
先週のS&P 500は更に下落し、週足は前週のヒゲを台無しにする形で実体が長い陰線となった。週前半は上昇が続いたが、小売りのターゲットとウォルマートの決算が滑ったことから指数全体のトレンドがまたしても上がったところから折り曲げられた。

これはインフレが消費者の需要にいよいよ打撃を与え始めたストーリーに結び付けやすかったし、それ以上にこのあたりのディフェンシブセクターが今回の株安でもこれまで比較的堅調で、景気に前向きでない一方キャッシュも積めない投資家の避難先になっていたところに直球が降ってきたので、総リスク縮小を余儀なくされるきっかけになったと思われる。


水曜には4月から本ブログが取り上げてきた「上がった後の寄り付きから一直線の機械的な売り」が再び見られた。恐らく個人フローのETF市場への分散などを背景に、S&P 500先物の流動性低下は数年前から話題になってきた。VIXが上昇する局面では一層それが加速する。恐らくそれもあって売却フローはVWAPなどで出されがちとなり、それが走り出した日は検出して便乗するアルゴリズムも巻き込みながら引けまで一直線に売られやすくなった。代わりにリテールの利食いや投げが目立たなくなり「寄り付き後に急落してそこでイントラデーのセリクラを迎える」パターンは減っているように見える。そして水曜の出来事は依然地合いが長い目で見て「一旦上がった方が下げやすい」から脱出できていなかったことを示唆する。
一方、急落するとショートカバーに遭いやすいパターンも健在である。前回の記事でサポートとしていた3850も急落の余波で割られてしまったが、そこではオプションエクスパイアに伴うショートカバーで長い日足下ヒゲを作った。もっとも下ヒゲ陽線にはならなかったのでチャート的には底打ちと言うには煮え切らない。いずれにしろ、水曜の展開で上を買い上げる気力はすっかりなくなったようである。1日3%のような「低Volレジームに移行するほどでもないグッドニュースが伴う上げ」を執拗に叩いてきた本ブログの視点ではVIXの低迷も含めて健全化したという見方もできる。


久々に流れてきたDB Positioningではシステマティック勢の売りが一段と加速しており利益を増やしている。裁量投資家のポジショニングはバッドニュースが出ると振り落とされ、それが終わると未練が戻って来るという態であり、過去平均程度で推移している。今後リセッション懸念が盛り上がればこれが平均以下まで一段とカットされ債券にシフトしやすいと考えられるし、そうならないまま1日3%レベルの暴騰暴落が減っていけばシステマティック勢の買戻しも期待できそうである。

GSによると個人の個別株ぶん投げはいよいよ加速しており、コールを買う人も急速に減ってきた。これも指数の値動きの割りにVIXが大人しくしている背景の一つと思われる。コール買いは元本分の資金を持っていない人が株のアップサイドを買う行為なので、Fedの引締め開始を前に大規模なデレバレッジが進んだということになる。




デレバレッジに伴う下落を経てS&P 500のフォワードPERは16.5まで低下した。またそれに伴いS&P 500のリスクプレミアム、4月からこれがあまりにも薄いので株式の魅力度が債券対比で薄いとしてきたが、その後は指数の下落と国債金利の低下が目立ったため(債券が株式を大きくアウトパフォーム)それなりにまともな水準まで戻ってきた。言い換えれば4月以降の株式の下落はあくまでも株式自体の割高域からのバリュエーション修正であり、Fedがインフレ重視だから云々、引締めるから云々という金利サイドからの議論は4月には終わっており、「金利が大きく下がらない限り株が下がる」構図ができていた。株式には単年度EPSに現れないインフレ耐性があるので金利高と(低リスクプレミアム下の)株高は両立できるという反論はバリュー株でしか通用せず、(テックが重い)指数ベースでは「どちらも起きなかった」という現実に直面しなければならない。景気が米国対比でいまいちであるにもかかわらず米株以外が既に米株の下落に飽きたように見えるのはバリュエーション調整の必要性があまりないからである。

もっともマーケットの時間軸では上の議論はただの後講釈にすぎない。ETFのショート建玉で見てもTLTのショートは2月をピークにすっかり盛り下がっており、その後はSPY自身のショートが盛り上がった。つまり上の講釈は4月にすべきだったのである。SPYショート建玉の水準はかなり高い水準となっており、これ以上積み上がるのは難しそうに見える。


NAAIMは既に2020年後半以来見られなかったレベルの悲観域に陥っており、突っ込み売りに続く人が限定的であることを示唆する。もっとも先週も同じことを言っていたが特に効いていない。FMSのキャッシュ比率も高値を更新しておりロングを正当化するが先月も同じことを言っていた。アノマリー的には金曜に向けた値動きをただのオプション・エクスパイアと解釈することもできる。その場合は月末に向けてアノマリー的には支えられやすく、オプション・エクスパイアで掘った3800台は引続きサポートになるだろう。
テクニカルにはオプション・エクスパイアで付けた陽線にもならなかった下ヒゲは案外重要であり、このヒゲの長さのおかげで週足は上ヒゲ陰線にならなかった。とはいえ下値の方は割れたので週前半の高値4100はレジスタンスとして意識されやすい。前回の記事で「4300までのどこか、ナスダックなら12500」と描いた上値余地は実現せずナスダックは12000で反落した。VIXの20台前半も売り場としていたがVIXの低下は25までだった。4300レジスタンスも健在である。アノマリーはともかく、チャートからはサポートを描けない。


日経によるとこれでダウ指数は1896年以来1932年に続く2度目の8週連続下落となり、今週も下落が続けば史上最長の連続下落となる。DBによると今回のS&P 500のピークからの調整の下落幅(▲18.7%)はノン・リセッション下落局面の中で戦後6番目に大きく、リセッションを伴う下落の中間値まであと5%程度であるが、DBは元々バリュエーションが高い分もしリセッションとなったら過去平均を飛び越えて3000まで調整するとしている。調整を経ても上で取り上げたリスクプレミアムがまだ過去平均程度なので、もしリセッションとなれば現水準を始点に調整幅をカウントするのは正しいと思われるものの、先週になって3000を視野に入れる声が一気に増えたので一直線には下がりづらいとは思っている。今週はFOMC議事録と最後まで残っていたNVDAの決算が控えている。

DBによるS&P 500の200日平均からの乖離はISM製造業の悪化を大きく先取りしている。ISM製造業の50割れを既に確信している形になる。

金利、クレジットどちら主導でもいいので、一歩先に下げ止まったLQDかHYGがラリーに転ずるかどうかがS&P 500のラリーを規定することになりそうである。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。