

年末を前に日本銀行が唐突に今までのイールドカーブ・コントロール(YCC)政策における10年国債金利の誘導幅を±0.25%から±0.50%まで拡大した。今まで誘導幅上限の+0.25%に張り付いていた10年国債利回りは直ちに+0.50%に近付いた。金利スワップ市場は既にこの修正を事前にフル・プライスインしていたが、アキレスと亀のように国債金利が近付いて来るとスワップ金利は更に上昇した。2016年のYCC導入以来6年余りにわたって10年国債金利が概ね±0.25bpの50bp幅の水準で変動していたのに対し、20日の1日で20bp上昇した時の日本国債市場(排他的である上で参加者が減ったので村と呼ばれる)への衝撃は推し量れる。為替相場もドル円の1日の下落幅が前回の為替介入の日をわずかに上回り、20世紀で最大の単日値幅となった。
ドヤ
本ブログなどは4月の時点でYCCの持続可能性に疑問を呈してきた。もっとその後毎日無限指値オペなる代物が導入されていたが、それも時間稼ぎにしかならず、年末にかけてついに修正されることになった。本来、金融政策変更の前にはショックを和らげるために事前に市場と十分なコミュニケーションを取るのが好ましいとされている。しかし通常の利上げ・利下げとは異なり、恐らく日本語メディアの中では本ブログが最初に提唱していたように、特定水準での無限買入れを含むYCCが修正されるとすればそれは突然の発表にならざるを得ない。その理由は4月の記事で述べてある通りであり、その後も変わらなかったようである。「以前のように何か月も前から「点検」を前もって発表することはできない。点検の結論はYCCの修正に決まっているので、点検を口にした途端それからの数ヶ月間、将来の修正を見据えた売りに「無限に」耐えなければならない。それが嫌なら、YCCの修正はもしあれば全くのサプライズで出て来るか、よくて数日前に逃げ道を提供した後の発表になるだろう」ということである。「撤廃疑惑が燻る中でYCCを何ヶ月も続けていると、新発10年債だけがいつまでも0.25%近辺に取り残され、金利カーブはそのあたりをオプショナリティの分だけ割高に放置して無視し始める可能性が高く、そうなるともはや何のためのYCCかということになり、YCCの正体や射程について世の中で広く議論がなされると日銀としては都合がよくないだろう。というわけで運よくグローバルでインフレと金利が反転しない限り、やはりYCCは今年中のどこかには修正されると考えるべきではないか」「いつか急にやってくると思われるYCCの修正を見ても焦らないように今のうちに心の準備をしておくに越したことはない」としていた観測は、筆者自身もその後のアホらしい毎日無限買入れの発表を経てすっかり自信というか真面目に考えるほどの興味をなくしてしまっていたが、ついに年末を前に駆け込みゴールしたわけである。YCC修正に至る道
YCCの敵前退却は非常に難易度が高く、理想としては日銀の買支えがなくても10年国債金利が+25bpから離れて金利が低下したタイミングがよかったに決まっている。そういう意味で日銀は恐らくFed pivotを根気よく待っていたのだろうが、11月FOMCでpivotが時期的に遠くなってしまった上に、国内の物価上昇が目立ち始めるとどうも詰み感が強まって来る。11月FOMCを受けて「日銀のYCCが生き残れるナローパスとは黒田総裁の退任までにFedがpivotすることであった。しかし、pivotが来年春から来年後半に遠ざかるにつれて、YCCが修正されないまま生き残れる可能性はどんどん低くなっている」と本ブログは今年中のYCC修正ビューを再確認した。黒田総裁の退任は来年3~4月であり、修正するなら次期総裁の下で行われるのではないかと何となく思われ、更に時間稼ぎのために春闘の結果を確認したいなどという発想もあった。しかし物価や雇用情勢はあくまでも金融政策のスタンスの変更(利上げ)をする・しないための理由付けであり、それとは別にYCCが抱えているのは「金利カーブが歪む」「受動的なBS拡大と円安を招く」といった、あくまでもテクニカルな持続可能性の問題であり、続ける理由を口で挙げたところで再び持続可能になるわけではない。恐らく内外環境の分析を通して、来年半ばよりは今やった方が有利と判断したのだろう。次期総裁に交代すること自体が修正チャレンジ加速の号砲になる。次期総裁の初仕事を10年間に及んだ異次元金融緩和の、恐らく混乱を伴うであろう後始末にしようにも、次期総裁の方にも言い分があるだろう。これで次期総裁の椅子は罰ゲームでなくなるためすんなり決まるだろうし、もはや誰に決まろうと興味を持つ必要がなくなる。

