9月に続いて10/21の深夜に財務省が再び大掛かりな為替介入を行った。為替介入は23時台から夜通し行われ、更に週末を経て10/24の朝に恐らくもう一度入った。サプライズ効果もあった1回目と異なり、2回目はそれなりに市場参加者によって警戒されていたところに正面からマーケットを押し下げにかかり、ドル円を一時5円以上も押し下げた。前回に続き、ことさら下に売りオーダーを置いてマーケットを押し下げようとするやり方が値動きから見えるのが為替介入の特徴であった。為替介入の委託を受けた日本銀行があまりにも巨額の取引をインターバンクに持ち込んだため、最後の方になると銀行勢のクレジットラインがいっぱいになり、そこで日銀は取引できる相手がいなくなったのをいいことに144台の売りオーダーまで置いたようで、その結果ニュース記事では「一時144円台」という見出しになったが、144台のチャートを我々は目視できない。
前回の記事では為替介入があった後の規模の推定方法を紹介した。それに従うと当座預金の変動は
10/21(10/25決済、10/24夕刻発表):実績▲11,100、短資会社予想42,500~43,000
10/24(10/26決済、10/25夕刻発表):実績▲15,300、短資会社予想▲6,000
(億円)となっていたので、介入規模はそれぞれ5兆4000億円程度、9,300億円程度と予想できた。10/31に発表された「外国為替平衡操作の実施状況」によると10月中の財務省の為替介入額は6兆3,499億円となり、ほぼ概算の結果通りとなっておりサプライズがない。9月中のそれは2兆8,382億円であったので、2ヶ月で9兆2千億円程度の資金を使ったことになる。11/8に発表された10月末の外貨準備では再び外貨預金は手つかずで、証券が44bn減となっている。8月や9月と違って10月は米ドル相場も短期金利もあまり動いていないため、外貨準備ポートフォリオ全体の時価ブレは大きくない。44bnは介入時のレートで6.5兆円程度なので、再び証券の取り崩しがそのまま為替介入原資になったわけである。ここまで大々的に取り崩されると、さすがに米国債やBillのアウトライト・セール(市場での売却)がなかったと主張するのはいい加減苦しくなる。
前回の記事では「米国債を売らない、外貨預金にもタッチしない制限付きの為替介入はともかく、本ブログが思い描いたような米国債を取り崩しながらの為替介入であれば想像以上にカジュアルに行われる可能性がある。財務省が9/22の為替介入を公表した背景は「隠しきれるものではない規模になっていた」とのことなので、逆に言うと短資会社の資金過不足予想の誤差の範囲に隠れる程度の規模(数千億円~1兆円)の覆面介入も黙って行われる可能性がある」と描いていた通り、やはり恐らく世間の想像以上に大規模な為替介入がカジュアルに行われたことになる。もっとも覆面介入に限っては7-9月分の日次データが11/8に公表されており、9月中は行われなかったことが判明している。
為替介入のタイミングについても、「本当に隠したい心理があるなら、短資会社予想の資金過不足が大きい日の方がブレも大きそうなので隠れやすく、従ってその2営業日前には覆面介入が入りやすいのかもしれない」としていた通り、4.3兆円もの資金過剰が予定されていた10/25の2営業日前に覆面介入が入った。もっともこの日は勢い余って4.3兆円以上の介入をぶち込んでおり、もはや覆面でもなくなってしまっている。そういう意味で本ブログが「1~3円程度のドローダウンなら海外への現物投資を行う投資家からすると誤差であり、ほとんど恐れる必要もない」としていたのは、恐らく市場参加者の中では「カジュアルな円買い介入」を警戒していた方だったにしろ、それでもなお財務省を見くびっていたことになる。
