
先週のS&P 500は大幅続伸となった。GAFAMの決算に備えていたところにまず月曜引け後からWMTのウォーニングが炸裂し、火曜はMSFTとGOOGLの決算前ヘッジも入って一日中リスクオフとなった。しかし引け後にどちらの決算も許されると水曜朝からFOMCを待たずに反発が始まり、FOMCでパウエル・コールも出て来ず無難に終わると更に一段高となった。木曜引け後のMETAは文句なしに滑ったが指数全体ではあまり材料視しなかった。

このあたりになるとMSFTなどは5月からの下降トレンドラインをブレイク済となっており、先週の記事で予想していたように週内の日替わりのタクティカルな値動きさえやり過ごせば「クラッシュよりは逆の可能性の方が高そう」の構図は確定していたようなものだった。もしスマホビジネスのシクリカル色が出たらMSFTより怖いAAPLと、WMTに連れ安していたAMZNを控えて一度は「上げたところはいちいちオッズが悪くなりそう」に当てはまるとも思われたが、前日にクアルコムのコールでスマホ用チップ需要は弱かったものの最高価クラスはそうでもないと出ており、途端にAAPL決算を恐れずに持ち越す方がオッズがよくなった。金曜は引けにかけてVWAP買いっぽいじり高が続いた。株高なので月末リバランスは売り優勢と思われていたが、恐らく債券も買われていたこともあって蓋を開けてみると月末の引けフローは株買い優勢となった。

週間を通してS&P 500は4.3%上昇し、月間では2020年11月以来の上げ幅である9.1%となった。ナスダックは月間で13%上昇した。この上げを逃していたら正直言って変にビューを立ててガチャガチャしない方がよかったという結論になりやすいだろう。

今利上げサイクルが始まってから利上げがあったFOMC当日は指数が上がりやすく、一方で翌日から大幅反落するパターンが多かったが木曜も難なく続伸したためこのパターンも崩れ、FOMCの当日&翌日のS&P 500の上げ幅は3.86%と2022年3月(3.50%)、1971年8月(3.04%)会合を上回って過去最高となった。FOMC当日は株式の出来高自体は低調で、夏休みを前に売り直すほどは盛り上がりに欠けたという表現もできる。


経済指標は総崩れで、IMFが世界経済成長率見通しを再び引き下げた。米国GDPは二期連続でマイナスということで簡易計算的にはリセッション入り(テクニカル・リセッション)したが反応は薄かった。PCEデフレーターもなかなかピークアウトしないがこちらも反応が薄かった。ガソリン価格などインフレが少し収まってきたのでミシガン大消費者信頼指数だけは少し改善した。




DB Positioningはたくさん流れてきた。先週末時点で統合ポジショニングは前回流れてきた時の8%から12%パーセンタイルまで復元されている。本ブログがうるさく言ってきたリアライズドVolも1ヶ月単位で下がって来ており直近で21あたりに見えるので、VIXの25割れも大して割高じゃなく見えて来る。とはいえ18や19はさすがに「ここから何かが変わる」ことが織り込まれているという解釈となるので指数の魅力度が低下する。

今週のラリーを経てJPMはCTAのポジショニングが既に中立まで復元された可能性を指摘する。もしそうだとすればシステマティック勢による一層のショートカバー余地は限定的ということになる。



最もスリリングなGAFAMを含む半数以上のS&P 500企業は決算を通過した。EPSのビート率は73%と先週の68%より改善したものの5年平均の77%よりはまだ低く2020年Q1以来の低さとなる。ビート幅はさすがにかなりしょぼく、5年平均8.8%に対して3.1%となっている。2QのEPSコンセンサスは前年比+5.7%、エネルギーを除くと▲4.2%である。

一方、決算が滑った企業でも例年に対しての下げ幅は明らかに小さく、許されている。これが全てである。ポジショニングやキャッシュ比率からも分かるように明らかに投資家が既にベアになっている結果、多少決算が滑ったくらいでは投げる人がすっかり減っている。



予想EPSは2022年はもうこんなものであるが、2023年はややスティープな下げを見せている。もっとも下げた後も巡航速度の伸びを維持しており、リセッションで穴を掘るような予想になっていない。リビジョンインデックスはさすがに弱さが加速した。ここから指数が上値を伸ばすならそれは一層の金利低下か「新テーマによる再始動」、どちらもなければただのショートカバーでこちらは最も美味しい時間帯はすぎている。