カーブの歪みで言うと本ブログが4月時点で既に述べたように、いざという時に0.25%で脱出できるオプショナリティを付与されている10年カレント(新発債)3銘柄と他の銘柄の裁定は効かないのが当たり前となり、日銀がコントロールできるのは3銘柄という、イールドカーブ上の1点だけになっていく。4月時点で本ブログが「新発10年債だけがいつまでも0.25%近辺に取り残され、金利カーブはそのあたりをオプショナリティの分だけ割高に放置して無視し始める可能性が高く、そうなるともはや何のためのYCCかということになり、YCCの正体や射程について世の中で広く議論がなされると日銀としては都合がよくないだろう」と描いた通りである。とはいえ、ここ10年間にわたって日銀は基本的に国債市場(村)を見下してきたため、国債の金利カーブが歪むだけではYCCの修正理由にならなかった。
国債金利は企業の資金調達のベンチマークにもなってきたが、社債も無限買入れの対象にならず、無オプショナリティ・セクターに分類されるため、YCC修正の蓋然性が高まってくるにつれてポストYCC修正の水準を要求される(国債対比でスプレッドが拡大する)ようになった。現に12月会合では「(YCC修正の理由となる)債券市場の機能の改善」を説明する際に何度も社債が登場しており、また記者会見でも「10年債発行の回避」と言った社債発行市場の実務のかなり細部に立ち入るなど社債市場への言及が目立つことから、社債市場は日銀にYCC修正に踏み切らせた大きな要因の一つだったと推測される。企業の社債調達コストが先にポストYCC化したら実体経済にとってはYCCの意味がないではないか。とはいえ、では10年金利が25bp上がったら社債の調達コストは下がるのかというと、それはどう考えても指を蚊に刺されて痒いからと言って腕を切り落とすような話なので、社債の話は方便の一つと見た方がよい。しかしYCC修正の反対勢力になり得るリフレ陣営は概して債券市場の実務に疎いため、社債の調達コストの話を持ち出されるとすぐその理屈はおかしいとは指摘できなかったのだろう。たかが2ヶ月前の前回会合とガラッと結論が変わったにもかかわらず、9人の審議委員が前回も全員一致で今回も反対者が出なかったため彼らの存在意義が疑われたが、ことパンデミック後はグローバルで金融政策の存在感が大きくなりすぎてセンシティブになったこともあり、議長格が事前に他のメンバーに根回しや説明を済ませるのが普通である。根回しに失敗して意見が割れる中央銀行の方がイケてないのである。

YCCの修正がもはや決定的になってくると、次の課題として「円滑な修正のやり方」が浮かんでくる。あまりにも急激な値動きを与えてしまうとリスク管理の観点から国債を持てる人も持てなくなってしまうので、+0.50%まで下げた後の戦線の維持すら難しくなってしまう。どうしたら投資家を浮き足立たせずに済むのか。まず考えられたのはQEへの回帰である。QEは後からいくらでもステルス・テーパリングできるので自由度を取り戻すことができる。以前の記事で述べた歴史的経緯を思い出すと、元々YCCはQEのパワーを落としたチープ版である。2014~2016年のBS拡大目標が年間80兆円だったことを思い出すと、その後のYCCによって日銀は数年間で100兆円を遥かに上回るBSを節約した。従ってQE(BS拡大)に再シフトするのはいわば利食いの範囲内の行動である。またこれだけ「無制限買支え」をやった割りには今年に入ってからの国債保有は大して増えていない。過去に買い入れた国債の償還フローも同時に走っているからである。何なら新型コロナオペの縮小に伴い日銀のBSは縮みつつある。というわけで我々の懸念とは裏腹に日銀の状況打開への自信はいささかも揺るがなかったに違いない。YCCで無限買支えの対象となる10年カレント3銘柄を全額買ったとしても、3ヶ月ごとに1銘柄8兆円追加されるので現実的には年間32兆円程度のペースが買入れ上限となる。であればYCCを撤廃する代わりに年間30兆円程度のQE(BS拡大目標)でも追加すれば理論的には需給が大して変わらない。しかもそうすることによってYCC下で10年に集中していた買入れフローが、今度こそイールドカーブ全体にバランスよく振り分けられることになる。現に日銀は「より円滑にイールドカーブ全体の形成を促していく」と称してQEシフトを導入した。
