Russian Tanks
 ウクライナ紛争についての前回の記事は大恥をかいた。「引続きキエフをはじめとするウクライナ本土は安全である」とした翌朝からキエフが空爆を受けたのである。もし現地に住んでいてそのような判断をしていたら死ぬところであった。ドンバス戦線への介入に続き、プーチンは2/24に「特別軍事作戦」と称してウクライナに全面的な宣戦布告を行った。前回の記事でドンバス紛争介入について「落としどころに到達したわけではない」「(そのままでは)ウクライナの大勝利である」までは分かっていたのに、プーチンが怒りに任せて更に全面戦争を仕掛けて来るとまではまさか思わなかったのである。前回の記事ではロシアの言い分にもそれなりの紙面を割いたのだが、どれを取ってもウクライナが全面的な侵略を受けなければならない理由にはならず、侵略戦争には旗幟を鮮明にして反対していかなければならない。当然ロシアはその後SWIFT締め出し、中銀資産凍結をはじめとする経済制裁を受け、その痛みを欧州が引き受けている。
UK Russian attacks and troop locations 20220225 
 戦争が決まったとして、ウクライナほどの大国にどう短期決戦を挑むか。プーチンの宣戦布告によると戦争目的は「ウクライナの非軍事化と非ナチス化」であった。何がどうナチスかは置いといて、とにかく非軍事化なら二通り考えられる。①野戦でウクライナ軍主力を捕捉、殲滅して戦争続行を諦めさせる。或いは②とにかく全力で首都キエフを陥落させて政権を打倒し、傀儡政権を作って自ら武装解除させる。プーチンの演説がなければ、ドネツク人民共和国(DPR)とルガンスク人民共和国(LPR)の独立承認、両国との間の集団的自衛権の発動に伴い「平和維持部隊」が進駐した流れの延長上で考えると、③DPR, LPRの支配区域とクリミアからロシア軍が出撃してドネツク、ルガンスク両州いっぱいまで領土を広げ、あわよくばドニエプル川東岸の黒海沿岸部を占領してクリミアと繋げたいと考えるのが定石である。①は徹底的な空爆か、ソ連軍の伝統らしく機甲部隊による大縦深作戦で分断、殲滅が考えられる。ドンバス戦線に並んでいるウクライナ軍旅団の後方を遮断して一気に殲滅し、ウクライナ政府の継戦意欲を喪失させるのが定石となるだろう。③が最も取っ掛かりやすく、②は全面戦争であり覚悟がいる。まだ①の方が威力の割りにはぎりぎり局地戦の範疇に収まる。本ブログが勘違いしたように、常識的には③から始まる。いずれの場合でも都市の攻略は最低限にとどめるべきである。市街戦は戦争の中でも最も難しいオペレーションであり、攻撃側は数や火力の優勢を生かしづらいため守備側に数倍する兵力が必要である。占領したらしたで数十万の市民のライフライン維持の責任があり、それを果たさなければ大規模な人道危機に繋がる。

