たな営利団体としての設立を禁止するなどの新規則关于进一步减轻义务教育阶段学生作业负担和校外培训负担的意见)を地方政府に通知した。教育機関はストーリーも描きやすく海外投資家にも注目されていたセクターの一つであったが、「意見」一枚で痛みを感じる暇もなく即死した。中国が人口減に転じたのではないかという観測が4月にあって衝撃が走ったのは記憶に新しい。翌月には子供3人目まで容認するとの政策を打ち出したが、誰に聞いても「教育費が高すぎて容認されても子供を産もうと思わない」との反応だったので、では教育費を引下げようと教育企業の規制に乗り出した。少子化対策からの連想ゲームで教育機関即死に辿り着くのは難易度があまりにも高かった。非営利団体として登録された後、料金体系は地方政府が決定するとのことである。

 教育費引下げ自体の是非については、「従って世間で不評になり撤回される」という結論にでも結びつかない限り、議論するだけ時間の無駄である。塾の負担が重いのは事実であるが、それはそれだけ教育のリターンが見込まれているからである。教育のリターンへの期待が高い文化的背景の根深さについてもここで論ずるつもりはない。新東方(EDU)などは1990年代以来の中国人留学生のTOEFL, GRE高得点の最大の産みの親でありコンテンツは悪くなかったはずだ。大規模な教育機関が一斉に休日や夏休みの講習を減らしても、保護者は余った時間に他の学生を出し抜こうと闇マーケットでより高い家庭教師を探すに決まっている。従って教育費は更に高騰し、学生が受けられる授業の質は更に劣悪なものになる。このような思い付き一つで出生率が上がるなら昔の計画経済も行き詰まっていない。

 いずれにしても、問題はそこではない。曲がりなりにも1000億ドル市場に成長していたセクターが「意見」のペラ紙一枚で消滅できるのである。米国なら企業が規制の取消しを求めて法治社会の枠組み内で提訴することもできただろうが、中国では業界の方も抗議などできるわけもなく直ちに「意見」への恭順を争って表明している。企業経営者の私有財産や基本的人権が不可侵でないがゆえに株主まで私有財産破壊の道連れになっている。これでは中国の他のセクターへの投資を考える時もPERも何もあったものではない。米銀が一斉に中国ADRから逃げろと推奨しているのは、通常の銘柄分析では予想できない政策リスクを負って即死できるリスクを考えると当然である。政策リスクを真面目に分析しながら投資しろというなら当然相応のリスクプレミアムが要求される。DIDIへの迫害の後に中国ADRから上手く逃げ切った高名な巨大グロースファンド、ARKのキャシー・ウッドがValuation Resetと表現したが、まさにそういうことである。なお米株への波及が今のところ隔離されているのはARKが上手く逃げ切っていたおかげでもあるかもしれない。またARKが範を垂れる形で売って値幅を作った影響もあり他の機関投資家も中国ADRで大真面目に政治リスクをトレードせざるを得なくなった。

 中国ハイイールド債の記事では「もともと中国共産党関係者が乱脈経営を中から外からと要求したり、気まぐれに介入して資産価値をぶち壊していくリスクが伴う計画経済市場の中にあって、その政治リスクと釣り合ってきたのが最後には当局が責任を取って救済してくれるという「信仰」である。「信仰」を取っ払ったら一体何の取柄が残るというのか。企業経営が「市場化」されていないのに資本市場だけ「市場化」されてもゴミの山が残るだけではないか」としていたが、株の方で海外投資家が政治体制の悪臭に対して鼻をつまんでくれる理由は民間企業のなりふり構わぬ速い成長である。それがなくなるとこちらも海外投資家から見てただのゴミの山と化する。

 その後当局は更に美団などのフードデリバリープラットフォームに対して「配達員の所得が現地の最低賃金を下回ってはならない」「配達員の社会保険加入」などの「意見」をぶつけているが、もはやこのあたりになると真面目にニュースをチェックする市場参加者すら減ってしまった。巨大プラットフォーマーによる独占が目立つ「プラットフォーム経済」について習近平が規制と整頓を初めて示唆したのは3月であった。習近平自身の発言はどんなに深読みしてもプラットフォーマーに対してそこまで敵対的ではなかったが、一旦規制の方向さえ示してしまうと担当部局である中央網信弁公室などの暴走が始まる。規制案件を立ち上げるごとに肯定的な反応が示されたりすると暴走は加速しやすいし、DIDIのような「海外上場取消しを匂わせたのに言うことを聞かなかった(それも共産党設立100周年式典の前日である)」ケースでは担当者にも監督の厳しさが足りないとの怒りの指導が入り、その分次の施策は厳しく大掛かりになりやすい構図もあったと思われる。

 エドテックにしろプラットフォーマーにしろ、もし中国本土で上場していたならばせめて株主を人質世論の味方にすることができただろう。しかし中国企業がファンディングで依存していないCNHがたびたび官製ファンディングスクイーズに遭うのと同じ道理で、香港株と米国ADRの株主は圧政を食らっても中国から遠すぎて怒りを表明する場すらない。代わりに、乱発されるテック業界への圧政は海外投資家からの中国の投資環境への信頼感をゼロまで低下させるオンライン教育大手にはタイガー・グローバル・マネジメント、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスとGIC(政府投資公社)、ウォーバーグ・ピンカス、ソフトバンクグループのビジョン・ファンドなど錚々たるメンバーが投資している。米中対立で中国へのエクスポージャーが警戒される中でも周囲からの有形無形の圧力や疑問に耐えて中国エクスポージャー維持を決め込んだメンツである。これらの「親中」投資家を一網打尽にして見離されるリスクについて中国当局は明らかにアセスメントを行わなかった。行ったとしてもその結論は内向きに指導部の意向を読むことに比べて優先度が低いものとされた。