YCC修正までのコミュニケーションとタイミング
そこまで安全ネットが張ってあるなら、せっかく当てた予想を後になって無意味にひっくり返すようだが、本当にYCC修正を前もってアナウンスできなかったのか。その時その時のカレント3銘柄の発行残高は最大でもせいぜい25兆円程度なので、3銘柄は全て日銀が買えばいいと割り切れればもっと円滑な移行ができたはずだ。アナウンスが行われた後、買支えがない銘柄群は3銘柄を無視して徐々にポストYCCにふさわしい水準に移行する。カーブの歪みを拡大させつつも、いざ修正のタイミングでは3銘柄のショック(最大25兆円 x25bp x10年 =約6,000億円)は全て日銀が瞬時に吸収し、他の銘柄の価格はほとんどワープせずに済んだはずだ。しかし結果的になぜ事前アナウンスが採用されず、いきなり修正になってしまったのか。
一部の海外勢は半年以上にわたってYCC修正にベットしており、無限買入れに売り向かって国債のショートポジションを大々的に構築してきた。その過程で発行残高よりも多い国債を日銀が保有する事態になるタイミングもあった。ここまでショートが集中すると借りる相手も限定されてくるので調達コストは非常に高く、漫然と半年もショートを続けたら、たとえYCC修正で25bp程度のキャピタルゲインを獲得したとしてもトータルでは大して儲かっていない。しかし日銀をアナウンスなしYCC修正に追い込んだのは案外、何回転も国債を借りてショートする動きかもしれない。すなわち、事前アナウンスによって数ヶ月後の確実なキャピタルゲインの存在を世間に知らしめてしまうと、毎会合直前に買わされる国債が心の準備の上限(3銘柄の発行残高)より更に大幅に膨らむ可能性が無視できなくなるということだ。さすがに日銀は買入れオペに売り向かった証券会社が放り込んだ銘柄をまた日銀から借りて帰るのを禁止しているが、放り込む証券会社と借りる証券会社に分業し、彼らの間で国債を融通すれば迂回できる。もちろん実際にやってみて、日銀と発行残高以上にショートしている人達からなる村がどうなるかは学術的には興味深いが、試してみる気にはならなかったようである。値動きや損益以前に受渡しフェイルが多発したり、レポなど市場機能がいっそう働かなくなるに決まっているからである。現に、自由行動になってもカーブは必ずしも円滑には戻っていない。過去に無限に吸い上げられた銘柄とそこまで吸い上げられていない銘柄の間ではどうしてもしこりが残るのである。
市場との事前のコミュニケーションがなかったことは様々な批判を呼んだ。黒田総裁は利上げ観測に対して「全くない」と否定し続けていた。10月28日の記者会見でも「今すぐ金利引き上げとか、出口が来るとは考えていない」と語っていたではないか。その舌の根も乾かぬうちにこれである。しかし、本ブログがこれだけ紙面を割いて思考実験をしてもとにかく「突然止めるしかない」という結論がピクリとも動かない以上、修正のタイミングを当てるのは難しいにしても、事前のコミュニケーションがないこと自体は予想できてしかるべきある。筋を曲げても流れを当てて乗れれば万事それでよしと主張するつもりは毛頭ない。本ブログは4月の時点で既に「政策変更をその前の日銀首脳部の行動や発言から読み取るのは無益である。マイナス金利政策の導入に際しても、直前まで黒田総裁はそれを「検討していない」と否定し続けていた。言葉にあまりにも信用がないので嘘発見器と言わんばかりに黒田総裁の表情をAIで解析しようという試みすらあったのに、歴史的に嘘付きだった首脳部の言動からシグナルを読み取ろうとすることほど無益な努力はない」と黒田日銀の信用のなさをコテンパンにこき下ろしている。事実として最近のYCC撤廃の前例は海外でもRBAしかなく、そちらは決定会合すら待たずにいきなり買入れオペレーションをやめているのだから日銀の方が遥かにマシである。今回ばかりは事前にアナウンスがあると思った方が悪い。甘えである。
