Nikkei Global Residential property price 
Bloomberg Property price by city
 世界中が一斉に金融引締めに差し掛かる中、不動産市場への打撃の懸念が話題になっている。長期金利の上昇に連動する形で住宅ローン金利が上がれば、当然借りる人は減るし、借りられる金額も減って来るので住宅価格はその分ディスカウントになりやすい。住宅価格の調整のペースや調整幅は国によって異なっており、日経新聞などは「利上げで先んじた国や市場が過熱していた国」ほど調整が深刻としており、また家計債務の大きさに注目している。それでは利上げが遅れた国々も遅れて調整がやってくるのか。
Urban Institute MBS ownership by country
 本ブログは先立って米国の不動産市場について調査していたが、一度消費者が大挙して固定金利で30年以上借りてしまい金利リスク(及び金利上昇後の損失)を世界中の機関投資家に転嫁してしまった後の、不動産市場の引締めの効きづらさにはため息が出るばかりであった。固定金利住宅ローンの金利を引き上げたところで新たにローンを組みづらいだけで既に借りて住宅を購入した人の支払いには影響がないため、それだけでは住宅の売却は増えない。

 一方、変動金利住宅ローンが主流の国々では既に購入した人にも等しく利払い負担増の影響が押し寄せる。利払い額が想定以上に膨らんでしまい、家計が負担できないほど高くなった場合に人々は住宅の売却と住み替えを考えるようになる。利上げサイクルに対する各国の不動産市場の脆弱性を考える時、家計債務などよりも変動金利ローン比率を考えた方が有用ではないだろうか
RBC Mortgage variable rates share
 米国、イギリス、オーストラリアの住宅ローンの変動金利比率をブルーベイ・アセット・マネジメントがまとめてくれている米国は99%が固定金利である。更に固定金利期間も国によって違いが大きい。米国の30年が際立って長く、イギリスとオーストラリアは固定金利期間が平均で5年以下である。固定金利とは言ってもあと1、2年で固定期間が終わるローンは変動金利のようなものなので、実質的にはイギリスは55%が変動金利、オーストラリアは90%が変動金利ということになる。
Bloomberg Variable rate morgage share by country
 フィッチなど他のソースからでも似たようなデータを確認できる

 不動産バブルからのバブル崩壊が最も懸念されている韓国では家計債務が大きいだけでなく、変動金利住宅ローンが80%を占める

 カナダはコロナ後に新規の変動金利住宅ローンの割合は2割から3分の1まで上昇した。カナダの住宅ローンは興味深く、変動金利が上がっても月々の支払いは増えず、代わりにあまりにも急激に金利が上昇した場合は月々の支払いが金利よりも少なくなってしまうため元本が膨らんでいく。
Swedish Banker variable rates mortgage share
 欧州で見るとフィンランド、スウェーデンなどの北欧勢のアグレッシブさが目立つスウェーデンの不動産市況の悪化がレバレッジの高い不動産企業の債務問題に発展しているのも偶然ではない。
 このように見ていくと韓国は言うまでもなく、主要国の中でも少なくとも北欧やオーストラリアあたりの住宅市場は米国よりも利上げで圧迫されそうなことが分かる。不幸なことに今のインフレと不動産バブル退治の主役はFedであり、他の中銀は通貨安によるインフレ再燃を防ぐためにも、世界で最も頑健な住宅市場に向けた金融引締めに追従している構図にある。どこかで変動金利組はFed追従からの脱落を余儀なくされるだろう。Fedも早いうちからpivotすればグローバルでソフトランディングとなるが、果たして。
Bloomberg SP Case Shiller 20 city home price index
 逆に変動金利組の脱落がFedの将来の金融政策に対して与えるインプリケーションは限定的である。オーストラリア中銀(RBA)は11月会合で利上げ幅を25bpに抑えた。以前に住宅市場の冷え込みがマイナスの資産効果を通して消費に大きな打撃を与えた前例が繰り返されるのを警戒したのが主な理由の一つであった。カナダ中銀(BOC)も10月会合で75bpと予想されていた利上げを50bpで済ませた。その際に「住宅や高額商品への支出など、経済の金利敏感な分野ではますます鮮明になりつつある」としている。RBA、BOCの利上げペース減速は結果的にはFedの利上げの75bp幅から50bp幅への遷移に先行した形となるが、今後は必ずしもそうではない。住宅価格が10%調整したオーストラリアやカナダと、辛うじて1%調整したかどうかの米国とでは環境が異なるからである。
Dallas Fed Mortgage borrowing costs
NY Fed 30d delinquency rate
 既存の住宅ローンの多くが低い固定金利で固められているため、米国の可処分所得に占める住宅ローン支払い額の割合は、全プールで見ると住宅ローン金利が大幅に上昇した後も低く抑えられている。その結果、延滞率もあまり上がって来ない。前回の記事でも述べたように、せっかく低い固定金利の30年住宅ローンを借りて住宅を購入したのに、その後の金利上昇に伴って理論上は含み益が出ている低い固定金利の住宅ローンをわざわざタダで解約して住宅も安売りするような人は少数なのである。これは変動金利シェアが高い国々と大きく異なる。
Dallas Fed Housing price, Zillow rents and CPI shelter
GS CPI rent
 賃料は住宅価格に更に遅行するともされているが、住宅価格よりも景気に素直に連動するという捉え方もできる。米国の賃料は不動産情報サイトのデータを見ると少なくともYoYでは伸びが鈍化しているが、CPIに現れる住居費はこれまた全プールの議論なので、新規契約の賃料が情報サイトデータが示す通りに鈍化したとしても、それが過去の契約対比で高ければCPI賃料は伸び続ける。一方それはCPI賃料が所詮は遅行指標にすぎないことをも意味しており、いつ情報サイトの賃料がCPI賃料波及するかをある程度予想することもできる。その結果CPI賃料自体はそこまでシリアスに意識される指標ではなくなっている。遅行指標を捕まえてインフレがしつこいと表現する人が多いが、遅行指標はしつこいに決まっているのである。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。