中国恒大(エバーグランデ)の流動性危機についてのヘッドラインが増えているが、前回の記事で触れた見方はほとんど修正する必要もなくここまで来ており、多くのヘッドラインは本ブログの後追いである。急ごしらえでまとめた前回の記事に、補強するニュースがあればドヤり、修正すべき箇所は修正するという形で答え合わせをしていきたいと思う。
9/20の銀行への利払いは住宅都市農村建設省の宣言通り行わなかったようである。9/23の人民元建て本土債利払いについては「場外方式により協商解決」との会社発表があったきりであるが、場外=普段のクリアリングハウスを通じた利払いではないルート、であるため通常の利払いプロセスに載っていなかったことだけは確かである。9/23の米ドル債利払いは何のコミュニケーションもなくスキップされている。もっとも米ドル債のデフォルト認定までは30日間の猶予期間(Grace Period)があるため直ちにデフォルトイベントに突入したわけではない。中国政府が米ドル債のデフォルトを回避するよう指示したとのヘッドラインも流れ、一時当期クーポンが保全されそうとの憶測で米ドル債がクーポン分だけ買われたこともあったが、「破綻しないかもしれない」を織り込むほどには買われなかった。結局銀行、本土債保有者、米ドル債保有者の三者ともに通常の利払いは行われなかったが、三者共にデフォルトを宣言することもなく、従ってクロスデフォルトが発動されることもなく1ヶ月間の奇妙な停戦状態に入っている。米ドル債の利払いはその後も続くが当然タイムリーには支払われなくても驚かれないだろう。現に9/23の利払いの有無を当てたところでトレードに使う意義は全くなく完全な時間の無駄であった。さてリストラクチャリングが1ヶ月以内にまとまるかどうか。
米ドル債の回収率について何となく25%をコンセンサスとして債券がトレードされているが、フィッチは恒大をCCからCに格下げすると共にリカバリーレート格付けをRR6と位置付けており、これは破産となった場合に0~10%の回収率になることを示唆する。ただこれはディストレス投資の視点から物件の運用利回りに相当高い要求を付けており、発行体が営業を続けるならもう少し高くなる希望はある。逆に言うと、ある程度のリカバリーを提示すれば米ドル債の投資家に限ってはリストラクチャリングを受け入れやすいだろう。
恒大のプロジェクト運営は各地で徐々に地方政府の管理下に置かれ始めており、最終的にはいくつかの会社に解体されて複数の国営不動産に吸収されることになる可能性が高そうだ。個人的にはこれほど大規模な企業をプロジェクトごとに簡単に解体できるのかと疑問に思うこと甚だしいが、今やすっかり「プロジェクトごとに地方政府の管理下に入るか、体力のある国営不動産企業などが引き継ぐ」処理方法がコンセンサスになっている。引き継ぎが上手く行けばサプライヤーへの支払いも300万人を超える動員労働者の雇用も守られるだろう。この過程で地方政府が「住宅建設資金が債務返済に流用されないように」資金の流れを監督し始めている。本ブログは世間がサプライヤーの債権を心配していた時から「大半が保全される」「工事代金の請求権はその他の債権や金融機関の担保権に優先する。この優先順位はたとえ破産になっても動かない」と喝破していたが、まさにそれがニュースになっているわけである。
理財商品については債権者説明会も開かれたようであるが当然紛糾している。流出した動画では投資家が早口で「一人一人ポケットマネーから出しても400億元を集めろ、プライベートジェットがあるんでしょ、香港の豪邸もあるんでしょ、あんなに多くの女優と遊んだんでしょ、あんなにお金を湯水のように使ってきたのに400億元を何で払えないの」などと汚い言葉も交えながら恒大の幹部に面罵を浴びせている。この件については従業員に自社へのつなぎ融資を求めるのはかなりグレーであるため、担当した恒大幹部が刑事責任に問われる代わりに、当局の気分次第で投資家の救済も可能となるだろう。地方政府は既に調査を開始している。