 実際に行われたのは③と、中途半端な②の組合せであった。2/24の夜明けからロシア軍はウクライナ全土の飛行場や防空システムに巡航ミサイル(Kh-101)や短距離弾道ミサイル(Iskander-M)を撃ち込んだ。初日に発射されたミサイルは160発以上とされる。これは陸上部隊を侵攻させる際に制空権を確保しておかないと危険であり、戦闘機を飛ばすためには敵の空軍や対空レーダーを潰しておかないといけない手順になっているからである。キエフもミサイル攻撃を受け動画が各所からSNSに上がったが、率直に言ってこの時のミサイル攻撃はかなり真面目に軍事施設だけに照準を合わせたものであった。代わりに60万平方キロにわたる広大な国土が一斉に攻撃されたのは衝撃的であり、オデッサ上陸などの誤報も合わせて世界中を混乱させた。
BBC Russian advance on Kyiv Obolon
 同日、第11空挺旅団と第31空挺旅団の一部がヘリでキエフ北西20キロに位置するアントノフ空港に突入した。本来ならばこの手の空挺作戦では先遣隊が空港を占拠した後、装甲車を含む後続部隊を乗せた輸送機が着陸して一気に戦果を拡大することになっているが、恐らく空港周辺のウクライナ軍対空砲火が生存していたため輸送機は着陸できなかった。歩兵だけで敵中に孤立した400人程度の先遣隊はヘリの支援だけを頼りに空港を守備するウクライナ国家親衛隊の第4特務旅団の反撃を耐え抜き、翌日改めてベラルーシ国境を突破して陸路で増援に向かった後続部隊と合流した。その後空港周辺では奪回しようとする第4特務旅団との間でダラダラと戦闘が続き、この空港を拠点とする世界最大の航空機An -225(Mriya)も破壊されてしまった。2/25にロシア軍先頭部隊はキエフ国会議事堂から9キロしか離れていない市街地まで突入しており、ウクライナ国防省が市民に火炎瓶での抵抗を呼びかけるに至り、よくも悪くも紛争が短期間で終わる希望が見えた。しかし、一連の戦闘経過は同時にウクライナ軍の対空砲火が初日のミサイル空爆を受けた後も健在であったことを示唆していた。2/26に空挺部隊を乗せたIl-76輸送機が2機も撃墜されるに至り、対空砲火を無視して大規模な降下作戦を強行することは困難になり、キエフ近郊の戦闘は一転して膠着した。緒戦で戦闘力を世界中に見せつけたロシア軍空挺部隊はその後陸戦が行き詰ったことから文字通りの飛び道具として無謀な作戦に投入されがちになり、大きな犠牲を出した。
93th Brigade T-72
 キエフ近郊への空挺作戦と同時にロシア陸軍の機甲部隊が少なくとも三ヶ所で国境を突破した。北東部のウクライナ第2の都市ハリコフ、北西部のチェルニーヒウ、南東部へルソンがそれぞれ前線となった。ハリコフからチェルニーヒウまでの長大な国境線を第4親衛戦車師団"Kantemirovskaya"、第27親衛自動車化狙撃旅団"Sevastopol"、第2親衛自動車化狙撃師団"Taman"という第1親衛戦車軍の豪華な面々が横並びで突破した。第1親衛戦車軍はWW2でクルスク会戦やベルリン戦役に参加し、戦後はドレスデンに駐留(東欧駐留歴は精鋭部隊の象徴である)した。冷戦終了に伴い東欧から撤収した後は一貫して「近衛軍・兼・総予備軍」ポジションとしてモスクワ周辺に配置され、1999年に一旦解散した後に2014~2016年にかけてソ連時代の規模を復元した、ロシア軍の歴史を象徴する部隊である。ところが戦場では肩書きはまるで役立たず、ハリコフには第4親衛戦車師団の一部が正面から突入したがウクライナ軍第92機械化旅団の陣地にぶつかり撃退され、その後も空爆や準備射撃を行わないまま装甲車による市街地への突進と撤退を何度か繰り返した後ハリコフの占領を諦めた。第92機械化旅団とハリコフ近郊で活動する第93機械化旅団は二週間経った今でも鹵獲したT-72で遊ぶ動画が確認できたりと依然健在と思われる。キエフ北方正面のチェルニーヒウはシベリアから動員された第41諸兵科連合軍に対しウクライナ軍第1戦車旅団が守備しており、戦闘開始から2週間経った今でもチェルニーヒウの街は包囲、迂回されたものの健在である。開戦早々第35親衛機械化歩兵旅団の戦車大隊長もウクライナ軍の捕虜になった。T-80、T-90から構成される敵に数で劣るT-64を正面からぶつけても勝算は少ないものの、ウクライナ軍は市街地や森林の地形を上手く利用しながら、孤立した小部隊や補給部隊に一撃離脱を繰り返して敵の攻勢を遅滞し続けた。

 キエフへの空挺作戦に続き、恐らくその保険であるチェルニーヒウ、ハリコフの機甲部隊も手詰まりになったのは明らかにロシア軍の目論見と違った。膠着状態に陥ったタイミングで西側諸国がロシアに大規模な経済制裁を発動し、特に欧州と米国の団結は明らかにロシア当局の計算外であった。8年前のクリミア紛争での成功体験もあり、ロシア軍と政権は「土台が腐った納屋は一蹴りで倒れる」前提で戦争計画を立てていたように見えた。遅くとも2/27にはロシア軍は「限定的な侵攻で圧を掛けるだけでウクライナは崩壊する」との希望的観測を捨てて戦略の練り直しを迫られた。恐らくは二度と思い出されないだろうからあえて記録しておく必要があるが、ここまではロシア軍は確かに民間人への被害を最小限にとどめようとし、いわば内戦における「解放軍」のように振舞おうとしていた。民間人への反撃は厳しく禁じられていたようで、ウクライナの一般人も動いているロシア軍の車列に近付くことができ、いくつか牧歌的な動画もSNSに残っている。しかしウクライナ軍の戦意が一向に失われず、住民もロシア軍を歓迎しないとなると、この妙な配慮はロシア軍兵士を滑稽な立場に置いた。ゼレンスキーはロシア軍が間近に迫ってもキエフから退去せず、市民に武器を配りながらSNSなどで健在をアピールして士気を最高潮まで高め、西側の同情を思う存分引き出すことができた。ここまで来ると、改めて空挺部隊でキエフの国会議事堂を抑えても、まるでそこで終了になる棒倒しゲームのようにウクライナを屈服させることはできなくなる
Russia Conscripts
 一方、ロシア軍は士気の低さが話題になった。軍隊の士気は戦争の性質にも政治体制にもあまり関係がなく、今回は珍しい反例であるが一般的には侵略する側は侵略される側より士気が高い。それくらい圧倒的でないと普通は侵略戦争を始めないからである。いすれにしろ、戦場への恐怖を経験で克服し、補給と指揮系統が万全で、勝利に向けた希望が見える実感を持つことで士気は維持される。ロシアは軍を契約将兵(Contract soldiers, Kontraktniki, 職業軍人)だけで運用できるほどの給料を払えないため、徴兵(Conscripts, 徴兵期間は1年なので経験1年未満)比率が高止まりしている。その新兵を乗せた兵員輸送車が漫然と走って来るのをジャベリンなどの対戦車ミサイルで撃つだけの戦闘なら士気が下がる方が難しい。逆に新兵の方は海外の戦場に送り出されることを全く想定していなかった。なぜなら少子化が進むロシアでは徴兵を海外と前線に投入することは法律で禁止されているからであるプーチンですら表立ってその法律を破ったとは口に出せない。なので一時的に給料で釣って演習中に志願させるというせこいやり方で彼らはウクライナに送り出された。百歩譲ってプラハの春のように親衛師団の肩書きをぶら下げて衛星国を威圧しに行くだけならまだしも、初陣を外国で、それも手足を縛られながら一方的に攻撃されたら士気が上がるはずがない。ロシア軍の予想外の弱さへの驚きと、不利になったロシア軍が戦術核兵器に頼り始める恐怖が同時に流れ始めた。確かにロシア軍の(少なくとも威嚇としての)戦術核兵器への(精神的なものを含む)依存は我々の想像を超えるカジュアルさであったことが今回判明するのだが、純粋に軍事的には、通常の陸軍火力すら封印された状態から砲戦を飛ばして戦術核に飛躍するはずがなかった。

