SPX Daily 
Bloomberg Headline and Core CPI
 S&P 500は4本目の週足下ヒゲ陽線となった。ビッグイベントであったCPIはさすがにピークアウトが完璧なコンセンサスだったものの、イベント前に一旦調整が優勢となった後、ヘッドラインに加えてコアの方もピークアウトしたため素直に株高になった先週の記事では4080に注目していたが、CPI前の調整は4155から4112へとちょうどよい値幅のものとなり、4080はイベント前に少しヒヤッとしたものの守られた。その後発表されたPPIのピークアウトもとどめとなったが、そのあたりからは消化試合であった。肝心の金利はインフレのピークアウトを受けても低下せず横ばいだった。これはFedの制約が減ってバックミラーさが減ることは引締めがリセッションに結び付く可能性が低下したという解釈となる。Fed高官はパウエル・コールを試みた形跡もあり、金利は素直に2023年利下げの織込みが剥落したものの、株だけは反応しなかった。
GS non fundamental demand 
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 買い上げの主体は明らかにシステマティック系のショートカバーである。GSは毎日13bnの株買い需要を観測している。ショートカバーフローは4週間ほぼ絶え間なく(20営業日中17日)続いた。CTAの「非ファンダメンタルズな ERX需要」が週を通して37bnの買戻しに迫られるとの観測もあった。MSも同様にHFの今年最速ペースのショートカバーを観測している。同じようにルールベースのクオンツ勢も先物を買い戻している。先週の記事で述べたように、システマティック勢の「ポジショニングが威力を発揮しているのはまさに「今」である」。淡々と指数の値動きに順張りするだけのCTAならともかく、普段企業分析をしたこともないようなマクロ勢が発作的に「リセッションになると過去の例ではEPSが14%やら15%低下するアナリストのボトムアップEPS予想はまだ甘い」とここぞとばかりにアナリストの予想にチャレンジした挙句に4200越えで踏まされていたとすれば格好も付かない負け方である。FOMO(Fear of missing out)からFOMU(Fear of materially underperforming)、FOMB(Fear of missing benchmark)など何でもありな名付けられ方である。
TD CTA Positioning
 トロント・ドミニオンのCTAトラッカ―によるとCTAは大幅な上昇に伴いさすがにショートカバーに迫られている。
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 S&P 500はボトムから17%、ナスダックは20%ラリーし、S&P 500はピークからの下落の半戻しを達成した。1972年以来全てのケースで下落の半値戻しを達成した後に安値を再び試したことがないと言われている。
JPM Macro HF Beta
 
JPM Retail volume
 HFの株βは依然軽い。代わりに2021年のオフィス復帰で大きく低下していた個人の取引ボリュームは直近で再び増え始めた。指標発表より少し前から体感できたインフレの鎮火と共に再びハイグロに突っ込み始めたとも、利食いに入ったとも言われる。
BofA Household equity flows
 今サイクルの調整では機関投資家が変な景況感に従って下を売っただけで、個人投資家は大々的に下値で投げることなく、概ねブレイク・イーブンに戻るまで耐え抜いた。そういう意味でアク抜け感はないと言えばない
Yardeni Forward PER
GS EPS PER Table 
 米企業の決算発表は終盤に近付いた。2023年のEPSコンセンサスに対して直近の水準のPERは17.5に当たる。インフレがピークアウトしたところで(米国債を買う理由は立てやすくなったものの)米長期金利は2.5%のロンガーラン金利割れからは依然遠い。そうするとリセッション懸念の剥落に伴いエクイティ・リスクプレミアムは著しく圧縮されたという解釈となり、バリュエーション的にはS&P 500はそろそろ割高域に突入する。
Bloomberg VIX
 リスクオンに伴いVIXは大きく低下している。VIXのチャートにトレンドラインを引く行為はとかくバカにされがちであるが、いずれにしろVIXは4月と1月以来の20割れである。リアライズドVolはつい先々週までは20に載っているので、20割れはリスクプレミアムがすっかり剥落したことを示唆しておりこちらの観点でも指数は割高化する。反論としてはインフレがピークアウトしたのだからベース金利の水準は別としてボラティリティ源は一つ減ったという解釈があり得る。また下げの時も同様だがバリュエーションに現実のモメンタムを食い止めるのを期待するのは分が悪い。今後も1日2, 3%の暴落暴騰があると振り出しに戻るが、毎日じりじりとした上昇が続くならVolコントロールのポジション復元が完全に終了するまで上昇が自己実現しやすくなる。
NAAIM
 NAAIMは一気に上に伸びており、買いの最もオッズがよかった時間帯は過ぎていることを示す。アノマリー的には19日がオプション失効日であり、そのあたりに向けて調整してから失効日近辺から反発しやすい。その後は9月はアノマリー的に弱いのでサマーラリーはせいぜい8月中のものになりそう。

 テクニカルには4本目の週足下ヒゲ陽線であり、週足サポートは先週の記事の4080から4110に引き上がる。
3700さえブレイクできないのに3300の話をしても無駄である
3820さえブレイクできないのに3300の話をしても無駄である
3910さえブレイクできないのに3300の話をしても無駄である
4080さえブレイクできないのに3300の話をしても無駄である
としてきたのは「4110さえブレイクできないのに3300の話をしても無駄である」に書き換えられる。とはいえ上で見て来たように直近の上げを誘発したのはシステマティック勢のショートカバーであり、(値頃感ショートでショートカバーに巻き込まれるのはそれ以上にアホらしいもの)腰を据えた買いポジションを構築するほどの水準では明らかにない。4110以上で押し目ができたところでは押し目買いで遊んでもよさそうな地合いではあるが、現水準を評価するとなると、4110までドローダウンしてもアホらしいと思わない程度の細い買いポジションを維持するのが精神衛生にいいだろう。上値余地はせいぜい4300が限界としてきたがいよいよ近くなってしまった。少し上に200SMAの4320が続くが、このあたりになるともはや「ブレイクしたら買いで付いて行く」ような水準ではない。ショートカバーが一巡したらさすがに重くなってくるだろう。

 リセッション懸念の剥落が感極まって米金利が3%を再び超えた場合は再びいい加減高いということで株に下押し圧力がかかりやすくなりそうだが、突っつかれて崩れるような重いポジションもなければそれも押し目に終わりそうである。大局観としてはQT2が控えており、また株のリスクプレミアム剥落に対してUSIGが全くタイトニングしていないところから、今は2018年のVIXショックの後、アップルショックの前の回復局面に当たると考えているが、万が一それが外れたらアホらしすぎるので、ショートカバーをやり過ごさない限り足元の展開を否定しにかかるのも気が引ける。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。