9/20の銀行への利払いは住宅都市農村建設省の宣言通り行わなかったようである。9/23の人民元建て本土債利払いについては「場外方式により協商解決」との会社発表があったきりであるが、場外=普段のクリアリングハウスを通じた利払いではないルート、であるため通常の利払いプロセスに載っていなかったことだけは確かである。9/23の米ドル債利払いは何のコミュニケーションもなくスキップされている。もっとも米ドル債のデフォルト認定までは30日間の猶予期間(Grace Period)があるため直ちにデフォルトイベントに突入したわけではない。中国政府が米ドル債のデフォルトを回避するよう指示したとのヘッドラインも流れ、一時当期クーポンが保全されそうとの憶測で米ドル債がクーポン分だけ買われたこともあったが、「破綻しないかもしれない」を織り込むほどには買われなかった。結局銀行、本土債保有者、米ドル債保有者の三者ともに通常の利払いは行われなかったが、三者共にデフォルトを宣言することもなく、従ってクロスデフォルトが発動されることもなく1ヶ月間の奇妙な停戦状態に入っている。米ドル債の利払いはその後も続くが当然タイムリーには支払われなくても驚かれないだろう。現に9/23の利払いの有無を当てたところでトレードに使う意義は全くなく完全な時間の無駄であった。さてリストラクチャリングが1ヶ月以内にまとまるかどうか。
米ドル債の回収率について何となく25%をコンセンサスとして債券がトレードされているが、フィッチは恒大をCCからCに格下げすると共にリカバリーレート格付けをRR6と位置付けており、これは破産となった場合に0~10%の回収率になることを示唆する。ただこれはディストレス投資の視点から物件の運用利回りに相当高い要求を付けており、発行体が営業を続けるならもう少し高くなる希望はある。逆に言うと、ある程度のリカバリーを提示すれば米ドル債の投資家に限ってはリストラクチャリングを受け入れやすいだろう。
恒大のプロジェクト運営は各地で徐々に地方政府の管理下に置かれ始めており、最終的にはいくつかの会社に解体されて複数の国営不動産に吸収されることになる可能性が高そうだ。個人的にはこれほど大規模な企業をプロジェクトごとに簡単に解体できるのかと疑問に思うこと甚だしいが、今やすっかり「プロジェクトごとに地方政府の管理下に入るか、体力のある国営不動産企業などが引き継ぐ」処理方法がコンセンサスになっている。引き継ぎが上手く行けばサプライヤーへの支払いも300万人を超える動員労働者の雇用も守られるだろう。この過程で地方政府が「住宅建設資金が債務返済に流用されないように」資金の流れを監督し始めている。本ブログは世間がサプライヤーの債権を心配していた時から「大半が保全される」「工事代金の請求権はその他の債権や金融機関の担保権に優先する。この優先順位はたとえ破産になっても動かない」と喝破していたが、まさにそれがニュースになっているわけである。
恒大债权人会议许家印被骂娘。 pic.twitter.com/uNJdpElUne
— 曹山石 (@caolei1) September 27, 2021
理財商品については債権者説明会も開かれたようであるが当然紛糾している。流出した動画では投資家が早口で「一人一人ポケットマネーから出しても400億元を集めろ、プライベートジェットがあるんでしょ、香港の豪邸もあるんでしょ、あんなに多くの女優と遊んだんでしょ、あんなにお金を湯水のように使ってきたのに400億元を何で払えないの」などと汚い言葉も交えながら恒大の幹部に面罵を浴びせている。この件については従業員に自社へのつなぎ融資を求めるのはかなりグレーであるため、担当した恒大幹部が刑事責任に問われる代わりに、当局の気分次第で投資家の救済も可能となるだろう。地方政府は既に調査を開始している。
前回の記事でも触れた通り、引続き重要なのは同業他社への波及である。目を瞑って考えても金融機関は民営不動産セクターへの貸出に対して更に慎重になる。今は三道紅線が貸出しの上限となっているが、もし金融機関の融資スタンス自体が三道紅線よりも慎重になったならば三道紅線に基づくランキングは意味がなくなり、単に体力の弱い不動産企業から破綻していくことになる。恒大単体ならリーマンモーメントになり得ないのは完全なコンセンサスであるが、セクター全体で大規模な連続破綻が起きたらどうなるか。第二の恒大の候補としてはファンタジスタやSUNACが挙げられているが、このあたりの動きをモニターする必要がありそうである。恒大を潰すだけなら単発の問題で片付けてもらえる可能性もあるが、第二の恒大が出たら当然第三、第四を織り込みに行くことになりインパクトは増幅される。第二の恒大探しについて、市場に先行してビューを立てたいならこのあたりの記事が参考になるだろう。