 2月中に方針転換は済んだ。それまでの兵士を犠牲にしても火力を制限する戦術は放棄され、ハリコフなどで市街地への大規模な砲撃が観測された。ハリコフでは陸軍士官学校、ハリコフ国立大学、そして市議会ビルが砲撃に晒された。キエフのテレビ塔にもミサイルが落ちた。空挺部隊の速攻で落とせなかったキエフについては改めて機甲部隊を集結して突入する試みが始まった。チェルニーヒウ~スムイ~ハリコフ間を突破した第1親衛戦車軍はウクライナ国内をドニエプル川東岸に向かって西に移動し始めた。それに対しウクライナ陸軍が旅団単位で迎撃した形跡はないが、移動する敵師団の側背を恐らく大隊単位で絶えず襲撃し、ロシア軍のエリート機甲部隊は驚くべき損害を出したようである。ウクライナの春の名物である地面の泥濘を警戒してか、ありとあらゆる撃破動画から分かるようにロシア軍は移動に際し道路に依存したため待ち伏せに遭いやすく、破壊車両の写真は頻繁にSNSにアップされた。
Ukrainian Theater or War
 恐らく途中からの作戦変更が招いた必要以上に長い敵中機動は必要以上な損失を招いた。破壊車両だけでなく放棄車両の多さも目立ち、戦役開始当初から付きまとっていた燃料不足疑惑が盛り上がったが、作戦変更が戦争に付き物である以上、兵站も常に問題になるのが当たり前であり、その後話題にされなくなった。放棄車両が多かった背景は士気、そして泥濘に加え、ロシア軍が大隊戦術群(BTG)を単位に行動する傾向が強かったためと思われる。現に参加兵力も120個大隊という数え方をされている。師団単位で行動していれば周囲の警戒にも兵力を割けるため、主力部隊はそうそう対戦車ミサイルに待ち伏せされないし、ヘリの火力支援も受けられる(もっとも今のロシア軍が地上部隊と航空部隊の連携を訓練してきたとも思われない)。一方大隊は機動力が高い代わりに両脇はガラ空きになりがちで、大隊単位であまりにも広く薄く分散してしまうとヘリの支援も呼びづらい。通信が万全でなかったらそもそも道に迷うこともある。車両が故障したら迷わず放棄するのは長距離機動では必ずしも不可解な行動ではないが、武装勢力の追撃と違って敵国のど真ん中では乗り捨てた車両を後続部隊が回収できない。更に軍も分解され旅団単位で戦場に投入されているようである。結果、ウクライナ南北の広い戦場で両軍の200個近い大隊が入り乱れることになった。

