China Industrial output and retail
 中国景気について先月の記事では「どの切り口から見ても中国からはデフレーショナリーなストーリーしか出てこない。そもそも外需依存なので、レポートなどで惰性で「米中が牽引する経済回復」というワーディングを用いている人はそろそろ「中」の文字を削除すべきである」と散々こき下ろしてきたが、その後も新型コロナとの肉弾戦と洪水もあって景気悪化がいよいよ勢いづいている。元より世界主要国で唯一コロナショックを緩和する給付金ばら撒きをケチったせいで需要が減り続けており、その上で更に指導部がデレバレッジ運動再開と政策規制で追い打ちをかけてきており、救いようがない形となっている。消費、投資、輸出という三台の馬車が一斉に転覆している

Blast furnace
 鉱工業生産は前月の前年比+8.3%から+6.4%(コロナ前の2019年対比では年率+6.5%から+5.6%)まで大幅に減速しており、これはパソコンや通信機器を除く様々な分野が一斉に悪化したことに由来する。先月の記事でも「自動車などは半導体が足りなければ完成しないのでその間他の裾野の生産活動も止まる」に触れていたが、どうも中国系自動車メーカーは日系などと違って半導体の確保に失敗しているようで、自動車生産は▲4.3%から▲8.5%まで更に悪化が加速している。下流の需要不足、インフラ投資の伸び悩みに加えてここぞとばかりに指導部がぶち込んできたカーボン・ニュートラル目標とやらに圧迫されて鉄鋼系も総崩れとなっている。これはコロナショックでも下がらなかった高炉稼働率が2019年、2020年の水準から大きく下方乖離していることからも確認できる。
Covid related
 小売売上高は前月の前年比+12.1%から+8.5%まで大きく減速(コロナ前の2019年対比では年率+3.6%)している。これは本ブログがコロナショック以来一貫してばら撒きがなければ内需の回復はあり得ないと主張してきたように、ばら撒きがない限り消費が伸びるはずがない。これを大前提とした上で、7月はデルタ株の拡大に伴う行動制限に天候不順が主な要因となる。自動車売上げも生産とシンクロする形で大きく減速した。11/11「独身の日」と並ぶ二大EC商戦となった6/18商戦の反動という解釈もあるが、だとしてもそれだけ消費総額が限られているということである。もちろんばら撒きによって形成される過剰貯蓄がないので、ロックダウン明けのペントアップデマンドもあり得ない。
China export import
 7月の輸出は海外特需の剥落、港湾や工場のロックダウンの悪影響で減速している。輸入も国内景気が弱いので当然パッとしない。
China TSF
 先週発表された社会融資総額(TSF)も弱さが目立つ。2枚目が示すようにTSFの減速はPMIの更なる減速を予想する。不動産業界への融資に総量規制がかかっている以上貸出も大きく伸びようがないし、LGFVへの新規融資を禁止したため地方政府周りも伸び悩んで当然である。当局は不動産融資を減らして製造業への資金供給を増やしたいようだが、肝心な製造業はどう考えても設備投資意欲が乏しいので買入れ需要がなく、その結果長期銀行融資(3枚目)は年初の好調なスタートから失速が目立つ。エイヤーの連続で計画経済をマエストロのように細かくコントロールできると当局が考えているなら滑稽である。その結果、企業手元資金の代理変数であるM1(4枚目)伸び率も6ヶ月連続で低下が続く。

 もっとも1枚目が示すように、地方債を始めとする政府債券発行の出遅れもTSFの低調さの背景の一つとなっている(水色のTSF除く政府債券の減速幅は少しだけ緩やかである)。これも自称マエストロがカウンターシクリカルなどと言って数字がよかった2021年1Hに出し惜しんだからであり、市場参加者は誰に聞いても下半期に地方専項債の発行が増えると期待している。実際地方専項債発行は下半期で増えるのはさすがにほぼ決定事項であり、その資金が実体経済にばら撒かれるのは年末から来年年初にかけてというところまで7月末の政治局会議で決められている

 しかし「景気がシクリカルに悪化すると地方専項債とRRR Cutが出てくるから問題ない」という考え方で思考停止してよいのだろうか。先週米銀(GS, JPM, MS)は一斉に中国の今年3Qの成長率予想を4~5%近辺から2%近辺へと大きく引き下げている細かい計画経済のコントロールに淫するマエストロのいつも一拍子遅い調整が急速で大規模な景気減速に間に合うのか当局は2Hの成長率が目標の6%を割れるか割れないかの議論をまだしている段階にあるはずだ
China CPI PPI
 そしてマエストロの手持ちのツールがいちいち「洪水式の金融緩和はやらない」と保留が付くケチくさいRRR Cutと、地方専項債の発行加速といった非力なものしかない。現に前回のRRR Cutは大した反響を生んでいない。そもそもPPIのコストプッシュインフレの(CPIに伝播する可能性はないものの)コントロールにまだ成功していない中でそのケチくさい金融緩和も大して期待できない。当局が反省して大規模で洪水のような金融緩和か大規模な財政出動が行われない限り、引続き中国経済は世界景気の牽引役どころか足を引っ張る存在であり続けるだろう。現にその弱さのリークアウトは地理的、経済的に近い国々の株式市場から順に侵食しつつある。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。