普通にドミノ倒産発生しかけてるよね。 村越誠の投資資本主義 : サナックは第二のエバーグランデ(恒大集団)になるのかhttps://t.co/NX0ZdRXu1Q
— 村越誠@投資資本主義 (@Makoto_Mura) September 28, 2021
本土銀行を頼りにできなくなる可能性が高い中、米ドル債調達も凍結されており、今から相当タイトニングしないと市場に復帰できないため凍結期間は長そうであるし、恒大が米ドル債の構造劣後を派手に世に示す形になるなら発行の障害になりそう。
銀行間の流動性や相互不信の有無については、前回の記事で取り上げたNCDの代理変数であるSHIBOR 3Mをモニターしておけば問題なさそうであるが、SHIBORは9月に入ってからやや上昇に転じており、7月のRRR cutの効果は既に失われている。国慶節前でもありPBOCは連日資金供給を行ってきたが、せいぜい1Wものにしか影響を与えられていない。
「当局がどうも下がれば嬉しい(房住不炒)と思っているらしい不動産価格はともかく、中国GDPの14%、サプライチェーンを含めると1/4を占める不動産セクターで民営企業が一斉に新規投資を凍結すれば上流下流への影響は計り知れない」としていた経済全体への影響について、MSが分かりやすく数値化している。14%としていたのは15%近辺になったが誤差と見なしてよく、GDPの15%を占める不動産関連セクターの10%減速からGDP 1%減速要因が生み出されるとのことである。引続きリーマンモーメントだけは来ないものの不動産投資減速主導の経済減速は警戒に値する。
もっともこの減速はすぐにやってくるわけではない。不動産企業の販売サイクルは地方政府から土地オークションで土地を取得→販売して頭金を調達(足りない分はシャドーバンクで調達)→実際に建設、竣工→引渡し、と2~3年にわたるものとなっている。デレバレッジに努めようとするとまず土地オークションへの不参加から始める必要があり、既に仕入れた土地~未竣工物件は売ろうにも売れない。流動性がないだけでなく、相当な部分が既に売却済だからである。仕掛販売用不動産に対してできる努力はせいぜい工事を速めることくらいしかなく、実際過去にもデレバレッジに努める企業の工事現場での事故が増える現象も観測されてきた。これは何らかの数値目標を設けて引締めようにも、2~3年の猶予を設けないと途中で工事の資金繰りが詰まってしまうだけでデレバレッジはそれ以上のペースでは進まないという示唆でもあるが、いずれにしろ不動産企業が「売れ残って抱えている竣工不動産在庫」というのは案外多くない。恒大の今年上半期の例を取っても販売用不動産が1,445億元しかないのに対し仕掛販売用不動産が12,790億元もある。ということは、過去の土地オークションで入手したランドバンクを消化し切るまで(大規模な工事頓挫が続かない限り)サプライヤーや下請けの受注はなくならない。なくなるのは数年後にランドバンクを使い切った時である。逆に言うと恒大の例では販売用不動産は総債務の1割もないので頑張って処分したところで何の助けにもならない。工事が止まるかどうかの方が遥かに重要である。
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既に土地オークションは低調になりつつあり、デレバレッジサイクルが既に回り始めていることが分かる。チャートは上から地方政府から見た土地売却収入の前年比、100大都市建築用土地取引額、そして土地オークション失敗率(赤)である。着工(青)がデレバレッジで巻きたいところなのに遅れているのはデルタ株のせいだろう。この土地オークションにおける民営不動産の消極的な姿勢は数年後の不動産投資の先行指標となる。