 航空支援を受けた機甲部隊の集団突撃による縦深作戦こそがソ連軍の本領だったにもかかわらず、2022年のロシア軍にはその教典が受け継がれなかった。もっとも正規軍との野戦よりも非国家の武装勢力との戦闘を重視し、機動力と即応能力が高い少数精鋭によるスリムな戦争を目指すのはロシア軍に限らず21世紀の世界中の軍隊で見られる傾向であり、もしこれがNATO軍であっても陸戦への適応に時間がかかるので空爆に注力して陸戦を最大限回避しただろう。
Ukraine· Soldiers
 西側の情報機関はロシア軍の動向のみ積極的に公開しているので、ロシア軍が主語になりがちなのは仕方がない。ウクライナ軍の部隊番号がSNSに上がるのは敵を撃破した写真や動画をアップする時くらいである。武装した士気の高い市民は小規模な浸透部隊からの首都防衛には役に立っても、機甲部隊との野戦では出番がない。全員で侵略戦争で戦った経験はウクライナの今後の国民意識の形成に影響を与えるに違いないが、現時点で善戦しているのはあくまでも前線のウクライナ陸軍である。
Ukraine Defence Budget
Ukraine military strength 
 2014年のクリミア半島での無様な敗戦以来、ウクライナは徴兵制を復活させ常備軍の兵員数を2014年の12万人から正規軍20万人プラス国家親衛隊などの準軍事組織(パラミリタリー)10万人まで拡大した。まさに臥薪嘗胆である。陸軍はパラミリタリーを加えると25万人であり、戦車は一世代古いものの、ロシアが動員した19万人と比べて数の上で優勢である。20個旅団と4個の予備隊旅団は全て志願兵で構成されている。更に8年間続いたドンバス紛争では各旅団が輪番で前線に投入されて戦闘経験を積んでおり、その練度は長年モスクワ近郊に駐屯してきた、新兵で旅団から拡充されたエリート親衛師団と比較にならない。肩書きとしては敵の親衛師団にも劣らない、ソビエト・ポーランド戦争に参加した赤軍第48狙撃師団を前身とするハリコフの第92機械化旅団はソ連崩壊に伴ってウクライナが国軍として接収した後、長年の政治と経済の混乱で2014年にドンバス戦争が始まった時点では寄せ集め集団まで堕ちてしまい、何度も叛乱軍を相手に壊滅的な打撃を受けたものの、8年間の紛争を経て主力旅団に返り咲きNATO軍との共同演習にも参加した。陸軍に限ると両軍にそこまで絶望的な差があるわけではない。
Su-34
 広大な国土を戦場とする機甲部隊の野戦が戦争の主役になったのは数十年ぶりであった。ロシア空軍は初日の空爆以降存在感が薄く、ロシア軍が制空権を確保できなかったとの批判に繋がる。もちろんそれは(トルコ製ドローンによる散発的な襲撃は見られたものの)ウクライナ空軍が出撃して対地攻撃を実行できることをも意味しない。コソボ紛争の時と同じく、空軍戦力で敵軍が圧倒的なのが明白であり、更にパイロット不足も加わってウクライナ空軍は貴重な戦力を温存する決断を下したようである。これは合理的であると同時にポーランド軍のMig-29をウクライナに持ち込んでもあまり意味がないことを意味しており、Mig-29騒ぎはNATOのウクライナへの援助の慎重さを浮き彫りにしただけの茶番だった。にもかかわらずロシア空軍の動きが鈍いのは明らかに対空砲火への警戒が背景であり、それはロシア軍の初手のミサイル攻撃が不十分であったことに帰着する。例えば2017年にトランプ政権がシリアの一つの飛行場にトマホーク50発以上撃ち込んだのを思い出すと、ウクライナの広大な国土に対してこれまで発射された800発のミサイルの密度はあまりにも薄すぎる。攻撃機とパイロットは貴重なので、空爆で潰せなかった対空砲火の掃討に空軍を消耗させるのは合理的ではない。空軍自身もミサイルが少なく、せっかく最新鋭機を動員しても敵の対空ミサイルが待ち構える中、無誘導爆弾を落として帰ってくるような任務は危険かつ無価値である。ウクライナ軍が恐らく活用した、対空レーダーを空襲の間は切ってやり過ごし、その後断続的に再開する戦術はコソボ紛争の時から知られており、空襲側はそれを絶え間なく捕捉し制圧し続けないと空が安全にならない。結局、ロシア軍の誘導兵器の少なさが火を噴いた形となる。とにかくミサイルを湯水のように使って相手の対空砲火を封じないとその後の戦闘を「航空支援を受けた少数精鋭の高速機動部隊」で21世紀的に進めることはできず、古典的な戦車戦に立ち戻るしかない。予算がない軍隊にとって(戦術核以外)あまりショートカットがないのである。
ISW 20220314 
 ショートカットにならないのはSNSでもてはやされたジャベリンも同様である。ロシア兵がSNSに投稿するはずがないので、SNSにウクライナ側の戦果ばかり上がってくるのは当然である。アネクドータルな情報はいくらでも飛び交っているので、頼りになるのは常に戦場と部隊の位置のみである。兵站と士気、作戦指揮を散々批判されながらも、そして実際に激しい損耗に耐えながらとにかくロシア軍は一週間かけて続々とキエフ近郊に到着し、ドニエプル川の両岸からキエフを圧迫し始めた。この時になって初めてベラルーシとの合同演習に参加していた全軍が展開された。ドニエプル川東岸にはチェルニーヒウ周辺を迂回してきた部隊、更にその南方に東から移動してきた部隊が展開した。ドニエプル川西岸は開戦当初から戦線がキエフ市街地まで伸びたがその後進展がなかった。その後方にはベラルーシ国境から前線にかけて有名な「64キロの車列」が続いた。この車列についても補給不足や、泥濘で動けなくなった等の観測が盛り上がったが、車列の末尾はベラルーシ国境に繋がっており明らかに補給線は短い。補給や兵站が常に大事なのは事実だが、主力戦車は一旦燃料を補充すれば300キロ走れることが分かっている。補給と兵站さえ指摘しておけば劣勢が優勢に変身できるわけではないのだ。むしろこの車列は大集団で固まってさえいれば対空砲火を展開できるため安全であることを証明した。道路に依存する限り地面が凍っていようとぬかるんでいようとあまり関係がなく、とにかく初日に抑えたアントノフ空港周辺(キエフ北西部)の市街地でウクライナ軍の抵抗を掃討している先頭部が前進することで初めて渋滞が解消される。車列の正体は恐らく先鋒が第35諸兵科連合軍であり、後方に第36諸兵科連合軍及び補給部隊が続く。この2つの軍はベラルーシからチェルノブイリ原発近くの近道を通ってキエフを攻撃できる最も有利な位置に配置されたものの、どちらも1945年の満洲出兵に参加した後、極東シベリアから中国を威圧していた非駐軍団であり、50年前に非駐=二流だった地位をいまだに引きずる形でいまいち存在感がない。今更ウクライナ軍と市民の不意を突いてキエフ市街地に突入できそうにない。最後尾はベラルーシから出てきたかどうかも怪しい、これまたシベリアからやってきた第29諸兵科連合軍である。

