やや緊張感をもって迎えられた4/28の日銀金融政策決定会合では「連続指値オペを毎営業日行う」というギャグのような政策が発表された。YCC(イールドカーブ・コントロール)の持続可能性への疑念がこの会合で直ちに対処が必要なほど深刻であったことは間違いなかったようで、「それを断つには黒田日銀名物の逆切れ追加緩和しかない」と本ブログもギャグとしては辿り着きかけていたものの、さすがにそれ以上具体的な想像は進まなかった。ハトかタカかという切り方では180度真逆の答えが返ってきたことになる。
毎営業日連続無制限指値オペが「逆切れ」から導入されたことは、記者会見で市場の臆測、余計な臆測、無用な臆測などと「臆測」という言葉を7回も使っていることから分かる。「日本銀行の金融政策としては、10年物金利をゼロ%程度に維持すると、それはプラスマイナス0.25%の範囲内であるということを非常に明らかにしているにもかかわらず、時折、いろんな臆測とともにいろんな事が起こったので、指し値オペもやり、それから、毎回、指し値オペをやるかやらないかとかいうのでまた臆測が起こらないように考え方を極めて明確にして、基本的に必要があれば毎日でもやりますということをはっきりさせたということで」と市場参加者にYCCの持続可能性について痛くもない腹を探られた怒りが手に取るようである。なお「臆測」を散々聞かされた後に「日銀が再三にわたって金融緩和政策を維持する意思を強調しているにもかかわらず、市場には総裁もおっしゃるとおり、政策修正を巡る臆測、観測が消えない背景として、この長期金利操作に関する政策の変更っていうのはなかなか事前に、市場に織り込ませる手法が使いにくい点がある」という質問も出ており、それに対する黒田総裁の回答がやや焦点がボケたものになったのも含め、「YCCは止める時は突然である」という前回記事の最大の主張と同じ話が世界中に広められる形になったことには大変満足している。
前回の記事の繰り返しとなるが、YCCの役割は導入以来一貫して「なるべくバランスシートを拡大させずに円高を防ぐ」であり、今回の「毎営業日連続無制限指値オペ」もその発想から逸脱しておらず、これをQE(量的緩和)の拡大と捉えるのは金融政策の実務に対する知識と想像力が足りない。YCC上限での買支えはあくまでも受動的なものであり、従って売り手が増えない限り、日数さえ増やせば購入額が増えるわけではない。明日も必ず0.25%近辺で売れると分かっている国債を今日0.25%近辺で売る必要があるだろうか。もしかしたら明日には売る気がなくなっているかもしれないではないか。前回の記事でも「無限と無限を足しても無限であり、最終日に無制限に売れるのは変わらないのだから本来最終日だけオペをやれば十分で、その上で連日オペを続ける意味はあくまでも示威である」としているが、「連日」の期間を無期限に展延しても変わらない。示威とは「売るな、買わせようとするな」ということである。本当に黒田総裁が述べるように「0.25%を超えて長期金利が上昇するのを防止したい」だけなら今までの枠組みでも十分であるし、現に超えたら無制限指値オペがやってくるのが分かりきっている中で明確に超えることはなかった。何が嫌で枠組みを修正したかというと「実弾で買わされたこと自体」に決まっており、わざわざ毎営業日やると宣言したのは(黒田総裁自身はそう質問されて否定しているが)「買わされたくない、マネタリーベースを増やしたくない」という意識の表れにしか見えない。
「毎営業日」とは言っているものの、金融政策決定会合の政策発表を過ぎたら撤廃される可能性があるので、投資家の実弾売りが続くとすればそれが集中するのは毎回の決定会合直前になるだろう。海外や為替発の金利上昇圧力が潜在的に続くならば、長期金利(オペ対象3銘柄の利回り)は会合間の時間帯は0.25%から離れて低下し(ただし買う手としても決定会合直前が最も安く買えそうなので、金利スワップなど他のオプショナリティのない金利も戻ってきて金利上昇圧力が消えるまでは0.25%から遠くは離れない)、決定会合直前に0.25%近辺に戻りやすそう。或いは日銀への吸い込まれ方によって流動性が完全に枯渇して居場所も分からなくなるかもしれない。オペ対象3銘柄は品薄感が増すにつれて他の銘柄や金利カーブの他の年限、他の商品との裁定が効きづらくなり、金利カーブの方も3銘柄を無視しやすくなりそうである。もっとも前回の記事で「たとえYCCが修正されたところで現在の長期金利の居場所は低くない」としていた通り、(よほどの円安進行か、会合直前に再び巨額応札が放り込まれるなどの椿事が起きない限り)これ以上オプショナリティのない方の金利が大幅に上昇して歪みが拡大しやすいとも思わない。
