オーストラリア中銀のYCCの歪みが市場に攻撃され豪州の短期金利が荒れた件を本ブログは取り上げたが、11/2のRBA会合でYCCはあっさり撤廃された。「現にYCCを一旦停止してから再開すると想像するのは難しいし、かなり説明を立てづらい。従って2年金利がYCC水準の0.1%まで全戻しすると期待するのは現実的ではない。フォワードガイダンスの短期化を理由にターゲット年限も1年などに短縮されるか、YCC自体が撤廃されるか、ということになる」とした上で「中銀が負けを認めるまでマーケットが走り続けるのも理解できるが、もし現実にYCCが撤廃されて各年限ともに自由取引になったとしたら、高揚感と敗戦処理がそれぞれ終わった後は逆に今の水準は高すぎるように見える。少なくとも低すぎではない」と本ブログはYCCが撤廃・縮小されるとした上で、自由取引になったらなったで逆に短期国債は買われやすくなるとしていたが、その後の展開を全て完璧に予想できたことになる。豪州の短期金利はまさに前回の記事を更新した11/1朝を境に低下に転じ、2年金利も3年金利もそこから25bp近く低下している。
あれだけ「すぐ撤廃したら中銀の信認が揺らぐ」とされていたYCCについてはあっさりと、「あれは昨年パンデミックショックの最中の経済情勢下で導入されたものであって、足元はリオープンもあって予想以上のペースで経済回復とインフレに向かっている」のでもう必要ないとされた。もちろん声明文の軽い文面よりも深刻な議論は色々あったと思われる。いつでも撤廃される可能性があるなら次のリセッションでYCCやフォワードガイダンスが導入されても信用されなそうであるが、そこは前回の記事でも記したように「量の暴力で直接押し切ればよいのである」。
RBAのインフレ見通しは前回のCPIを受けて一気にブレた。10/5会合では「利上げはインフレが2~3%のレンジで安定しないとあり得ず、基本シナリオはそれは2024年まで来ない」としていたのが、トリム平均インフレが2.1%を付けた途端に11/2会合では「基本シナリオはトリム平均インフレは2022年末までに2.25%、2023年年末までに2.5%」になってしまった。それを受けて2024年に初利上げを行うのが引続き「基本シナリオ」であるが、わざわざパラグラフを設けて「賃金とインフレが基本シナリオよりも高く伸びる可能性もあり、その場合は2023年利上げもあり得る。とはいえさすがに最新の予想でも2022年利上げはない(In some other plausible scenarios, wages growth and inflation could be higher than implied by the central scenario. If this were to eventuate, an increase in the cash rate in 2023 could be warranted. However, in the Board's view, the latest data and forecasts do not warrant an increase in the cash rate in 2022)」とヘッジを入れている。となると2024年初利上げの「基本シナリオ」も市場に信用されるはずがない。そもそも本当に2024年まで利上げがないならYCCを撤廃しなくても整合性が取れるので尚更である。ロウ総裁も政策発表後のウェビナーで「最初の利上げは24年4月より前に行われそうにないが、同時に23年の利上げが適切とも思われる。タイミングは実に不透明だ」とブレブレである。総崩れになったRBAの防衛線はだいぶ後退し「2022年利上げなし」だけは死守している形となる。YCC撤廃の言い訳からするとYCCの方もわざわざ初利上げ前倒しに合わせて2023年債ターゲットまでバックするくらいならいっそ撤廃しても信認的には一緒だろうという判断が下されたと思われる。
「さすがに2022年は利上げなし」まで戦線が後退したところで、本ブログが「たとえ2024年まで利上げなしのフォワードガイダンス(とその派生物であるYCC)が崩れたとしても、2022年半ばから始まるほとんどフルスロットルの利上げパスを織り込むのはまだ飛躍している」としていた通り、2年金利の0.5%以上は正当化されなかった。非常に雑に考えて今から数えて1年目が政策金利0.1%のまま終わってしまい。2年目に3ヶ月ごとに25bpずつ利上げすると平均で政策金利が0.725%になるので、更に1年目の0.1%と平均するとちょうど0.4%近辺になる。
カナダ中銀が早期利上げのイメージを具象化させたとすれば、過剰に進んだ早期利上げ織込みの剥落のイメージ作りはイングランド銀行のサプライズ政策金利据置きが担った。FOMCもテーパリングは予定通りに発表したものの差し迫った利上げについては改めて否定し、「テーパリングと利上げとの間に機械的な連携はない」としている。雰囲気は大変ハト的であり、実際そこから米金利がカーブごと低下しているが、記者会見の問答を読むと2022年中の利上げを否定したわけではない。ただ機械的な連携がないと言うくらいなので本ブログが繰り返してきたようにテーパリングが終わる前に初利上げが始まることだけはないということは引続き言えそうである。ドットチャートも9月会合の時点で既に2022年中に1回くらいは利上げがありそうな分布になっており、中銀の公表資料だけを手掛かりにするとほぼ確実に2022年中に利上げがありそうなFedよりも2022年中に利上げがないRBAの方が初利上げが遅いはずであり、両方似たようなペースで利上げを進めていくとすると政策金利の積分である短期金利もスタートが遅れた分豪州の方が低いはずだが、実際にはそうなっていないのは信認の違いということになる。
いずれにしろ、今回のミニ利上げ騒ぎのボラティリティは長期金利にも株にも伝播しないまま収まった形となる。