 キエフ・ドニエプル川東岸から15キロ程度のブロバルイにはチェルニーヒウを迂回してきた第90親衛戦車師団所属部隊が侵入し激戦区となった。第6戦車連隊の車両がウクライナ軍のドローンを活用した弾着観測射撃を受ける動画がニュースになり、連隊長Andrei Zakharov大佐も戦死したとされる。赤軍時代からの指揮官先頭の伝統及び、通信と士気が万全でないため将校が前線に出がちであり戦死者が多かった。ブロバルイ前線で確認できるウクライナ軍は第72機械化旅団と、ネオナチとしての写真だけがSNSに出回り肝心の戦闘では長らく存在感がなかった内務省管轄下の極右武装勢力・アゾフ大隊である。3/8から3/10にかけてのキエフに向けた攻勢は失敗に終わり、チェルニーヒウ周辺のウクライナ軍が健在であり安全な後方を確保できていない中でのドニエプル川東岸のロシア軍の強引な前進は明らかに限界点に達した。一部の部隊は後方の安全確保と再編をかねて国境線に向けて後退し始めた。この距離でもその気になればキエフ市中心部に多連装ロケット砲の砲撃を加えることは可能とはいえ、さすがのロシア軍もキエフに大規模な砲撃を加える心の準備はできていないだろう。全体的に北部戦線のロシア軍は戦闘機動を減らし、火力の優勢に依存し始めたようである。準備不足のまま初陣に突入した割りにはロシア軍の新兵達が戦争の中でよく戦争を学び、瓦解しそうなどと言われながらここまで辿り着いたことに対しては敬意を表すべきである。後方を無視してとにかくキエフの両脇に機甲部隊を並べる行動は危険であり、恐らく軍事的な合理性よりも政治的意義の方が重要視されている。具体的には停戦交渉を有利に進めるためにキエフ総攻撃の可能性をチラつかせ、ゼレンスキーを威嚇するのが目的と思われる。そもそもせっかく敵の後方に出たのなら包囲した敵の掃討に集中すべきなのに、キエフという地名へのこだわりを優先したせいで自ら敵に後背を晒した形となる。ウクライナ軍は相変わらず敵に釣り出されるのを回避し一撃離脱にこだわっているのか、正面の敵と同じくらい消耗しているか、反撃に転ずる動きは見られない。キエフ周辺の戦線は再び完全に膠着した

 SNSにアップされた撃破・放棄戦車をカウントする人は多く、ここまでの2週間余りの戦闘でロシア軍の喪失車両は恐らく一個師団分に達すると見積れる。ペンタゴンは双方ともに9割が健在と分析する。両軍が概ね同ペースで損耗したとすれば、いまだに攻守のバランスが大きく崩れていない説明にもなる。五つの戦線の中で激戦区のドニエプル川東岸~ハリコフ間に限れば両軍の損耗率は2割以上に達していると思われ戦闘続行は難しくなっている。いずれやってくるこのタイミングでの定石は敵より早く強大な予備兵力を投入することであり、それがロシアがベラルーシ陸軍4万人の出動を期待しており、またシリアから市街戦の経験が豊富な部隊を雇おうと試みた背景である。ロシアの予備兵力不足を招いた徴兵制度は上で既に議論した。ウクライナ軍の方も既に南部戦線が援軍を必要としており、大規模な予備兵力を温存している雰囲気がない。

 政治的に最も大事だったはずのドンバス戦線は開戦前からウクライナ軍の大兵力と対峙していることもあって大した動きがなかった。元々、ウクライナ軍が軍拡とトルコ製ドローンの導入でドンバス戦線で優勢に立ちつつあることが2021年の対立激化の背景の一つだった。ロシア軍も軍拡で旅団を師団に再編成する作業を進めてきたが、増えた定員は徴兵で埋めざるを得ず、ウクライナに侵攻するまで再編作業が終わっていない部隊もあったという。さすがに演習が威嚇だったと分析したのは間違いではあったものの、ロシア軍の準備不足感を見ていると途中までは合っていた気もする。

