China Mainland 
 デルタ株の拡大に対して先進国はコロナとの共存になし崩しに傾きつつであるが、一方で中国は他のmRNAワクチンを入手できない新興国と同様、長らくコロナに対して肉弾戦で対応してきた。その結果人の移動が戻らずサービス業の景況感が悪化し続けているのは既に見てきた。7月になって中国にもデルタ株が侵入すると、非mRNAワクチンしかない仲間の東南アジアと同様に大感染爆発が起きるのではないかという懸念も沸き上がったが、東南アジアと異なり中国はどうもデルタ株の拡大をあっさり封じ込めたようである国内の新規感染者数はゼロまで減った。肉弾戦も捨てたものではないということか。

 mRNAワクチン導入国にとっては参考にする必要があまりないので中国のコロナ対策の細部についてはJETROの記事に任せ、本ブログでは立ち入らない。要するに感染者が一定数以上まで増えたらロックダウン、大規模PCR、そしてアプリなどによる追跡の組合せということだろう。また本当に収束したのか?という声も上がるだろうが、ことコロナに関して隠蔽したところで後で詰むに決まっているし、現に中国当局は初動こそ隠蔽しようとしたようだがそれ以来は概ね正しく、その後の展開とも整合する数字を出し続けてきた。本ブログは昨年2月時点で中国の公表データからコロナ感染のピークアウトが近いと指摘したが、逆に公表データを信用しなかったら出遅れていただろう。
China Vaccination
 曲がりなりにも中国は20億ショット以上のワクチン接種を済ませており、一方海外で中国製ワクチン接種を選択することになった国は得てして接種ペースも遅いことが多いので、同じ非mRNA仲間でも中国の予想には使えなかったということである。ほとんど動かない人民元相場とほとんどない社債デフォルトと同様に、デルタ株でも中国は諸外国対比で何桁も少ない数字(最大時で患者1200人)しか出していないにもかかわらず無駄に注目されていたが、やはり注目は無駄になったということである。

Vaccination World
 先進国はゼロコロナへのこだわりを捨てつつある。中でも慎重であったオーストラリアもコロナとの共存を言い出したのが象徴的であるが、これは別に何かのイデオロギーを諦めたという話ではなく、他の先進国対比で遅れていたワクチン接種ペースが、時間が経って他国に追い付きつつある中で自然なフェーズ移行である。一方、非mRNAワクチンしかない中国にとっては一旦コントロールを放棄するとどうなるか予想が付かない。

 中国のファウチとも言われていたらしい張文宏という感染症専門家がSNSでコロナとの共存を提唱してみたところ、直ちに体制と世論から袋叩きにされ、20年前の博士論文がコピペだらけだったところまで反対派に掘り返されて危うく社会的に葬り去られるところだった。現指導部は経済政策には明らかに疎いが、戦争に参加したことがないにもかかわらず他の分野の政策でも軍事用語を至るところで乱発しているところからも分かるように、明らかに大規模な動員活動という戦争ごっこは好きであり、熱の入れ方も違う。また生き物を扱う経済政策と違って戦争ごっこでは好きこそ物の上手なれとも言うべきか、現にデルタ株のコントロールに成功しつつあるところからも分かるように確かに実績をあげつつある。
China Service Balance
 そもそも中国は国際旅行先としての人気は低く、中国人の海外旅行ばかりが多いので、人員の行き来を遮断した方が経常収支が改善する。従ってただでさえ当局にとって国境の一層の開放に向かうインセンティブは乏しい。

 しかし、敗北主義者の専門家本人を文化大革命式に吊るし上げたところで、その主張の正しい部分を否定できるわけではない。先進国がmRNAワクチンを打ちつついつまでもデルタ株を絶滅させられない中、一部の国だけが肉弾戦を続けても終わりが見えない。一回はデルタ株の侵入を防げても海外との人員の行き来を完全には遮断できない以上、絶えず再侵入の可能性に晒され続ける。冬季オリンピックを開催するつもりがあるなら尚更である。そのあたりで国境管理政策の総括が行われるのだろうか。mRNAワクチンの輸入開始が一番手っ取り早そうである(せっかく復星がバイオンテックの販売権を入手しているし)が、mRNAワクチンを大規模に持ち運ぶロジがあるかどうかはたとえ中国でも怪しいし、国産や自称国産ならともかく海外から輸入して打ち直しとなると国威に傷が付きそうである。ただいずれにしても、短期的には中国でデルタ株が大規模に拡散してコントロール不能になったり、ロックダウンがどんどん拡大して景況感の悪化が止まらないといった悲観的シナリオは後退することになりそうである。

関連記事

疫情実時追踪 

中国の景況感は引続き肉弾戦で消耗 
中国はしばらく対コロナで肉弾戦を続行 

この記事は投資行動を推奨するものではありません。