
先週のS&P 500は米国PPIやポーランド領へのミサイル落下などのヘッドラインをこなして小動きとなった。先週の記事で述べた「CPIを受けて近い将来に再び急落して下値を更新するリスクは急速に剥落した。しかし上げも急速で雑なものだったのでS&P 500の3740にしろ、ナスダックの10250にしろ、サポートは軒並み遠くなっており、急いでレバレッジを上げて付いて行ったりすると調整でのドローダウンがまたアホらしく感じてしまう」雰囲気が市場参加者に共有されていたようである。少なくとも後述のOp Exまで「アップサイドがペイン」だったことは間違いなく、もしポーランドのヘッドラインがなかったらショートはPPIで切らされるところだっただろう。「景気を占ったり連想するのに使われそうな銘柄群」の決算ではTGTがまた滑り、HDが無難、でも小売売上高がそれらを打ち消した。


インフレの鈍化そのものは必ずしも企業収益に対してポジティブとは限らないが、とにかく金利が下がったのでバリュエーションは膨らみやすくなった。何よりもトレンドに追従する形で株と債券をアンダーウェイトにしてきたクオンツ系は両方同時に踏む。木、金の2日間でクオンツ系は推計2250億ドルの株と債券を買い戻したという。

JPMによるとリスクパリティやバランス系ファンドの株式βは依然抑制されている。骨である60:40戦略がワークしていないので残当である。

BofAのFMSはポジショニングがディフェンシブに寄っておりテックが過去対比でかなり軽い水準までアンダーウェイトになっていることを示す。もっとも2021年から断続的にアンダーウェイトではあったのだが、直近では更にそれが深まっている。代わりにオーバーウェイトとなっているのはディフェンシブである。

投資家はずっと揺るぎなくCPIのピークアウトを信じてきたが、その後短期金利が12ヶ月以内に低下する期待も剥落してきた。その組合せは実質金利上昇とデフレ転落を意味するのでポジショニングの説明になる。

しかしファンドの中の人がどう思おうと需給としては現金から株式に資金フローは殺到している。


個人投資家も機関投資家も短期オプション取引に殺到しているためオプション取引のボリュームも増え続けており、その44%を24時間以内のオプションが占めるとGSは言う。


先週の記事でDBのチャートでも取り上げたように、短期なのでコールの買いに傾くのはリーズナブルであり、その結果S&P 500と、体感でも使えなくなったVIXの逆相関が薄れてしまっている。


そこまで踏まえて18日のOp Exを考察すると、ディーラーのガンマロング消滅で4000ピンがなくなって動きやすくなるというよりは、ディーラーがコールの売りを持たされ、直前に下から4000に近付くにつれてショートカバーを迫られる圧力がOp Exで消滅したと見た方がすっきり来る。スポットは直近では一直線で上がってきたのでプットはもっと下に取り残されているはずだ。実際18日NYオープン前はショートカバーが優勢であったが、現物がオープンするとショートカバーは鎮火した。客のカバードコール売りを取らされた4300絡みの8月Op Exともやや挙動が異なった。Op Ex通過のインプリケーションはショートカバーが鎮火し、指数も動きづらくなるというものになるか。

先週は警戒されていたCTAのショートカバーも現れず、かと言って急落に転じることもなく静かな一週間になった。ショートカバーは止んだのでアップサイドが剥落した感が強い。一方ダウンサイドの剥落も依然変わっておらず、個人的にはリアライズドVolが低下したおかげで先に露骨に低下したVIXが実現したので先日の疑問が「思ったより平和に着地した」形となる。VIX自体は予想外のMOVEの急低下に焦ったFed関係者が再び不確実性を添加しようとしているので一層の低下は期待しづらいだろう。木曜までS&P 500は1月以来(!)の5営業日連続の前日比±1%以内引けとなっており、金曜のS&P 500も+0.48%なので今年最長の6営業日連続となる。

NAAIMは更に強気になっており、すっかり総悲観でなくなっている。こちらは依然高値追いを正当化しない。

テクニカル。CPI前は突破できない天井だった3900は一転してサポートとなっている。CPI、PPIのフローの割りにはロケットのような上昇にはなっておらず、ショートカバー疲れとも言うべき1週間となったが、下押しも3900で跳ね返されており、上方シフトした「ポストCPIレンジ」に居ると言える。今週以降も3900が引続き分水嶺となる。これまでは上げの勢いが止まると見るとすぐ売りが殺到し、週足で見ても大陽線の後に上ヒゲ陰線が1本続こうものなら翌週は下窓を開けて一直線に下がることが多かったが、今回はそのパターンから脱却できるかどうか。少なくとも先週中は2度下値を試してもすぐに反発しているのが観測されている。週足陰線になったとはいえ、金曜も下げトレンド形成に失敗したおかげでS&P 500はかろうじて上ヒゲ陰線にはなっていない。金曜は米金利の再上昇を指数が無視した形となり、週明けはリプライス先行になりそうな気はするものの、それでも大して下がらないとなったらリアライズドvol低下で安心感が出て来る。ナスダックは11200は分水嶺にしていたが、皆が注目していただけに逆に11200を突っついたところで週が変わってショートカバー疲れになった感があり、11200超えでニューロングを作って高値を追っていた勢がいたとすればむしろ居心地がよくなさそう。S&P 500と異なりナスダックは週足上ヒゲ陰線となっており11500がレジスタンスとなる。S&P 500の3900サポート vsナスダックの11500レジスタンスのレンジというところか。
これより先はプライベートモードに設定されています。閲覧するには許可ユーザーでログインが必要です。
この記事は投資行動を推奨するものではありません。