金利上昇圧力が続く間、会合直前に売りが集中するようになったところで、理論的には買わされる総額が増えることはない。一方、もしどこかで会合を迎える前に運よく金利上昇圧力が消えたり弱まったら、期中に投資家の早まった売りが出ずに済んだ分、買わされる総額はガクッと減る。つまり毎営業日連続無制限指値オペは金利政策としては金利上昇を抑制するもの(今までと変わらないとの見方も可能)であるが、バランスシート的には量的緩和というより量的緊縮に近い。一方、量的緊縮であるからこそYCCは再びより維持可能になり、YCC早期修正期待は剥落するだろう。
では空砲どころか量的緊縮なのだから指値オペの毎営業日化は本当は円高要因であり、円安に反応するのが間違っているのかというと、市場参加者がどこかでカラクリに気付いてドル円レートが反転する展開にベットするのも賢明ではない。為替は常に雰囲気である。YCCの歴史とは、金利市場をよく分かっていない為替市場の参加者にいかにBSを使わず、金利を下げないまま緩和的な雰囲気をそれっぽく見せるかの歴史でもあった。だからこそYCCの枠組みに最初から概ね含まれているにもかかわらず「無制限」だの「連続」だのといったワードが飛び交うのであって、今回の「毎日」も含めて刺さったり滑ったりしてきた。ファンダメンタルズ的には実弾が毎年10兆円増えた2014年からのバズーカ第二弾ではドル円が1年で20円上昇したが、YCC修正期待の剥落と指値オペの毎営業日化だけではその値幅は出せないだろうとしか言えない。ついでに毎営業日ということは新発10年国債の入札日にも無制限指値オペが行われるので、中央銀行による財政ファイナンスとの誹りを受けやすくなるが、果たしてどこまで話題になるか。

結局YCC継続で「変わらない」ということなので、ドル円レートは再び米国側の要素で決まりやすくなりそうである。そもそも、今サイクルのドル円の上昇は日米の金融政策の違いをきっかけに始まり、日米金利差の拡大に連動してきた。これは最近の円安は「急速な変動」ではあっても「ファンダメンタルズから逸脱」はしていないことをも示唆しており、円安が進んだからと言って為替介入が入るとは期待できないことを示唆する。前回の記事でも述べたように、段取りとしてはあくまでもYCC修正→マイナス金利政策撤廃→為替介入の順なので、YCC修正も遠くなったのでその先も更に遠くなった。従ってここからのドル円レートは引続き米金利次第に見える。本ブログはいまだに「米長期金利が3%を超えても一時的になる」という見方を維持しているのでドル円の上値余地は大きくないということになる。一方、かと言って円高方向には相当戻りづらいことも間違いないし、ここ数年ドル円が狭いレンジに収まってきたのが再び走り出したレジームチェンジの瞬間にも当たるので、数年ぶりに爆発したモメンタムに逆らって天井を当てようとする行為のオッズがよくないことをも示唆する。

本来であれば大幅な円安になると日本は価格優位を生かして猛烈に外貨を稼げるため、一方的な円安進行というのはそうそう見られない。今回円安が急速に進んだ背景としては、経済正常化の遅れによりネガティブフィードバックが上手く働かなかったことがある。最も猛烈に売れるはずの自動車は半導体不足で台数が増えない。観光立国への依存が高まってきた中で中国からのインバウンドが消滅している(旅行収支の悪化)。更に原油高で交易条件が悪化した。これらの構図により実需フローは円安を打ち消すどころか追いかける方向に傾きやすくなっているため、もし仕掛け的な円売りがあれば止める人がおらずワークしやすい環境にあった。絶対額としては対外金融債権から生じる利子・配当金等の第一次所得収支の方が上のどの項目よりも遥かに大きいためそれでも経常収支の赤字転落には至っていないが、第一次所得収支には円安になると増えるような弾性がない。

特にインバウンドという切り口から見ると円安の裏にあるのはドル高と共に人民元高であったとも言えそうである。米中の景況格差にもかかわらず人民元が米ドル高に付いて行けていたのは輸出の増加と、まさに海外旅行に伴う資金流出がなくなったからであり、その影響は旅行収支を受け取るはずだった円を直撃した。対人民元で見ると直近で1元20円に近付いており、これは2015年のピークと同水準である。2015年には中国が人民元高に耐えられずその後チャイナショックが起きた。だとすればインバウンド復活を含む経済正常化が進んだ後、対米ドルはともかく対人民元で1元20円以上は持続しづらいと考えるべきではないか。逆に言うとインバウンド(大半は中国発である)が復活しない限り、円安が本格的には反転しづらそうである。
