FRED Labor Force Participation Rate
FRED Labor Force Participation Rate Prime Age and 55+
 米国の雇用が堅調、というより人手不足が続いていることが物価高騰の背景でもあり、またFedが経済を気にせず引締めを推進できる根拠にもなっている。雇用が引き締まっているころから賃金も堅調であり一般物価の上昇を後押しする。これは経済が過熱しているというより、コロナ中の給付金や株高によって家計に余裕が出て来たことから労働市場から退出した労働者の数が多かったのが背景である。

 ワクチン接種の浸透や賃金上昇に伴ってプライムエイジ(25 -54歳、働き盛り)労働者の労働参加率は戻ってきた。問題はどのみちリタイアが近い55歳以上であり、これらの労働者は多少賃金が上がったところで復帰しなくなっている。これが労働市場の供給サイドの構図であり、55歳以上が断固として戻って来ない中、プライムエイジの労働参加率が既に2019年並みの水準まで戻ってきたことから、このあたりから概ね硬直的になったと言える。
Job Opening and Unemployment
Parthenon JOLTS and unemployment 
 次が需要サイドである。制約が供給サイドに偏っているので、1年前から雇用ではこれさえ見ていればよいとしていたJOLTS(求人労働異動調査)は、求人が慢性的に埋まらないので高止まりしている。JOLTSは適当な記者会見スクリプトを引っ張ってきても"There are many millions of more job openings than there are unemployed people"とすぐ出て来るようにFedも重視している。多少ミスマッチがあるとはいえ、JOLTS>失業者数の間は景気を引締めたところで失業の拡大は問題にならず、Fedのダブルマンデートの片割れである「雇用」は守られていると言える。Fedは引締めで求人数を減らしにかかっているわけでも、資産価格をクラッシュさせることによって55歳以上の労働者を労働市場に追い返そうとしているわけでもないだろうが、とにかくJOLTS>失業者数なら雇用情勢は引締めを妨げないということである。

GS JOLTS and Linkup Indeed
 JOLTSは発表が遅いのでLinkupやIndeedといった求人サイトのデータである程度予想できる。JOLTS自体は3月がピークであり4月はやや減っているが、この単月の減少でも趨勢的なものであるその観測をGSが示すオルタナティブ・データは補強する。
BofA Burning Glass Job Postings
 バンカメがまとめたBurning Glass Job Openingsも同様の傾向を示す。
GS Job Opening by stock index
sector share of economy and employment SP500
 業績や株価が振るわないテック、特に在宅ブームで恩恵を受けたセクターが次々と雇用縮小や人員削減を打ち出しているのがニュースになった。(S&P 500における存在感と異なり)テック単体なら雇用数も人員削減もたかが知れているが、GSによると上場企業のLinkup求人は在宅セクターか否かを問わず春にピークアウトしている。金融環境の悪化がセクターを問わず効いてきたということか。
GS Slack and unemployment Rate 
 その結果、労働市場のスラック(需給の緩み)はGSによるとほんの少しだけ反転している。もっともテックの労働者が解雇されたところでウエイターやトラック運転手になれるわけではない(かつてその逆のミスマッチについて散々言われていたものである)ので、人手不足がすぐに解消に向かうわけではない。JOLTSにしろスラックにしろ、反転の兆しは極めて微小なものであるが、これだけ人為的に引締めている以上、反転の兆しは積極的に捉えていく方が合理的である。そして反転には更に遅れて慣性が続きそうである。雇用より一般物価が更に遅行することが分かっている中で、Fedがかつてのように雇用から物価変動の兆しを先読みして金融政策を調整するというよりは、物価の数字が動くまで動けないだろうから、この慣性は後になって大きなものになるだろう。
SP500 Human Resources and JOLTS
 S&P 500の人材系セクターはJOLTSとの連動が高かったが、直近で大きく下落している。
Non Farm Payroll NFP
 JOLTSの重要性が増す一方で、示唆が分かりづらくなったのはNon Farm Payroll(非農業部門雇用者数)である。求人は多いに決まっており供給の方がボトルネックなので、NFPが増えたり減ったりするのがインフレ―ショナリーかデフレーショナリーかは直ちには分からない。
US Hourly Earnings YoY
 平均時給の方のメッセージはもう少し明快であり、時給の伸び加速はインフレ―ショナリーに決まっている。人手不足に伴い平均時給は前年比5%台の伸びが続いており、それが8%台のCPIへの耐性の源でもあり、またCPI高騰の原因そのものの一つでもあるが、こちらのピークアウトもJOLTSのピークアウトにやや遅れてやってきそうである。

関連記事

米国の雇用は何の疑念もなく改善

これより先はプライベートモードに設定されています。閲覧するには許可ユーザーでログインが必要です。


この記事は投資行動を推奨するものではありません。