
米国のマクロ指標がどれもFedの激しい金融引締めに圧迫されている中、頼りは個人消費のみという形となっている。個人の購買力も物価上昇によって明らかに蝕まれ始めている。ミシガン消費者信頼感指数がどんどん下がっているのも気になるところであるが、本ブログはそのような景気の「気」を全く重視しておらず、昨年も「ミシガン大消費者信頼感指数のインフレ嫌いは口嫌体正直」としていたように、大事なのはあくまでも財布の中身と考えている。


全体的に米国の消費者はインフレ期待や賃金の伸びへの自信に従い、インフレを受けて節約するというよりは名目支出を増やしているため、毎月の貯蓄率はリーマンショック後~コロナ前のトレンドを大きく下に割り込んでいる。



代わりに頼りになるのは、やはり2020年と2021年の巨額の給付金と外出の減少に伴って蓄積された過剰貯蓄(Excess Savings)である。過剰貯蓄は「コロナ前トレンド以上の貯蓄率」の積分である。コロナ中の貯蓄率の二つの山は有名であり、2020年春のトランプ政権の失業保険加算及びそれが始まるまでの繋ぎとしての素早い給付金、そして2021年春の必要だったかどうかも良く分からないAmerican Rescue Planである。分かりやすく国民全員にばら撒いたので過剰貯蓄の総額は2021年春時点でCNNが2.6兆ドルと試算しており、これを使い切ったらいよいよ消費の燃料が切れそうだが、過剰貯蓄は2.3兆ドル程度がいまでも健在である。貯蓄率は低下したとはいえ平均で赤字になったわけでもないので、この資金を取り崩す場面はまだ来ていないようだ。この2.3兆ドルの行方が米国がリセッションに転落するかどうかを規定することになる。

さすが米国というべきか、過剰貯蓄は普段から余裕がある高所得層の家計に集中している。給付金は全く困っていない家計にも一律に配られた。トップ20%の家計は平均して5.7万ドルも超過貯蓄を貯め込んでいたのに対し、ボトム20%の家計は昨年末の時点で超過貯蓄を使い切っている。幸い、恐らく賃金が上がったためボトム20%の家計はその後も破綻しなかったようである。



貯蓄率が下がってくると共に富裕層以外の消費者は生活水準を維持するために再びクレジットカードでお金を借り始めた。これはパッと見持続不可能に見えるものの、2020年と2021年はそれまでのペースよりカード利用額が遥かに小さかったので、ある程度クレカ負債は軽減され発射台が低くなっていることに注目する必要がある。つまり安直な議論ではあるが給付金と在宅のおかげで家計のバランスシートが改善していたのである。今後もクレカ負債の積み上げが増えそうだが、しばらくは「2019年までのトレンドに戻っているだけ」の時間帯が続くだろう。


Barron'sのセンセーショナルなチャートでも、そもそも家計負債の中でも住宅ローンと比べると非住宅ローン負債の規模が大きくないことと、2020年に非住宅ローン負債が一時伸び悩んだことが読み取れる。

GSの家計のネット資産を見ても家計のBSは堅調であり、多少株価が落ちたくらいではその構図は変わらなそうである。

改善していた家計のBSを反映する形で、少なくとも昨年末時点ではクレジットカード・ローンの延滞率はコロナ前よりも低い。こちらが上がり始めると消費もコケるので要注目ではあるが、今のところその兆候は見られない。このデータは要注目であるが、やや遅いのが難点である。

クレジットカードローン金利は金利上昇もあって平均で20%に達したという。Fedの引締めはクレジットカードローンの入手のしづらさを通して消費を減速させる作用を持つ。


バンカメカードによると今年春以来のカード消費額は名目値はインフレによって膨らんでいるが、「買った物の量」に近い実質カード消費額は伸び悩んでいる。所得層別で見るとやはり低所得層が先に落ち込みはじめ、5月になると高所得層も実質ベースで昨年比マイナス転している。

セクターごとの支出を見るとガソリンが名目で激増しており、実質では少し節約している。物の消費がある程度抑えられている一方、サービス消費はリオープンで値上がりを気にせず増えている。家賃などカードで払わない項目はここに現れない。

世代ごとに見ても貯蓄が増えた世代ほど夏に旅行を計画しているので、現役世代、若い世代の過剰貯蓄がサービス消費の原資になっていることは間違いない。

収入別に見ても過剰貯蓄が貯まってそうな高収入層ほど、高くても旅行に向かっている。

元々コロナ前と比べて「サービス消費が減った分、物の消費が増えた」という傾向が見られていたのが、ここに来てサービスの方がキャッチアップしてくるという見方が多い。過剰貯蓄が減ってきた上にガソリン支出のウェイトが高い低所得層を中心に物の消費が失速しそうと思われ、そして物の方は供給制約も解消に向かっているので遠からずデフレ圧力が強まることは間違いない。サービス消費についてはお金が国内に落ちて雇用を産むものでもあるので、高所得層に偏在する超過貯蓄を使ってサイクルを回し続けることができるかどうかの鍵を握ることになる。
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