日銀・黒田総裁会見4月28日(全文2完)好循環下で2%目標の安定的実現を目指す
日銀イールドカーブ・コントロールの歴史と限界
毎営業日連続無制限指値オペが「逆切れ」から導入されたことは、記者会見で市場の臆測、余計な臆測、無用な臆測などと「臆測」という言葉を7回も使っていることから分かる。「日本銀行の金融政策としては、10年物金利をゼロ%程度に維持すると、それはプラスマイナス0.25%の範囲内であるということを非常に明らかにしているにもかかわらず、時折、いろんな臆測とともにいろんな事が起こったので、指し値オペもやり、それから、毎回、指し値オペをやるかやらないかとかいうのでまた臆測が起こらないように考え方を極めて明確にして、基本的に必要があれば毎日でもやりますということをはっきりさせたということで」と市場参加者にYCCの持続可能性について痛くもない腹を探られた怒りが手に取るようである。なお「臆測」を散々聞かされた後に「日銀が再三にわたって金融緩和政策を維持する意思を強調しているにもかかわらず、市場には総裁もおっしゃるとおり、政策修正を巡る臆測、観測が消えない背景として、この長期金利操作に関する政策の変更っていうのはなかなか事前に、市場に織り込ませる手法が使いにくい点がある」という質問も出ており、それに対する黒田総裁の回答がやや焦点がボケたものになったのも含め、「YCCは止める時は突然である」という前回記事の最大の主張と同じ話が世界中に広められる形になったことには大変満足している。
前回の記事の繰り返しとなるが、YCCの役割は導入以来一貫して「なるべくバランスシートを拡大させずに円高を防ぐ」であり、今回の「毎営業日連続無制限指値オペ」もその発想から逸脱しておらず、これをQE(量的緩和)の拡大と捉えるのは金融政策の実務に対する知識と想像力が足りない。YCC上限での買支えはあくまでも受動的なものであり、従って売り手が増えない限り、日数さえ増やせば購入額が増えるわけではない。明日も必ず0.25%近辺で売れると分かっている国債を今日0.25%近辺で売る必要があるだろうか。もしかしたら明日には売る気がなくなっているかもしれないではないか。前回の記事でも「無限と無限を足しても無限であり、最終日に無制限に売れるのは変わらないのだから本来最終日だけオペをやれば十分で、その上で連日オペを続ける意味はあくまでも示威である」としているが、「連日」の期間を無期限に展延しても変わらない。示威とは「売るな、買わせようとするな」ということである。本当に黒田総裁が述べるように「0.25%を超えて長期金利が上昇するのを防止したい」だけなら今までの枠組みでも十分であるし、現に超えたら無制限指値オペがやってくるのが分かりきっている中で明確に超えることはなかった。何が嫌で枠組みを修正したかというと「実弾で買わされたこと自体」に決まっており、わざわざ毎営業日やると宣言したのは(黒田総裁自身はそう質問されて否定しているが)「買わされたくない、マネタリーベースを増やしたくない」という意識の表れにしか見えない。
「毎営業日」とは言っているものの、金融政策決定会合の政策発表を過ぎたら撤廃される可能性があるので、投資家の実弾売りが続くとすればそれが集中するのは毎回の決定会合直前になるだろう。海外や為替発の金利上昇圧力が潜在的に続くならば、長期金利(オペ対象3銘柄の利回り)は会合間の時間帯は0.25%から離れて低下し(ただし買う手としても決定会合直前が最も安く買えそうなので、金利スワップなど他のオプショナリティのない金利も戻ってきて金利上昇圧力が消えるまでは0.25%から遠くは離れない)、決定会合直前に0.25%近辺に戻りやすそう。或いは日銀への吸い込まれ方によって流動性が完全に枯渇して居場所も分からなくなるかもしれない。オペ対象3銘柄は品薄感が増すにつれて他の銘柄や金利カーブの他の年限、他の商品との裁定が効きづらくなり、金利カーブの方も3銘柄を無視しやすくなりそうである。もっとも前回の記事で「たとえYCCが修正されたところで現在の長期金利の居場所は低くない」としていた通り、(よほどの円安進行か、会合直前に再び巨額応札が放り込まれるなどの椿事が起きない限り)これ以上オプショナリティのない方の金利が大幅に上昇して歪みが拡大しやすいとも思わない。