 黒海艦隊海兵隊などからなるクリミア第22軍団と、チェチェンやジョージアで実戦経験を積んできたコーカサスの第58諸兵科連合軍が担当する南部戦線は泥濘と無縁で順調であった。演習が始まって以来ウクライナ軍の主力旅団はさすがに北部に吸い出されていたようである。3/2にクリミア半島の水源地へルソンが最初に完全に陥落した大都市となった続いてメリトポリも陥落し、ロシア軍は南西、南東、北の三方面に同時に戦線を拡大し始めた。北ではザポリージャ原発で戦闘が繰り広げられ、南西方面ではモルドバやルーマニアに近いオデッサも視野に入り始めた。南東部ではクリミアとDPRの合流を目指しており、その中間地点にある港町マリウポリが激戦区になった。マリウポリの市街戦には(恐らくドンバス戦線から転進してきた)アゾフ大隊の一部、そしてチェチェン軍旅団も参加していることが確認されている。敵中に取り残される危険性に晒され始めたウクライナ軍部隊もあり、劣勢に立つ防衛側としてはまとまった兵力を包囲されるのは絶対に回避すべきである。キエフ~ハリコフ間の膠着を見た後の感覚では南部戦線は別世界である

 「腐った納屋の一蹴り」が失敗した時点から、停戦交渉は断続的に始まっている。クラウゼヴィッツが指摘するように、作戦継続で期待できる利益よりも損失の方が大きくなった時点で交戦国は戦争の終結と和平の模索を行うのが合理的である。当初はロシア当局はまだ自軍の能力を過大評価していたし、ウクライナも戦意が高かった。ある程度戦闘が進行して初めて、双方ともに互いの相対的戦力を正確に把握できる。ウクライナ軍のこれまでの戦役指揮は特段秀でているわけではないがこれといった凡ミスを犯した形跡もなく、キエフに向かって後退しつつあるのもさすがに実力通りなので、ウクライナ軍の首脳部は論理的であり戦争の見通しも正しくゼレンスキーに伝わっていると可能性が高い。問題はロシア軍が戦闘で学習してもそれを国家レベルの意思決定に反映できる仕組みがあるかどうかである。
Gerasimov and Shoigu
 元々この戦争はロシア側の彼我の戦力に対する派手な誤判によって引き起こされた。本ブログが油断したのも、まさか20万人弱の軍隊でウクライナほどの大国を併合しようと考える人間がいるとは思えなかったからである。しかしロシア軍には2014年クリミア併合というあまりにも強烈な成功体験があった。まず敵国住民への情報操作を通して反政府機運を醸成し、反政府運動に紛れて政府機関を占拠して政治的混乱を作り出した。次に演習と称して部隊を動員し、空挺部隊の奇襲で半島の飛行場を占拠し、そこに輸送機で増援部隊を送り込んで仕上げる。圧倒されたウクライナ軍は部隊ごと降伏してロシア軍に編入され、まともな戦闘にならなかった。このような軍事的、非軍事的手段の併用はハイブリッド戦争と呼ばれる。当時から今に至るまでロシア軍参謀総長を務めるゲラシモフもその概念を論文や演説で取り上げてきたため、ゲラシモフ・ドクトリンという言い方をされることもある。今回もその試みの痕跡が随所に見られる。例えばアントノフ空港への空挺作戦は明らかにクリミア紛争の再現であり、上手く行っていればそこを足掛かりにキエフ政府機関に奇襲を掛ける予定だったに違いない。ゲラシモフが「住民の抗議ポテンシャル」と呼ぶ敵国住民の支持も大切なので、ハイブリッド戦争のつもりだった間は住民の被害は極力回避された。プーチンが「特別軍事作戦」と呼んだのは基本的にただの欺瞞であるが、限定的な戦闘と犠牲でウクライナ政府を転覆する予定だった事情も反映する。しかしウクライナ軍はもはや2014年のウクライナ軍ではなく、空挺作戦は決定打にならず、住民もロシア軍を全く歓迎せず断固としてゼレンスキーを支持した。ハイブリッド戦争の罪は単に失敗しただけにとどまらない。百歩譲ってドンバス戦線への介入拡大を決めたのは仕方ないとしても、キエフ攻撃を含むウクライナ全土を戦場にして短期間で勝利するという無謀な考え方に成功の希望を見せることによって、本来起き得なかった全面戦争を起こした戦犯もハイブリッド戦争である。ドンバス戦線への軍事介入が決断されたのは早くて演習途中の今年1月と思われるが、当初の計画はせいぜいドンバスとクリミアを繋げる程度のものだったに違いない。経済制裁を含む今の苦境を招いたのは明らかにそれを全面戦争に拡大したせいであり、その背景は想像するに、当初のドンバス介入計画にプーチンが「(キエフ攻略による)ウクライナ全土の非武装化と非ナチ化」という非現実的な目標を付け加えた時、軍事的にはそれが不可能であるとハイブリッド戦争の専門家であるゲラシモフの口からは言えなかったのではないか。また専門分野のハイブリッド戦争が2日で失敗し、想定以上に多大な犠牲を強いられる可能性が高まったともゲラシモフの口からは言えなかったのではないか。プーチンの他の取り巻きは当然わが軍不利とは言わないので、軍が危機感を伝えて来ない限り停戦は遠かった。FSB幹部の粛清を通してさすがに一度は情報がオープンになって整理されたと期待するのは楽観的すぎるだろうか。