YCC修正へのリアクションと今後の見通し
(日銀の人…聞こえますか?あなたの心に直接呼びかけてます。YCCを修正するなら明日です。今はクリスマス休暇で外人がいませんし先物のロールも終わったばかりなので全体にショートは少なめです。年が明けてまた投機勢が押し寄せる前に修正するのです)
— JL175 (@jl175rv) December 19, 2022
政策修正がこのタイミングになった理由については予想できた人が予想に用いた論理を参考にすべきだ。少なくとも結果として、サプライズで損した人が多かった割りには、勢いに乗ってそのまま50bpブレイクに更にチャレンジする動きは限定的で、それ以上の盛り上がりに欠けたのは海外勢の多くがクリスマス休暇に入ったためと思われる。混乱の最中で投資家が稟議も書けずまともにリスクを取れない今のタイミングに乗じて「次の修正の織込み」まで一気呵成できないなら、来年になって改めてチャレンジしても時期を外した感が漂う。かと言ってこれで終わりかというと、経験上サプライズで損した側がそんな簡単に許される気もあまりしない。買入れオペの増額は既に浮動玉の少なさをじわじわと締め付けているが、さすがにFed pivotより前に10年金利が0.25%近辺まで戻ることはないだろう。
来年はYCCの再修正チャレンジだけでなく、YCCが後退したことで「あり得ない」の保険が1つ外れてしまったマイナス金利撤廃説との二正面作戦となる。それは次期総裁人選や疑似リークなどのゴシップから離れ、日本のCPIの数字が出るタイミングなどでの、もっと王道なマクロプレイに回帰するだろう。マクロ系ファンドが今年大暴れしてリターンを挙げてスポンサー資金が更に集まったところに、来年は恐らく米国などのマクロテーマが一気にわかりづらくなるため、自ずと日銀の上空に彼らが集いやすくなる。
2023年の二正面作戦はどう解きほぐされるか。YCCが最前線になっている間はマイナス金利の敵前逃亡は行われないはずだ。「詰み」が存在するYCCと異なり、マイナス金利政策はインフレか円安に反発する世論が醸成されない限り、どんなにCPIが2%より上で推移していようと、よくも悪くも頑健である。筆者などはマイナス金利政策は経済に有害なものとして導入以来7年間にわたって敵視してきたが、相手は10年単位の物価目標未達に耐えてきた日銀なのだ。マイナス金利政策の導入が円高阻止なら撤廃は円安阻止のために決まっているので、ドル円が再び150円をブレイクでもしない限り撤廃する喫緊性はなく、そのタイミングはYCCの防衛線が十分な安全圏まで後退した後になるだろう。いかに日米の物価上昇にサイクルがズレており、日本のこのタイミングでの物価上昇がむしろ米国よりも反転を見通しづらいとはいえ、Fed pivotさえ予定通りにやってくれば日銀の利上げ観測などチリのように吹き飛ぶだろう。それまでも、例えば政策金利が0%で10年金利が0.75%まで行くとアベノミクス始動以来のスティープさにはなる。もっとも正直±0.75%の1.5%幅YCCでは格好が悪すぎるので、0.50%からの次なる後退があるとすればYCCの完全撤廃になるはずだ。というより、±0.50%の1%幅でも格好悪い。どうせなら0~0.50%にシフトした方が綺麗なのだが、それではレンジが上にシフトする「利上げ」になってしまうので、「利上げでない」と言い張るために▲0.50%を入れただけである。実にくだらない。
ひっそりとした国債買入れ増額(QE)

見落とされがちだが、日銀はYCCの幅を広げる代わりに国債買入れのペースを2022年第4四半期時点の毎月7.3兆円から毎月9兆円に増額した。この増額幅は1.7兆円 x12ヶ月で年間20兆円余りとなる。YCCのための固定利回り買支え実績は非常に雑に言うとこのチャートの巡航ペースから上に伸びた部分であり、今年の分を合計するとだいたい24兆円となる。来年の日銀の国債買入れ額は非常に雑に言って0.50%でのYCC防戦分 +今年の巡航ペース +20兆円となり、今年より減ることはなさそうだし、0.50%での防戦が激しくなればなるほど量的には追加緩和になる。あまりにも分かりづらいので日銀は記者会見でも追加緩和をアピールする機会があまりなかった。
