
先週のS&P 500は下を掘ってから反発している。先週の記事では戻り売り優勢の一方、「ポジショニングは軽いので下を売ってもショートカバーに遭いやすく、一旦上がった方が下げやすい」としており、戻り売り目線で見ると週前半は前日引け対比プラス域があれば全て売り場になった一方、下を売ると5月FOMC後と同程度のショートカバーに遭うことになった。4月分CPIは短期的なピークアウト→米金利の反転低下、株の反転上昇への期待がコンセンサスだったように思われるが、蓋を開けるとピークアウトしなかった。ただそれでも金利自体は反転低下し、一方株の反発は遅れた。

週半ばには最近ナスダックとの連動がますます高まってきた仮想通貨のクラッシュの影響も加わって、金利や為替も含めた全方位のリスクオフになった。もっとも金曜のNYオープンまでにはその騒ぎも収まり、そのネタにも耐えたということもあり金曜はリスクオンに切り返した。ARKKに加え久々にGMEなども大きく上昇しているので明らかにショートカバーである。3月のショートカバーを最後に、反発や上げに付いて行くと売りに上から下まで潰されることが多く、FOMCの上げに対しても逆張りで売らないとかなり辛い時間帯が続いたので、2度目のショートカバーも売り場になるかどうかだけが気になるところである。マクロには次は火曜のパウエル講演に注目することになる。

これまで世界中に悪影響に与えてきた中国株は上海のロックダウンを消費しきったところで逆にアウトパフォームを始めており、また日本株もリスクオフが極まるにつれて一時円高になったにもかかわらず堅調さが続いている。米国外からのマクロな悪影響はあまり聞かれなくなっており、代わりに米株自身がFedの引締めとバリュエーション調整圧力と闘っている形となる。



ナスダックのピークからのドローダウン幅はコロナショックを超えた。リテール・アクティビティの鎮静化は過去の記事でも取り上げてきたが、リテールが選好する銘柄とフローから計算されるリテールフローの平均損益は2020年年初からマイナスに転落していることが話題になった。

オプション市場のリテールシェアもコロナ前よりは依然高いものの2022年に入ると共に低下してきた。オフィス復帰でコール買いどころではなくなるのに加え、高く付くようになった消費や住宅購入のための換金売りが出て来るかどうか、またFIREから仕事に復帰する労働力が出て来るかどうかに注目である。

下げ止まる少し前に、VIXが指数の下げに付いて行っていないことも話題になった。元よりVIXの30台は毎日2%の変動に相当するのでそれを維持するのはそれなりにハードルが高く、ただのバリュエーション調整なら逆説的だがあまり不確実性がないので必ずしもVIXが上がる必要がない。いずれにしろリスクパリティの存在感が一貫して低いこともあり、VIX発の変動は今調整であまり話題にならなかった。代わりに懸念が残るのは現にそれなりに高止まりしているリアライズドVolであり、金曜の3%近いショートカバーはそういう意味でやりすぎでありあまり筋がよくない。幸いそれは変に買いが付いて来づらいタイプの、グッドニュースが伴わないただのショートカバーであった。前回の記事で取り上げたリアライズドVolはどうも20台前半にあるらしく、ショートカバーに伴いVIXがその水準まで低下する場面が見られた時は、一段とリアライズドVolが低下するレジームに移行できるかできないかを考えることになり、構造的にできなそうならそのあたりが現レジーム下での天井になりやすいだろう。サブ20を正当化する材料としてはロシア・ウクライナの停戦が必要ではないかと思えるが、停戦する前から忘れられるということがあり得るかどうか。低Volレジームに移行するほどでもないグッドニュースが伴う上げというのが最も筋が悪く、No good news is good newsというのが目下の状況である。

TDのCTAポジショニングも深くなっていたショートが一部カバーされた構図を示唆する。

NAAIMはさすがに3月初以下の悲観さまで切り下がっており、先週と異なり押し目買いを後押しする。
テクニカルには、週足で下ヒゲを引いたもののS&P 500もナスダックも押しがあまりにも深かったので週足陽線にはならず、週足は下落トレンドの切り返しを示唆できていない。S&P 500日足は木曜が下ヒゲ陽線となっており3850は軽いサポートとなる。レジスタンスは引続き4310 /13010であり、奪還まで相当遠いように見える一方、レジスタンスに頭を抑えられるまでのラリー余地もあると言えばある。月曜に続伸となった場合は5月に入って以来の「跳ねたところは全て売り」レジームの否定となるので少し持ちやすくなる。売り場はここから4310までのどこか(ナスダックのネックラインがワークするなら12500)だろうが、チャートの水準よりもVIXの20台前半への回帰が目安になるか。

バリュエーションではS&P 500のフォワードPERが17.1まで低下しており、2018年対比ではまだ相当高いものの、2020~2021年よりはだいぶマシになっている。過去最高値4819から20%調整した水準がちょうど3855であり、2018年のクリスマスショックもだいたいこれくらいの調整幅だったので、この水準は軽そうで意味はあり、2018年のように下落を受けてFedがハト転換する公算が大きくないとしても、過剰にレバレッジさえかかっていなければ長期にわたって助からない水準ではないだろう。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。