 停戦の次の障害は民意である。ただの領土や勢力圏の奪い合いなら妥協点を見つけるのは難しくないが、一度イデオロギー対立や民族存亡を賭けた戦いまで昇華されてしまうと、戦意高揚のためのプロパガンダに自国民が煽られ、合理性だけで停戦するのが難しくなる。逆説的だが湾岸戦争の時のイラクのような完全な独裁国家であれば指導者の計算だけで停戦を決断できる。民主主義国家はあまり犠牲に耐えられない。実はその中間の、指導者がエイヤーで開戦を決めつつ微妙に世論や議会を気にする混合政体が最も決断が難しいのである。ロシアが開戦で既に欧州の仲介を一度裏切っているので、停戦の仲介を真剣にやってくれる国はあまりいない。中国は「指導者の唯一の国際友人が極悪人になった」事実を受け入れられないので、何が起きているのか把握できていない。とすればトルコとイスラエルくらいしか候補がない。

 それでも、早期停戦への希望を捨てるべきではない。ハイブリッド戦争は既に失敗し、ウクライナの政権転覆(非ナチ化)はできそうにない。高額なミサイルはいつか底を突く。プーチンが「特別軍事行動」と言っていたのに徴兵を含む5桁の戦死者を持ち帰ったらさすがに大打撃になる。経済制裁は西側の自己満足であり金融核兵器はエネルギー輸入国の欧州にしか落ちていないものの、長年ロシア外交の十八番だったエネルギーをテコにした欧州と米国の分断には完全に失敗した。ゼレンスキーがまだ健在なので助かっているが、もしウクライナが無政府状態に陥って交渉相手もいなくなったら詰んでしまう。米英は一度その可能性を匂わせた。少なくともキエフ~ハリコフ戦線に限ってはこれ以上の戦闘継続はロシアにとって困難かつ無益である

 ウクライナ側にとって戦争を継続する最大のモチベーションは明らかにNATOを戦争に引きずり込むことである。国民にも大きな犠牲が出ているし、キエフ総攻撃への恐怖にも晒されているが、侵略された方としてそれに耐え続けるのを選ぶことは批判の対象にならない。しかし肝心なNATOは明らかにゼレンスキーを失望させた。日に日に火力への依存を強めるロシア軍の空爆を抑制するためにゼレンスキーは英国議会でビデオ演説まで行い西側諸国に飛行禁止区域の設定を求めたが、議員達を感動させたのが限界でありNATOは取り付く島がなかった。飛行禁止区域(No Fly Zone, NFZ)とは何か。湾岸戦争で敗れたイラクでは多国籍軍によって何年にもわたって飛行禁止区域が設けられ、その後ボスニア・ヘルツェゴビナとリビアの内戦への介入の一環で設定された例がある。それは交戦国双方の飛行を禁止するものではなく、主に強大な空軍を保有する勢力が他国の領空に線を引いて一方的に宣告するものであり、宣告を受けた側はNFZに軍用機を進入させた場合、毎日NFZをパトロールしている設定側の戦闘機によって直ちに撃墜される。1994年には米空軍のF-15がイラク領空で勢い余って米軍のブラックホークまで撃墜している。国連がNFZを設定したことはないので飛行禁止の実現は常に実力行使によって行われ、ウクライナ上空でのNFZ設定は直ちにロシア軍機との交戦を意味する飛行禁止区域の設定要求は他人に火中の栗を拾わせる西側の限界を一気に白日の下に晒したように見える。米国はロシアとの第三次世界大戦を回避する姿勢を徹底している大都市のライフライン維持も日に日に危うくなる中、転機がやって来ないと分かっている戦争の継続は物理的だけでなく精神的にも人を消耗させる
War Mapper 20220315
 そこで改めてスポットライトを浴びてくるのは存在感が薄かった南部戦線である。南部戦線では時間は完全にロシアの味方である。キエフはたとえ陥落しても戦後必ず国際社会の支持を受けながら取り戻せるが、南部戦線では時間が経つにつれてクリミア~ドンバス間を繋げるドニエプル川以東の新占領地を既成事実化される可能性がある。その要衝であるマリウポリは廃墟にされそうな勢いである。政権転覆を狙ったハイブリッド戦争が失敗した後、ロシアは明らかに戦争の道徳的な次元を下げており、今やただの領土奪取作戦に変質しつつある。ロシアが全域を支配したへルソン州ではへルソン人民共和国という茶番が話題になり始めた。或いは最初から「非武装化」要求と北部の親衛師団が実は牽制で、その間オデッサからドンバスにかけての南部沿岸部の占拠が既成事実化されるのがウクライナにとって最も嫌な展開であり、それを最初からの壮大な作戦だったとするのはさすがにロシア軍を過大評価しすぎだろうが、プーチンの思い付きを挿入された五正面作戦は最初は愚かしい兵力分散にしか見えなかったのが、時間が経つにつれて「ウクライナ軍はどの方面でも失敗できない」側面が目立ってきたのは事実である。それに対抗するには、ウクライナ軍は五正面のうちどれか(と考えると限界に達した北部戦線)のロシア軍に猛反撃を加えて1個でもいいから旅団単位で叩き潰さないといけなかった。それをやらないなら戦争を長引かせたところで希望は見えてこない。ゼレンスキーを妥協に追い込む最大の材料は明らかに南部戦線である。ロシアはマリウポリを占領するまで何かと難癖を付けて戦争を長引かせるインセンティブがあった

