SPX Daily 
 S&P 500は先週の記事で取り上げたレンジを上抜けした。月曜はアップルの景気悪化に備えた採用・支出抑制のヘッドラインを受けてGAFAM中心に一度売り込まれたが、火曜には即座に反発し、押し目で買い戻したい参加者の存在を目立たせた。先々週からのガソリンを含む物価ピークアウト・Fed引締めピークアウト・米ドル相場ピークアウト臆測がじわじわと広がり始めたようである。
BofA return after 90 up day
 先週の記事では「ワン・ウィーク・ラリーのジンクスを打破できるかを占うのは月曜が陽線か陰線か」としていたが、そういう意味では月曜まではワン・ウィーク・ラリーからの売り直しパターンに沿っており、パターンから外れ始めたのは火曜ということになる。結果的に月曜が陰線、週足が陽線となったので占い自体は外れている。この日NYSEの90%以上の株が上昇したのをもってブル相場判定を下す声も出た。それまでのレンジ上限3930の分水嶺もこの時に超えられ、ついでにFOMCの10営業日前からリスク落としというジンクスも破られ、様々なリズムが変わったのでショートカバーを誘発した。引け後には前期に大滑りしてバリュー域まで売り込まれたNFLXの決算が許された。木曜になるとフィラデルフィア連銀景況指数が滑り、また空気を読まないECBがサプライズの50bp利上げを入れてきたが、マクロな懸念はTSLAが決算で許されると上昇トレンドに飲み込まれ、S&P 500は4000を一瞬付けた。もっとも週末が近付きPMIの50割れSNAPの再びの決算ミスが更に重なるとさすがに金曜は反落した。携帯料金の滞納が見られ始めたのて通信も売り込まれた。日本では滞納しても追い出されないので家賃の優先度は低いが、米国では滞納しなくても家賃値上げで追い出されそうなので家賃が最優先で、携帯料金を後回しにしそうである。ずっとなぜ懸念されるのか納得できていなかった懸念であるノルドストリーム1は木曜から予定通りに再開されている。
BofA FMS Client Allocation
 色んなポジショニング指標の中で(機関投資家が軒並み落としてきた中で)これだけは全力が続いていたBofAの富裕層顧客の株エクスポージャーはようやく調整しているのを確認できる。BofA FMS Cash Levels
BofA FMS Risk Levels
BofA FMS Recession concensus 
 機関投資家についてはバンカメのFMSが発表されているが、投資家のキャッシュ比率が前月の5.6%から6.1%まで上昇しており、これは2001年10月以来の高さである。もっともバイ・スレッショルドの5%を何ヶ月も上回ってきたのに指数は下がり続けたので、キャッシュ比率はこれまで逆指標として今ひとつ役立って来なかった。今回のデータが急に反発の理由にされたのにはやや作為的なものを感じるものの、そういう材料に揺さぶられやすかったということか。リスク水準も極限なまでに落としている。理由は当然いまやコンセンサスになったリセッションが怖いからである。
Factset Earnings update 
Yardeni EPS
IMG_8849
 リセッションがコンセンサスということは予想EPSが裏でそのうち▲13~15%になると思われていたということだが、今期の決算を通過しつつある中でその現実化が一向に見えてこないとなるとむしろ決算がショートカバーのきっかけになった。S&P 500企業のうち1/5が決算を発表しているが、今のところビート率とビート幅はさすがに例年よりしょぼいものの、直近の予想よりは高い。2022年の予想EPSは9.8%成長を維持している。本ブログがEPSは名目値であると繰り返してきた通り、値上げできている限り収入は堅調さを維持する。実績ではエネルギーの増益率が圧倒的で、一方でマイナスのセクターも多いが、エネルギーセクターはむしろ直近で動きが悪い。テックは辛うじて減益にならなかった。
Most shorted basket
 ショートカバーにも様々なものがあり、文字通りショートポジションを畳む場合もあれば、アンダーウェイトの精神的なショートを埋める場合もある。前兆としては先々週の記事でARKKで取り上げていたが、とにかく恐らくNFLXが許されたのをきっかけに、売り込まれていた銘柄群の踏みが加速した。
TNX LQD HYG
 明らかに景気減速を示唆する指標ばかりだったので米金利は大きく低下し、それを受けてLQDは5月末の水準まで跳ねた。HYGも堅調でこの一角は株の上昇に一定の正当性を与えた。米金利は堅いサポートにタッチしたようにも、ヘッドアンドショルダーにも見える。
DXY
GS USD appreciation and miss
 前回の記事でも触れたようにドル高は決算ミスに繋がりやすいことが多いとされているが、そのドル高が先週になるとインフレと引締めのピークアウト臆測と共に和らぎ始めたことも株式のサポートとなった。

 今週はFOMCに加えGAFAMの決算が続く。GAFAMの決算はこれまでの流れを吹き飛ばす威力を秘める。MSFTとAAPLは既にそれぞれ一度期待値を下げる発信をしている。SNAPはGOOGLの期待値を下げた。更にFOMCも控えている。インフレのピークアウト期待が盛り上がっているが、果たしてFOMCでは市場と同程度の先見性を見せてくれるのか。7月は75bp利上げがダンディールになっており、9月まで2ヶ月もあるのでことさら今匂わせを出さなくても間に合うが、上がったところでは依然パウエル・コールが炸裂する可能性の方が高いように思える。従って上げたところはいちいちオッズが悪くなりそうだし、あまりにも博打色が強いので大きなリスクを取るモチベーションが湧かない。もっともより長い視点では極論が剥落する途中であるので、このあたりのイベントは日替わりのタクティカルな値動きに終始する可能性が大きく、根気よく全ての通過まで待った後はクラッシュよりは逆の可能性の方が高そうである。
NAAIM
 NAAIMは概ね値動き通りのリアクションであり、さすがに5月末と同程度には反転したので、今週以降に高値を追うのは先週ほどは美味しくないことを示唆する。この反発は木曜に発表されているので金曜の調整に繋がったようにすら見える。もっとも昨年や今年春と比べるとまだまだ悲観的ではあり、ペインサイドは引続き大幅上昇だろう。

 テクニカルには火曜の3930ブレイクをもって日足ベースでブル転している。週足は下ヒゲ陽線となり3820はサポートとなる。その内側に木曜の日足下ヒゲ陽線と日足50SMAが重なる3920が軽いサポートとなる。金曜の調整でもこのサポートが尊重されている。本ブログは長期ビューに全く興味がないので今サイクルの指数の下落トレンドが既に底打ちしたかどうかの議論にも全く興味がないが、先週の記事で「3700さえブレイクできないのに3300の話をしても無駄である」としていたのは「3820さえブレイクできないのに3300の話をしても無駄である」に変わる。今回のラリーでは在庫や景気の話題から遠いナスダックがアウトパフォームし、12500を伺う姿勢を一時見せている。「イメージしづらい」としていたS&P 500の4175ももう少し近く見えて来るが、ここまでの勢いを維持したまま付けに行くわけにはいかないだろう。1日3%のような雑なショートカバーがこれまでのラリー局面と異なり概ね控えられているとはいえ、デイリーの変動幅はまだ小さくはないのでレバレッジを積み増す場面ではまだない。Volコンのポジション積み増しは三歩進んで(調整日で)二歩下がるようなイメージである。一方、万が一このまま調整が終わった場合は上からはあまりにも付いて行きづらいため、3820が維持されている限りは軽い押し目買いスタンスを維持した方がストレスが少なそうに見える。

これより先はプライベートモードに設定されています。閲覧するには許可ユーザーでログインが必要です。


この記事は投資行動を推奨するものではありません。