金利上昇圧力が続く間、会合直前に売りが集中するようになったところで、理論的には買わされる総額が増えることはない。一方、もしどこかで会合を迎える前に運よく金利上昇圧力が消えたり弱まったら、期中に投資家の早まった売りが出ずに済んだ分、買わされる総額はガクッと減る。つまり毎営業日連続無制限指値オペは金利政策としては金利上昇を抑制するもの(今までと変わらないとの見方も可能)であるが、バランスシート的には量的緩和というより量的緊縮に近い。一方、量的緊縮であるからこそYCCは再びより維持可能になり、YCC早期修正期待は剥落するだろう。
では空砲どころか量的緊縮なのだから指値オペの毎営業日化は本当は円高要因であり、円安に反応するのが間違っているのかというと、市場参加者がどこかでカラクリに気付いてドル円レートが反転する展開にベットするのも賢明ではない。為替は常に雰囲気である。YCCの歴史とは、金利市場をよく分かっていない為替市場の参加者にいかにBSを使わず、金利を下げないまま緩和的な雰囲気をそれっぽく見せるかの歴史でもあった。だからこそYCCの枠組みに最初から概ね含まれているにもかかわらず「無制限」だの「連続」だのといったワードが飛び交うのであって、今回の「毎日」も含めて刺さったり滑ったりしてきた。ファンダメンタルズ的には実弾が毎年10兆円増えた2014年からのバズーカ第二弾ではドル円が1年で20円上昇したが、YCC修正期待の剥落と指値オペの毎営業日化だけではその値幅は出せないだろうとしか言えない。ついでに毎営業日ということは新発10年国債の入札日にも無制限指値オペが行われるので、中央銀行による財政ファイナンスとの誹りを受けやすくなるが、果たしてどこまで話題になるか。

結局YCC継続で「変わらない」ということなので、ドル円レートは再び米国側の要素で決まりやすくなりそうである。そもそも、今サイクルのドル円の上昇は日米の金融政策の違いをきっかけに始まり、日米金利差の拡大に連動してきた。これは最近の円安は「急速な変動」ではあっても「ファンダメンタルズから逸脱」はしていないことをも示唆しており、円安が進んだからと言って為替介入が入るとは期待できないことを示唆する。前回の記事でも述べたように、段取りとしてはあくまでもYCC修正→マイナス金利政策撤廃→為替介入の順なので、YCC修正も遠くなったのでその先も更に遠くなった。従ってここからのドル円レートは引続き米金利次第に見える。本ブログはいまだに「米長期金利が3%を超えても一時的になる」という見方を維持しているのでドル円の上値余地は大きくないということになる。一方、かと言って円高方向には相当戻りづらいことも間違いないし、ここ数年ドル円が狭いレンジに収まってきたのが再び走り出したレジームチェンジの瞬間にも当たるので、数年ぶりに爆発したモメンタムに逆らって天井を当てようとする行為のオッズがよくないことをも示唆する。

本来であれば大幅な円安になると日本は価格優位を生かして猛烈に外貨を稼げるため、一方的な円安進行というのはそうそう見られない。今回円安が急速に進んだ背景としては、経済正常化の遅れによりネガティブフィードバックが上手く働かなかったことがある。最も猛烈に売れるはずの自動車は半導体不足で台数が増えない。観光立国への依存が高まってきた中で中国からのインバウンドが消滅している(旅行収支の悪化)。更に原油高で交易条件が悪化した。これらの構図により実需フローは円安を打ち消すどころか追いかける方向に傾きやすくなっているため、もし仕掛け的な円売りがあれば止める人がおらずワークしやすい環境にあった。絶対額としては対外金融債権から生じる利子・配当金等の第一次所得収支の方が上のどの項目よりも遥かに大きいためそれでも経常収支の赤字転落には至っていないが、第一次所得収支には円安になると増えるような弾性がない。


特にインバウンドという切り口から見ると円安の裏にあるのはドル高と共に人民元高であったとも言えそうである。米中の景況格差にもかかわらず人民元が米ドル高に付いて行けていたのは輸出の増加と、まさに海外旅行に伴う資金流出がなくなったからであり、その影響は旅行収支を受け取るはずだった円を直撃した。対人民元で見ると直近で1元20円に近付いており、これは2015年のピークと同水準である。2015年には中国が人民元高に耐えられずその後チャイナショックが起きた。だとすればインバウンド復活を含む経済正常化が進んだ後、対米ドルはともかく対人民元で1元20円以上は持続しづらいと考えるべきではないか。逆に言うとインバウンド(大半は中国発である)が復活しない限り、円安が本格的には反転しづらそうである。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。