 ガヤの欧米について。例のごとく米国は完全に戦争から隔離されており自由である。地理的に近い欧州は経済的に打撃を受けるだけでなく、今すぐ停戦しても260万人の難民を受け入れることになるが、ここまで極悪人ロシアとのイデオロギー対立が盛り上がった以上は音を上げることができない。

 NATOが使えないので停戦条件はあくまでもロシアとウクライナの間で決められる。当然一回二回の会談では結果が出ようがないし、停戦交渉を有利に進めるために同時に前線で攻勢に出るのも珍しいことではない。侵略された側の要求はもちろん即時撤兵なので、ロシアの要求について交渉が進められることになる。前線の進捗の悪さに伴いロシア側の目標は当初の「紛争原因の根本的な解決」から「妥協的和平」に後退する可能性が高く、それは限界的には何らかの合意が得られやすくなることを意味する。恐らくゼレンスキーの退陣と傀儡政権の樹立を含む「非ナチ化」はキエフ攻略の失敗に伴い、さすがに持ち出すのも恥ずかしくなったようである。国内向けにはアゾフ大隊に大打撃を与えたことで糊塗することになるか。「非軍事化」はウクライナ軍の解散ではなく、恐らくプーチンが講演で取り上げた「攻撃用ドローン、重装備、ミサイル、大砲、および多連装ロケット砲」の撤去である。「中立化」つまりNATO加盟取下げはNATOが使えなかったこともあってウクライナ側が妥協する可能性が高い。「DPR/LPR両国の独立承認と両州全体への拡大、クリミア併合の承認」は最もハードルが高い。両州のウクライナ軍は少なくとも一部はまだ健在であり、両州の両国への併合を現実的なものにするためにもロシア軍はどうしてもドネツク州西端に位置するマウリポリを占領する必要があった。ゼレンスキーはこちらについても存続のあり方について交渉する用意があるとしている。更にへルソンの傀儡としての独立もカードとして使われるか。ウクライナ領土保全自体にはガヤは興味がないようなので、このあたりは力関係で決まると思われるが、合意に達しても将来にわたって火種であり続けそう。後ろの二つはウクライナの憲法修正を必要とする。

 西側の経済制裁の大半はあくまでもロシア軍を停戦に追い込むためのものであるが、もしミンスク合意の範囲を大きく逸脱してへルソンまでがロシアに併合された場合は停戦になっても経済制裁が撤廃されない可能性が高そうである。国際社会の声援とは裏腹に金融市場は無情であり、2/25が顕著だがウクライナが降伏しそうになるとリスクオンになり、降伏しなさそうな雰囲気が出て来るとリスクオフになった。

 まとめると、この紛争はソ連とフィンランドの冬戦争と似たような展開を辿りつつある。最終的にはソ連軍が物量で戦線を押し切り、戦前の要求を孤立無援のフィンランドに飲ませることに成功した一方、フィンランド軍の善戦と活躍だけはずっと世界中で語られ続けた。今のところ双方の損失は恐らく死者、捕虜を含めて共に5千人程度、負傷者がその2~3倍、民間人の死者はマリウポリ1箇所で2500人を超えたので1万人に近い数字になりそうに見える。発生した難民は260万人を超え最終的には700万人と推測されている。陸戦は地獄である。

募金先

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所) 
寄付金の税制上の優遇措置 -UNHCR 
 災害時などの国内自治体への義援金と違って特例控除(ふるさと納税枠)にはならないものの、認定NPO法人なので募金額から2000円を引いた額の40%の税額控除が確定申告で戻ってくる。

【ふるさと納税】ウクライナ人道危機支援 ※返礼品はありません※ 
 こちらはふるさと納税枠(記念品のないふるさと納税と同じ)なので税金上はUNHCRや普通の募金より有利になる。日本赤十字社が開設する「ウクライナ人道危機救援金」に振り込まれる。

*本ブログの理解を記しているだけであり、正確な税務アドバイスは税理士等までお願いします。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。