毎回豪州金利が荒れる時に主役になってきた本邦投資家については、今回は春の金利上昇で豪州債を拾った後に夏に淡々と売却しており、豪州金利の混乱に巻き込まれた形跡はあまりなかった。YCCだろうと何だろうと豪州金利が米金利より低くなったらいらないという常識的な判断を下していたようである。
YCC撤廃というワードだけでまず連想されるのは日銀であり、日銀のYCCも撤廃されるのではないかという疑問がどこかで持ち上がっても不思議はないが、元々日銀は毎年80兆円の国債買入れを減らしたくてYCCを導入した経緯を思い出すと、マーケットに押し負ける可能性はRBAと全く異なる次元である。
Minutes of the Monetary Policy Meeting of the Reserve Bank Board -RBA
November 2-3, 2021 FOMC Meeting
利上げ織込みラッシュに乗り遅れた豪州YCCが破綻
RBAのインフレ見通しは前回のCPIを受けて一気にブレた。10/5会合では「利上げはインフレが2~3%のレンジで安定しないとあり得ず、基本シナリオはそれは2024年まで来ない」としていたのが、トリム平均インフレが2.1%を付けた途端に11/2会合では「基本シナリオはトリム平均インフレは2022年末までに2.25%、2023年年末までに2.5%」になってしまった。それを受けて2024年に初利上げを行うのが引続き「基本シナリオ」であるが、わざわざパラグラフを設けて「賃金とインフレが基本シナリオよりも高く伸びる可能性もあり、その場合は2023年利上げもあり得る。とはいえさすがに最新の予想でも2022年利上げはない(In some other plausible scenarios, wages growth and inflation could be higher than implied by the central scenario. If this were to eventuate, an increase in the cash rate in 2023 could be warranted. However, in the Board's view, the latest data and forecasts do not warrant an increase in the cash rate in 2022)」とヘッジを入れている。となると2024年初利上げの「基本シナリオ」も市場に信用されるはずがない。そもそも本当に2024年まで利上げがないならYCCを撤廃しなくても整合性が取れるので尚更である。ロウ総裁も政策発表後のウェビナーで「最初の利上げは24年4月より前に行われそうにないが、同時に23年の利上げが適切とも思われる。タイミングは実に不透明だ」とブレブレである。総崩れになったRBAの防衛線はだいぶ後退し「2022年利上げなし」だけは死守している形となる。YCC撤廃の言い訳からするとYCCの方もわざわざ初利上げ前倒しに合わせて2023年債ターゲットまでバックするくらいならいっそ撤廃しても信認的には一緒だろうという判断が下されたと思われる。
「さすがに2022年は利上げなし」まで戦線が後退したところで、本ブログが「たとえ2024年まで利上げなしのフォワードガイダンス(とその派生物であるYCC)が崩れたとしても、2022年半ばから始まるほとんどフルスロットルの利上げパスを織り込むのはまだ飛躍している」としていた通り、2年金利の0.5%以上は正当化されなかった。非常に雑に考えて今から数えて1年目が政策金利0.1%のまま終わってしまい。2年目に3ヶ月ごとに25bpずつ利上げすると平均で政策金利が0.725%になるので、更に1年目の0.1%と平均するとちょうど0.4%近辺になる。
カナダ中銀が早期利上げのイメージを具象化させたとすれば、過剰に進んだ早期利上げ織込みの剥落のイメージ作りはイングランド銀行のサプライズ政策金利据置きが担った。FOMCもテーパリングは予定通りに発表したものの差し迫った利上げについては改めて否定し、「テーパリングと利上げとの間に機械的な連携はない」としている。雰囲気は大変ハト的であり、実際そこから米金利がカーブごと低下しているが、記者会見の問答を読むと2022年中の利上げを否定したわけではない。ただ機械的な連携がないと言うくらいなので本ブログが繰り返してきたようにテーパリングが終わる前に初利上げが始まることだけはないということは引続き言えそうである。ドットチャートも9月会合の時点で既に2022年中に1回くらいは利上げがありそうな分布になっており、中銀の公表資料だけを手掛かりにするとほぼ確実に2022年中に利上げがありそうなFedよりも2022年中に利上げがないRBAの方が初利上げが遅いはずであり、両方似たようなペースで利上げを進めていくとすると政策金利の積分である短期金利もスタートが遅れた分豪州の方が低いはずだが、実際にはそうなっていないのは信認の違いということになる。
いずれにしろ、今回のミニ利上げ騒ぎのボラティリティは長期金利にも株にも伝播しないまま収まった形となる。
毎回豪州金利が荒れる時に主役になってきた本邦投資家については、今回は春の金利上昇で豪州債を拾った後に夏に淡々と売却しており、豪州金利の混乱に巻き込まれた形跡はあまりなかった。YCCだろうと何だろうと豪州金利が米金利より低くなったらいらないという常識的な判断を下していたようである。
YCC撤廃というワードだけでまず連想されるのは日銀であり、日銀のYCCも撤廃されるのではないかという疑問がどこかで持ち上がっても不思議はないが、元々日銀は毎年80兆円の国債買入れを減らしたくてYCCを導入した経緯を思い出すと、マーケットに押し負ける可能性はRBAと全く異なる次元である。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。