中国の米国債購入は再び増加している

 我々は、中国が資金流出に苦しんでおり、外貨準備高を減らしながら(米国債を取り崩しながら)ドル売り人民元買い介入を続けているというイメージを長らく持ち続けてきた。今年年初から外貨準備高が3兆ドルをぎりぎり割らないところで反転したのを見ても、どうせ公式発表は3兆ドルを割らないように粉飾しているのだろうと考えてきた。ところがここに来て、米国財務省発表(!)の対米証券投資統計によると中国の米国債購入は実際に2017年に入ってから再び純増に転じている。中国当局には人民元売り・ドルの買い戻しを行えるほどの余裕が出て来たようである。
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外貨準備を消費しなかった人民元高誘導

 中国当局は5/26に人民元の基準値算出に「逆周期因子」(反循環要素、counter-cyclical factor)を導入すると発表した。これは直訳すると市場のモメンタムに逆らって基準値を決めるというもので、早い話、人民元高方向に動くのが「正しい」のに市場が「間違って」人民元安方向に動いた時にそれを「是正」する。2015年8月のチャイナショックを招いた基準値算出法改革では「市場の前日終値を参考にする」、つまり人民元安方向に動いたとしても基準値も逆らわずに追随するものであったのに対して、今回の再変更は介入の再強化である。とはいえ、基準値だけ市場実勢から乖離したところに置いても意味がないため、これは基準値に市場実勢を持ってくる実弾介入の強化を意味するものだと思われていた。メディアは当然非難轟々だったし、筆者も介入の強化を外貨準備の更なる浪費だと考えていた。しかし、蓋を開けてみると「人民元相場は堅調なファンダメンタルズ対比で安すぎる」という当局の自信は正しく、人民元は素直に対ドルで上昇し、外貨準備も増えている。これは人民元買いドル売り介入額の増加がないどころか、ドル買い人民元売りの逆介入すら行われていたことを示唆している。
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Fed利上げでも追いつかない米中金利差拡大

 実際、2017年に入ってからの人民元と米ドルの短期金利差は急激に拡大している。USD 3M LIBORが25bp程度しか上昇していない間にCNY 3M SHIBORは実に100bpも上昇しており、米中金利差は年初来75bpも広がっている。つまり利上げ3回分である。3月のFOMC利上げの数時間後にPBOCは対抗する形で中期貸出制度(MLF, Medium-term Lending Facility, 中期借貸便利)金利を地味に10bp引き上げているが、6月の利上げ後には追随利上げを行わなかった。米国と比べて既に十分に引締めが進んでいると余裕を持っていたようだ。

 資本収支で見ると、75bpの金利差拡大は中国国民にとって当局の規制をコストを払って突破する意義を薄くしている。また、A株がMSCIに、中国国債がWGBI Extended Indexにそれぞれ採用されたことも海外からの資金流入要因となる。まとめると、2017年に入ってからの人民元の反発は素直にファンダメンタルズに反応した動きであり、米国の利上げをきっかけとする人民元下落リスクは全く存在しなかったことを意味する。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。