なぜ思い切って前回(チャートを止めるという意味では)効かなかった為替介入の倍にあたる6兆円も投入する気になったのか。為替介入の45分ほど前にちょうどWSJのNick Timiraos記者が12月の利上げ幅縮小の記事を発表しており、ドル円は一時新高値から下げ始めていた。この利上げ減速の観測記事に乗っかるようなタイミングで為替介入は行われた。さすがにWSJの記事を読んで45分で介入を決めたわけではないだろうが、躊躇なく資金を投じた後押しにはなったに違いない。いやそれでも45分では足りないと考えた場合、財務省は米国サイドのカウンターパートから既に似たような、つまりFedは既に利上げの減速局面に差し掛かっているとのレクチャーを受けたのではないかというもう一つの可能性が浮上する。逆に、ブラックアウト期間外の発信でありことさらリークとして使われたわけではないことがほぼ確定しているNickの記事がやたらと信憑性をもって受け止められたのは、まさにそれに乗っかる形で財務省の為替介入が大々的に行われたからではなかろうか。
いずれにしろ、財務省がチャートが曲がりかけたところに順張りの為替介入を放り込んできたのはトレーダーとしては秀逸な判断だった。Nickの記事もあったので逆張りの買いは心もとなかった。ただ、深夜の為替介入は(ある程度オーダーを置いているだろうが)輸入勢がまともに買えないので補助金になり得ない。月曜の朝になると輸入勢が当然押し目を買ってくるだろうからドル円は再びスルスルと浮き上がったが、そこになんと2発目の為替介入が敢行された。朝8時台なのでマーケットは薄く、数千億円を使っただけで4円押し下げることができた。そこでは輸入勢の買い注文が殺到したことは想像に難くない。結果的にチャートはすぐに再び跳ねてしまったが、輸入勢さえ買えればよいのである。2度目の為替介入は1度目より遥かに洗練されていたという評価ができるだろう。
前回の記事は為替介入が入りやすい日柄の推測の仕方を紹介したが、それはある程度の実証されたと言ってよいだろう(結果的に隠す気もないくらい大規模な為替介入になったため、たまたまだったかもしれない)。次回もタイミングはそれで考えればよいとして、為替介入が入りやすい水準はどうか。前回の記事でも為替介入は特定の水準を防衛するためのものではなく、またそうすべきでもないと主張した。代わりに「過度なボラティリティ」を阻止するためのスムージング・オペレーションである理由も述べた。では「過度な変動」とは何か。1度目の為替介入の前は必ずしも変動が大きかったわけではない。2度目は直前の1週間に安値から5円近く上昇し、高値を更新した。今後も「新高値かつ1週間で安値から5円」が為替介入を招来する上限として意識されやすいだろう。
結果的に、財務省は少なくとも短中期的にはドル高からドル安への転換点を綺麗に捉えることに成功した。11月FOMCを通過して見ても、Nickの記事通り、12月の利上げ幅は初の縮小になりそうである。代わりにそれは来年「より長い期間にわたって」利上げを続けるためであり、FOMCは来年の利下げ期待も打ち消しにかかった。これは米金利から見ると朝三暮四なのでニュートラルだったが、代わりに恐らくFedが狙っていなかった現象が発生した。利上げ懸念と利下げ懸念が一斉に後退することによって金利市場のインプライド・ボラティリティ(MOVE)が大きく剥落したのである。今年に入ってから対円に限らず対他通貨でも米ドル高はMOVEの上昇と共に進んでおり、MOVEの下落と共にドル高も調整局面に差し掛かった。これは素直な連動であり、なぜなら米ドルを手元に確保しておく需要を最も作り出したのは米国の金融政策の不確実性だからである。対G7の金利差も大事ではあるが実はそこまで関連が明瞭ではない。ドル円の150台はすっかり遠くなってしまった。円安自体は大して修正されておらずあくまでもドル安であるが、話題になっているのはあくまでもドル円のレートなのでそれでよい。
財務省が為替介入で小銭を稼いだ代わりに、11月FOMCの朝三暮四によって詰んでしまったのは日本銀行の方である。黒田総裁の任期中はイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の修正や撤廃がありそうにないが、来年春に総裁が交代すると、円安問題の根本的な原因であるYCCは早々に修正されると見られている。日銀のYCCが生き残れるナローパスとは黒田総裁の退任までにFedがpivotすることであった。しかし、pivotが来年春から来年後半に遠ざかるにつれて、YCCが修正されないまま生き残れる可能性はどんどん低くなっている。
