CorePCE Deflator
Supply and Demand driven core PCE inflation
 月末月初に発表された米国経済指標はデフレーショナルなものが続いた。コアPCEデフレーターの前年比伸び率は3ヶ月連続の減速となりピークアウトが鮮明になっている。サンフランシスコ連銀が分析を始めたコアPCEの要因分解ではコロナ後のインフレは供給要因(サプライチェーンの制約)と需要要因が半々ずつということになっている。需要要因は年初をピークに緩やかな低下が始まっており、残りの供給要因(制約)は高止まりつつもマージナルに改善している。
ISM Manu PMI Breakdown
JPM ISM Supplier Deliveries
 次にこれまで妙に堅調だったISM製造業は一気にデフレーショナリーに振れたサプライヤー・デリバリー(入荷遅延)の急降下が話題になった。これはサプライチェーンの逼迫度合いを象徴するシグナルとして知られており、一般的に経済が過熱すると注文に生産が追い付かない工程が増えて来るため、入荷遅延が増える。入荷遅延が長期化すると値上げ圧力に結び付きやすく、同じ議論は2018年の利上げサイクルでも見られていた。コロナショック後は供給制約が深刻化するにつれてサプライヤー・デリバリーは需要の多少にかかわらず高騰し、ISMへの寄与は2018年の比ではなかった。ここに来てサプライヤー・デリバリーは一気にコロナ前の景気サイクルの範囲内に戻ってきた。各担当者の体感では「幾分か緩和」というところではあるが方向感は揃っていた。
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 更に新規受注が低調、生産や在庫の積み上がりは好調と全体的にデフレ色が鮮明なデータとなっている。かつてはIT化の進展と共にリアルタイムの在庫管理が可能になり在庫サイクルが消滅するなどとも言われていたが、コロナ後に供給制約を経験した企業の在庫管理はJust in timeからJust in caseにシフトし、堅調な需要を取りこぼさないように高在庫体制を構築しようとしている。供給制約で大半の企業が在庫を積めない間は値上げでコスト転嫁ができるためマージン悪化に繋がりづらく、在庫が足りないままリセッションという構図は描きにくかった。高在庫体制は構築している間はインフレ圧力になるが、一旦構築が終わるとデフレ圧力に転換するし、需要が気まぐれなら管理に失敗しやすくもなる。需要減の影響は多重発注の取消しなどを通して供給網の川下から川上に増幅される(ブルウィップ効果)
SP Retail Sales and real Retail Sales
Bloomberg Retail Sales vs Retail Inventories 
 奇しくも小売売上高と在庫の比も同様の構図を示している。ターゲット(TGT)ウォルマート(WMT)の過剰在庫は先日話題になった。
WCI Shanghai Los Angeles Container Freight Benchmark 
 サプライチェーン制約の象徴として語られてきた上海~ロサンゼルス間の40フィート・コンテナ貨物運賃も下落が続いている。夏に閑散になりやすいという季節性があるものの、最新分は前年比でマイナス7%まで下がってきた。昨年はインフレ圧力が低い中国の企業や工場が米国企業から受注した貨物が多いのに加え、米国の港湾機能やトラック運転手不足などの制約で届いた貨物も捌き切れず、コンテナと船が中国に戻れないため運賃高騰を招いた。クリスマス商戦が近付くにつれて嵩張るオモチャなどが港湾を詰まらせて単価が高い半導体も渋滞に巻き込まれたりした。春になると下がってきたものの、この運賃はサプライチェーン制約の象徴としてはトリッキーで、中国国内のロックダウンで貨物自体が高速道路の麻痺などで港湾に届かないとなると、サプライチェーン制約の激化を伴いながら逆に下がりやすくもなる。しかしさすがに既に中国国内の物流が最優先で修復された今は明らかにそのシチュエーションではない。単純に米国のグッズの需要が減ったのか、サプライチェーンが復活したのか、或いはその両方である。
Pictet Core PCE Breakdown
 コアPCEの内訳を見てもサービスが堅調さが続く一方、耐久消費財は明瞭にピークアウトしている。これはサプライチェーン修復と在庫回復の結果でもありそうし、需要サイドから見ても消費財が弱くてサービスが堅調という組合せは「米国消費者の過剰貯蓄は大半が健在」でも取り上げた通りである。いずれにしても消費財の方のインフレは終わりが近そうである。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。