 あまりにも解釈に苦しむレベルの愚行なので逆に中国当局の真意を深読みする声もあるが、海外からの投資が完全に止まるほどのリスクを冒して弄すべき策略など存在しないので、安心して「何も考えていなかった」と決めつけて差し支えない。この資本市場への影響に対する配慮のなさは指導部の知能が劣化しているか、従順でない、空気を読まない政治家、官僚の粛清を10年間も繰り返してきた現政権の下にあってスタッフの劣化が止まらなくなっている可能性すら示唆される。もしそうであれば、現政権が続いている間に中国投資に興味を持つべきでないだけでなく、習近平が退任なり失脚なりした後すら、政治の空気を読むことにしか関心がないスタッフばかりが残された局面を想像する必要がある。以前の記事で冗談半分で「ファンダメンタルズ的にはセンチメント改善のきっかけは政権交代くらいしか思い付かない」と書いたことがあるが、指導部がもしかしてクレイジーではないかと思った時、牽制が効かないだけでなく政権交代も期待できないのは中国の弱みとなる。

 中国の将来はともかく、投資家としてはどうすべきか。RRR切下げのポジティブサプライズは忘れ去られてしまっている。RRRの記事で「中国株の目下の最大の懸念材料はあくまでも中国政府による規制なので、RRR切下げは株価に対しては大してインプリケーションを持たない。中国は計画経済なので政府は様々な分野に直接介入ができ、施策の方向に統一性を期待するのは難しい」と、RRR切下げが全面的なビジネスフレンドリーへの転換シグナルではないとしていたところまでは全く正しかったが、そこまで考えた挙句にバーゲンセールに目が眩んだのは失敗だった。仮に指導部が朝起きて急に反省して今までの圧政を取り下げたところで全戻しするかというと微妙であり、その上で取り下げよりも新たな圧政がやってくる可能性の方が高そうとすれば尚更V字回復の見込みは立てづらい。
AH premium
 指導部は明らかに香港市場と米国ADRを舐め切っているので、彼らが痛みを感じる上海市場と人民元レートへの波及が起きてからの火消しというのが期待できる最善のシナリオか。上海株に波及すれば民意に関わってくるので、資本市場に与えたインパクトについて指導部にもご進講が入るだろう。或いは先進国では考えられないことだが株のクラッシュが国債市場に流動性枯渇という形で波及すればさすがにもう少し実務的である中銀が動かざるを得なくなる。路線変更が発表されるまで、安さゆえのテクニカルな反発があっても海外からの本格的なインフローが戻ってくることはなさそう、というより火消しが出てきても長期的には戻らなそうであるし、どちらかというと信頼感を失った海外勢のキャピタルフライトを心配した方が早い。皮肉なことに投資家が大損したら社会問題化できるという抑止力を持っている上海株の方が安心感があるように感じる(実際A-H Premiumで見ても近年上海株の割高化が続く)。香港市場はともかく米国ADRには国家隊も入りようがないし、まさかARKに売り禁を命令できるわけではない。教育業界が「資本に乗っ取られた」と言ってもその資本が中国本土の個人投資家の集合体なら少なくとも敵のような扱いは受けなかっただろう。

 とはいえ、圧政の集中砲火を浴びてレバレッジに誘爆したCWEBなどは今からぶん投げるにしてもさすがに手遅れ感があり、バリュエーションの切り下がりも永遠には続かないとの信仰に頼って火消しを待つしかないか。米国当局が中国資産への投資を禁止しようとしているとの噂まで流れたが、上の議論だけでクラッシュを解釈できる中、次々と便乗して出てくる噂に乗っかって下を売ると極論の剥落によって焼かれることもある。即死したエドテックはともかくプラットフォーマーはさすがに取り潰しまでは行かないと思われ、「予見不可能性」を理由に全セクターのバリュエーションが一斉に切り下がった後は、チャイナショックの時と同様に予見不可能性は時間をかけて低下してくるため相関も解れてくると思われる。アリババ、アントから始まりDIDIそしてエドテックへの一連の制裁はそれぞれ理由がバラバラである(もちろん、想定以上の相関を産んだのは担当部局の想定以上の連続暴走である)。メガテックのヘルスケア子会社などは今のところ「人口問題に悪影響を与えるもう一つの高コスト領域」への連想売りにすぎない。なので買うにしても売るにしても弾が飛び終わるのを待った方が合理的に見える。代わりに世界中の投資家もそこまで健忘ではないので今年春のような中国株バブルはここから数年はないだろうから、長い不人気な鳴かず飛ばずを経ていつコストまで戻ってくるかの敗戦処理が続くイメージになるか。何らかの路線修正が見られた後はともかく、いつバッドニュースが止まるかも見えない間の資金追加は危険である。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。