上田八木短資会社 月間資金需給見込み・日足予想
セントラル短資・各種スケジュール等
財務省・外貨準備等の状況
財務省・外国為替資金特別会計の外貨建資産の内訳及び運用収入の内訳等
財務省・対外対内証券投資の推移
財務省・統計表一覧(対外及び対内証券売買契約等の状況)
財務省・統計表一覧(外国為替平衡操作の実施状況)
いずれにしろ、財務省がチャートが曲がりかけたところに順張りの為替介入を放り込んできたのはトレーダーとしては秀逸な判断だった。Nickの記事もあったので逆張りの買いは心もとなかった。ただ、深夜の為替介入は(ある程度オーダーを置いているだろうが)輸入勢がまともに買えないので補助金になり得ない。月曜の朝になると輸入勢が当然押し目を買ってくるだろうからドル円は再びスルスルと浮き上がったが、そこになんと2発目の為替介入が敢行された。朝8時台なのでマーケットは薄く、数千億円を使っただけで4円押し下げることができた。そこでは輸入勢の買い注文が殺到したことは想像に難くない。結果的にチャートはすぐに再び跳ねてしまったが、輸入勢さえ買えればよいのである。2度目の為替介入は1度目より遥かに洗練されていたという評価ができるだろう。
前回の記事は為替介入が入りやすい日柄の推測の仕方を紹介したが、それはある程度の実証されたと言ってよいだろう(結果的に隠す気もないくらい大規模な為替介入になったため、たまたまだったかもしれない)。次回もタイミングはそれで考えればよいとして、為替介入が入りやすい水準はどうか。前回の記事でも為替介入は特定の水準を防衛するためのものではなく、またそうすべきでもないと主張した。代わりに「過度なボラティリティ」を阻止するためのスムージング・オペレーションである理由も述べた。では「過度な変動」とは何か。1度目の為替介入の前は必ずしも変動が大きかったわけではない。2度目は直前の1週間に安値から5円近く上昇し、高値を更新した。今後も「新高値かつ1週間で安値から5円」が為替介入を招来する上限として意識されやすいだろう。
結果的に、財務省は少なくとも短中期的にはドル高からドル安への転換点を綺麗に捉えることに成功した。11月FOMCを通過して見ても、Nickの記事通り、12月の利上げ幅は初の縮小になりそうである。代わりにそれは来年「より長い期間にわたって」利上げを続けるためであり、FOMCは来年の利下げ期待も打ち消しにかかった。これは米金利から見ると朝三暮四なのでニュートラルだったが、代わりに恐らくFedが狙っていなかった現象が発生した。利上げ懸念と利下げ懸念が一斉に後退することによって金利市場のインプライド・ボラティリティ(MOVE)が大きく剥落したのである。今年に入ってから対円に限らず対他通貨でも米ドル高はMOVEの上昇と共に進んでおり、MOVEの下落と共にドル高も調整局面に差し掛かった。これは素直な連動であり、なぜなら米ドルを手元に確保しておく需要を最も作り出したのは米国の金融政策の不確実性だからである。対G7の金利差も大事ではあるが実はそこまで関連が明瞭ではない。ドル円の150台はすっかり遠くなってしまった。円安自体は大して修正されておらずあくまでもドル安であるが、話題になっているのはあくまでもドル円のレートなのでそれでよい。
財務省が為替介入で小銭を稼いだ代わりに、11月FOMCの朝三暮四によって詰んでしまったのは日本銀行の方である。黒田総裁の任期中はイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の修正や撤廃がありそうにないが、来年春に総裁が交代すると、円安問題の根本的な原因であるYCCは早々に修正されると見られている。日銀のYCCが生き残れるナローパスとは黒田総裁の退任までにFedがpivotすることであった。しかし、pivotが来年春から来年後半に遠ざかるにつれて、YCCが修正されないまま生き残れる可能性はどんどん低くなっている。
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