構造的な少なさだけでなく、竣工不動産在庫は過去対比でも相当少ない期間に入っている。2月時点のデータとなるがその時点で2.5ヶ月の売上分しか「狭義の在庫」がない。ANZも恐らく定義の違いでこの回転年数を1年半としながらも過去対比で低いことを挙げている。これはコロナ後に不動産販売が好調であったことと積極的なデレバレッジ販売の結果であり、これ以上のデレバレッジを竣工物件の値下げ販売で行う余地は限定的であることを示唆している。であれば竣工物件の需給が緩まないまま将来の供給減に突入しそうであり、肝心の住宅価格が急落する可能性は高くないだろう。
前回の記事でも触れているように、今サイクルの引締め運動における当局の目標が奈辺にあるか掴みづらいところがアク抜け感のなさに繋がっている。ご進講では「2016年から続いた房住不炒思想に従い、共同富裕のために住宅価格高騰の解消を目指し、また高レバレッジに由来するシステミックリスク回避のために」と言っておけばいいものの、では不動産企業のレバレッジが軒並み三道紅線より下に低下すれば良しとするのか、それとも不動産価格が実際に大幅に下がるまで民営不動産を虐め続けるのか。もし後者であれば、住宅価格は経済がクラッシュした後にしか下がらない可能性が高いためワーストシナリオが実現することになる。現にシティのチャートによると100大都市の住宅価格は安定してじり高が続く。シティは「恒大の投げ売りによる不動産価格下落に対し当局が価格の下限を設定して値下がり抑制を図っても、価格統制は通常、機能しない」としているが、竣工物件に関してはあまり投げる玉がないし、前売り物件を安売りするくらいなら土地を仕入れなければいい話である。足元では地方政府が地価維持のために値引き販売を行政指導しているが、地方財政が高地価下のランドセールに依存している体質についてここで深入りするつもりはない。本格的に当局が住宅価格の急落を食い止めたいなら施策は価格統制ではなく戸籍の一部開放や住宅ローン金利引下げなどが考えられる。
測定の仕方によって計算結果もバラバラではあるし、また都市によっても温度差があるが、中国住宅価格の年収比は絶対値は低くないものの、ノルデアの計算では2013年から2021年にかけてせいぜい11年から13年までストレッチした程度である。つまりこれまでの住宅価格の上昇はほとんど住民の収入の伸びで説明できるものであり、大規模な不動産バブルは存在して来なかった。絶対年数(バリュエーション)がそこそこ高いのは住民収入が継続的に伸びてきた中である程度の将来を織り込むなら自然である。となるとやはり全国住宅価格の人為的な下落余地というのは限定的であり、クラッシュするとすればあくまでも経済と住民収入の減速が先である。
本来であれば(他業界ではあるものの)2兆元規模の企業の破綻処理を行うことも、大規模な不動産工事頓挫を処理することも当局は経験済でありノウハウには不安が少ない。しかし上で述べた引締めの着地点の不透明さに加え、政権の実務より政治やポピュリズムを優先しがちな性格、そして実務を担当する層の組織の論理を優先する傾向により凡ミスで大失敗を犯す可能性が無視できないため、大規模で複雑な企業破綻処理において本来あるべき信用が失われているのが現状である。
習近平は共同富裕掲げるので表だった恒大救済はしにくい。とはいえ救済せねばGDPの29%占める不動産セクターが中国経済減速を加速。そこでまず恒大会長粗探しして拘束などで見せしめた後でステルス救済。債権者の多くは国策銀行。地方政府が再建チーム派遣も。日経プラス9サタデーにて。 pic.twitter.com/g0GGrC4CcI
— 豊島逸夫 (@jefftoshima) September 26, 2021
本来であれば(他業界ではあるものの)2兆元規模の企業の破綻処理を行うことも、大規模な不動産工事頓挫を処理することも当局は経験済でありノウハウには不安が少ない。しかし上で述べた引締めの着地点の不透明さに加え、政権の実務より政治やポピュリズムを優先しがちな性格、そして実務を担当する層の組織の論理を優先する傾向により凡ミスで大失敗を犯す可能性が無視できないため、大規模で複雑な企業破綻処理において本来あるべき信用が失われているのが現状である。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。