
S&P 500はやや予定調和的な続落となった。最大のイベントは日本時間16日早朝のFOMCと考えられていたが、こちらは1994年以来の75bp利上げとなったものの、株式市場の反応は退屈なまでに 「今年のこれまでのFOMCは参加者がフルヘッジで突入するので無事に通過すると一旦は跳ねるものの当日引けは売り場となり、翌日寄付きから売り直されるパターンが続く」というこれまでのパターンに完全に沿うものになった。あまりにも予定調和的なので、イントラデーでも引けの少し前に引け売りの先回り売りが入ったようにも見える。先週の記事では「もし今週売りが枯れてリアライズドVolが低下しつつ安値更新を拒否すれば、或いは金利が低下に転ずれば来週以降は跳ねやすそうだが、淡々と下がり続けるケースも1日2%, 3%と上下し続けるケースも戻り売りが優勢になる。特にLQD/HYGの支援なく単日で大幅にラリーした場合は引けショートも許されそうである」としていたが、淡々と売られた週となった。

先立って15日にECBが臨時理事会を開いており、本ブログが最近「空気を読まない」と連呼してきたECBの引締め転換が招いたイタリア国債金利急上昇を阻止するための施策を議論した。大した具体策が出て来なかったため茶番との評価も見られたが、元々人工的なクラッシュなので肝心のイタリア国債金利自身はスタンスさえ見えれば十分だったようで、欧州発のリスクオフ懸念はやや後退したように見える。

ECBとFOMCを「無事に通過」したところで、16日にスイスSNBが15年ぶりの0.5%利上げを突っ込んできており、SNBが余資運用で米株をも大量に保有しているのも有名なので一気に市場の雰囲気が悪くなった。更に翌日の日銀政策決定会合にも方向転換の連想が入ったがこちらは市場の臆測を歯牙にもかけない現状維持でさっさと決まった。17日に巨額のオプション・エクスパイア(Op ex)を通過したものの、特にアク抜けっぽい雰囲気にもならず、とはいえ更に売り込まれるわけでもなく週が引けている。セクターではこれまで一人アウトパフォームしていたエネルギーが先週になって失速したのが目立った。それに伴い上昇が続いていた米長期金利も一服している。



バンカメの6月FMSではキャッシュ比率は6.1%から5.6%に低下したが、依然かなり高い。株のネットオーバーウェイト比率も2020年5月並みの低さである。テックも大幅にアンダーウェイトである。



一方DBによると3月~5月にかけて中断していたETFインフローが再び元の軌道に戻っている。長期的に見ても、一般的にS&P 500の10%調整は平均して全AUMの0.7%の資金流出を伴ってきたが、今回はそれが全く見られない。

BofAの週次フローでも資金流出のピークは4月であり、6月に入ってからは流入に戻ってきた。米株では6週連続の資金流入となっている。新たに流入したフローは早速軽い含み損となっており、であれば必ずしも本ブログが繰り返したほど「ポジショニングが軽い」とは言えなくなる可能性も指摘されているが、果たして彼らは痛みを感じるかどうか。

DBのオプション手口はやや反発したがほとんどが指数関連と思われる。個別株オプションはブル・ベア共に全く興味がなくなっており、ETF関連のプットの出来高だけが目立った。


指数関連のみ資金流入というのは先週の記事のJPMやGSのチャートでも見られた傾向と同様であり、個別株やオプションのアクティブな投資家が去った後に積立て勢だけが機械的に残っている構図を示唆するように見える。資金流入に対して指数は下がったので、それだけ誰かがポジションを外したりショートを入れていたことを示唆する。DBの機関投資家統合ポジショニングは6%パーセンタイルまでショート側に振っている。AM/HFの先物ポジションも淡々と売っている。想定されるフェアバリューに向かって収束しつつもまだフェアバリューに辿り着いていない時間帯が最もショートが積まれやすそうではある。



肝心のバリュエーション。フォワードPERは15.4まで低下しており、だいぶ目に優しいものの、長期金利もだいぶ上がっているのでさもありなんであり、問題は本ブログがしつこく取り上げてきたリスクプレミアムである。GSのDDMモデルでは米株のリスクプレミアムは底辺域から少し低いくらいまで戻ったところであり、代わりにECBのせいで欧州株の割高さが目立ってきた。コロナ後に実によく大局感を当ててきた、目下全力ベアなMSはERPはPMIの一層の悪化を織り込めていないとする。


NAAIMは先週の反発を「押し目買いを正当化しなくなった」としていたが、さすがに再び悲観化し始めたので少し押し目買いのオッズがよくなる。BofAのブルベア指数は2020/3, 2016/1, 2015/9, 2011/9, 2008/7, 2002/8に続く0を記録している。

シーズナリティとしては6月後半が弱いのは有名である。前回の記事でもトリプル・ウィッチングの後に反発を期待しようにも自社株買いブラックアウト期間入りという日柄の悪さを取り上げた。ブラックアウト期間に既に入っているので買いフローは積立てフローに限られている。

LQD/HYGはやや解釈が難しくなっている。米長期金利が上げ止まったためLQDも再び「一足先に底打ち」したように見える一方、エネルギーが崩れたことでHYGも一転してアンダーパフォームしている。
テクニカルにはただの続落であり、特に週足で見た時の醜さが目立つ。底打ちシグナルは出ておらず、一方分かりやすいレジスタンスもできておらず、気になるのはせいぜいFOMCの戻り天井3830くらいか。シーズナリティは非常に弱く、バリュエーションは割高さが少し剥落しており、NAAIMとポジショニングは総悲観に近く、ショートカバーが先か、裁量系の投資家が投げるのが先かというところである。5月CPIの後にすぐブラックアウトに入ったFed高官はブラックアウト期間が明けて発言予定が続く。

CPI以外の景気指標は全面的に弱い。金利は大幅に上がったら株が崩れやすく、下がったら場合によるというところか。先週の記事は続落懸念全開だったが、それが実現して下が総意になりつつあるようにも見えるので、今更下を叩きたくはない。先週に引続き、淡々と売られるならもちろん逆らう必要はないものの、もしリアライズドVolが低下すれば水準が跳ねなくても売り枯れ認定が近付き、横ばいの後にはショートカバーが続きそうに見える。一方もし3月末や5月末のような雑なショートカバーがあればそこが買いの逃げ場となるのは今までと変わらない。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。