バリュエーション。反発を経てS&P 500のフォワードPERは17.2まで上昇した。中身は相変わらずエネルギーだけが安く、他は5年平均とあまり変わらないというところである。予想EPSはゆっくりと下がっているので指数の上昇はPERの回復であり、PERの回復はエクイティ・リスクプレミアムの圧縮と金利低下によって実現している。とはいえ実際に利下げサイクルに転じ金利が今より遥かに低い2019年でも20には乗っていないのでFedの緩和転換を確認できるまでフォワードPERの上値余地はせいぜい19、つまりここから指数には10%のアップサイドもなさそうである。

エクイティ・リスク・プレミアムは指数の反発と金利低下を受けて停滞している。本ブログが米株は割高、割高とうるさく言っていた頃と比べるとだいぶ調整は済んでおり、指数はその後ボトムから1割以上跳ねたものの、金利も一時期上がったところから戻ってきた(まさにリスクプレミアムのまとめ記事で「指数のアップサイドを規定するのはEPSよりも金利低下幅」としていた通り)ので、2018年程度の割高さで済んでいる。


米金利の低下は明らかにS&P 500の下支えとなった。これはバリュエーションの議論上でもそうだし、債券売り・株売りのインフレトレードを吹き飛ばしたことにより株の方にも買戻しを迫った側面もありそうである。債券買いの動きは力強く、10年金利は「米金利は堅いサポートにタッチしたようにも、ヘッドアンドショルダーにも見える」としていたのだが、5月と7月の安値を割って2.6台まで買い進められている。実質GDPの2期連続マイナス化も株は大して反応しなかったものの金利は大きく反応した。これは月末及び8月は金利が低下しやすいという債券なりのシーズナリティが意識されているからでもあるが、2022年年末までの利上げ回数も13回を割ってきており国債には割安感がなくなった。とはいえ本ブログは経済からの金利分析はシーズナリティよりも価値が低いと考えているため、利上げパスの織込みがおかしいかどうかで金利の上下を予想しようと思わない。価値が低いというのは、そのような分析からひねり出した予想のドリフト項がシーズナリティ対比でしょぼい上に、ドリフト項の方向も外しがちであることを指す。

とはいえシーズナリティを通過した後は米金利は低すぎるということになる可能性は高いだろう。奇しくも大統領2年目のS&P 500のシーズナリティでは7月堅調の後は8月はフラット、9月は下がりやすいことが知られている。とすればゴルディロックス的な雰囲気は続いてもせいぜい8月中という心の準備になるか。


株高と金利低下に伴いFCIは再び緩くなったのでパウエル・コールの発動を再び懸念されるところであるが、次のFOMCまで2ヶ月近くもあるのでその間ネタ切れになってしまい、その日柄もサマーラリーを正当化したように見える。決算を通過すると自社株も買えるようになる。JPMを信じるならばシステマティック勢の買戻しはかなり済んでいると想像できるのでそのあたりに買いポテンシャルがシフトする。

NAAIMは激しいラリーにもかかわらず先週からあまり変化しておらず、引続きロングが重いわけではないことを示唆する。先週の記事で「ペインサイドは引続き大幅上昇だろう」としていた通り、先週のラリーはMost Hated Rallyと煽られがちだった。
テクニカルには先週に続いて週足下ヒゲ陽線が連発されており強いチャートとなっている。「3700さえブレイクできないのに3300の話をしても無駄である」「3820さえブレイクできないのに3300の話をしても無駄である」としてきたのは「3910さえブレイクできないのに3300の話をしても無駄である」に書き換えられる。先週の記事は決算とFOMCを博打と形容し、「通過した後はクラッシュよりは逆の可能性の方が高そう」としていたがやはり博打には参加しない選択肢がなく、イメージよりもかなり前倒しでラリーが始まった。「ここまでの勢いを維持したまま付けに行くわけにはいかないだろう」としていた4175まで残り1%となっており、勢いを維持どころか加速して近付いた形となる。一方「3820が維持されている限りは軽い押し目買いスタンスを維持した方がストレスが少なそうに見える」としていた通り、週前半に下げたところは目を瞑って押し目買いでよかった。今週以降は3820が3910に書き換えられるが少し遠くなってしまう。
リセッション云々のノイズに反して無事に決算を通過したとは言っても、今回の反発局面の上値はバリュエーション的にはどんなに頑張ってもせいぜい4300あたりが限界に見え、「長期金利が大幅に低下しない限りあまりイメージが付かない」から長期金利の低下を経て「もう少し近くなる」としてきた4175は、たとえ上にブレイクされてもそれは新たな強気シグナルとして捉えるべきではない。基本的に現水準より上はポジションを細くする利食い場に見える。一方、同じ逆張り目安でも値頃感でしかない4175 -4300間よりも3910サポートの方がテクニカルには強そうなので、4000近辺は押し目買いできるだろう。マクロネタもなくなったので8月全体にわたって3910 -4300のレンジをイメージすることになる。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。