或いは、暗に円高誘導を目指したかったのであえてQEのような触れ方をしたくなかった可能性もある。以前の記事で「YCCの歴史とは、金利市場をよく分かっていない為替市場の参加者にいかにBSを使わず、金利を下げないまま緩和的な雰囲気をそれっぽく見せるかの歴史でもあった」としていた通り、いかに金融政策に疎い為替市場の参加者に見せたい雰囲気を見せるかが金融政策の腕の見どころなのだ。YCCの導入がそのステルス・テーパリング色にもかかわらず大して円高が進まなかったのを想起すると、その修正とQEへの回帰もまた大して円安回帰のきっかけにならないだろう。前回の為替介入とYCC修正の合わせ技でドル円は合計20円も下落した。円安でピリピリしていた間は、たとえYCCを修正しても、そのショックで米金利が更に上がるので日米長期金利差は縮まらず、従ってドル円を押し下げる効果は限定的となるとの意見が一般的だった。現に円金利の上昇に伴い本邦米債投資家の円債回帰などの思惑で米国の長期金利も連れられて上昇したものの、Fedの金融政策パスは当然BOJなどに影響されないため、米国債需給への連想はあくまでも米金利カーブのスティープニングで表現され、ドル円は米金利を全くケアしなかった。YCCの詰み具合があっさり解消されたことが「日銀は金融政策を変えられない・変えても意味がない」をテーマにしたトレードの解消を迫ったことも、想定以上に素直に円高が進んだ背景だろう。とはいえ、ドル円相場はやはり次第に米金利が決定する形に戻ると思われる。ドル円の例えばヘッジコストや、俗に言うスワップポイントの円側はあくまでも短期金利なのでYCCが修正された後も変わらないのである。
財務省の為替介入が恐らくFed Pivotを見越して敢行されたのに続き、YCC修正のタイミングも米金利を意識したものと思われる。つまりここでYCCを修正しても、米国発の金利上昇圧力は既に幾分か弱まっており、(例えば数ヶ月前に修正した場合と比べると)混乱を招かないだろうと日銀が判断したのではないか。財務省の相場観については推測の域を出ないが、日銀の方は黒田総裁が記者会見で(ポジショントークもあるが)この上なくはっきりと説明している。「欧米の物価上昇率は、米国の場合は明確にピークアウトしていますし、欧州の場合はまだピークアウトしていませんけれども、それぞれの政府や中央銀行の見通しでは、来年において物価上昇率が下がっていくという見通しになっておりますので、そういう状況の中で、他国の中央銀行の金融政策についてコメントするのは差し控えますけれども、これまでのような調子でどんどんすごい勢いで金利が上がっていくとか、そういうことはちょっと考えにくいと思います。」この国の上層部はどうやら揃って米国のインフレピークアウトとFed Pivotが近いとの強い確信に基づいて金融政策を定めているようである。
円金利自体ついては、追加緩和が入っているので海外勢との戦争ごっこそのものをきっかけに長期金利が0.50%から更に大幅に上昇するとは考えていない。YCCの持続可能性と畳み方について半年以上悩んでいた本アカウントから見ても、今回の修正は満点を付けられるほど筋がよい。黒田総裁が始めた10年間の物語を黒田総裁在任の間にいわばケリを付けたのも潔い。日本国債を買いづらい理由としてはむしろ増発懸念の方を重視している。パンデミック対策で国債の発行額は短期債を中心に大幅に増えたが、パンデミックが終わってからも発行額はあまり減らず、その上で財務省は平均年限をパンデミック前の水準を意識して長期化しようとしているため、デュレーションリスクの需給がよいとは思われない。現状でも日銀は国債残高の半分以上を保有しているが、国債市場の日銀の買入れへの依存は高まる一方だろう。それだけは確実である。
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日銀イールドカーブ・コントロールの歴史と限界日銀YCCの持続可能化と円安の持続可能性
当面の金融政策運営について
黒田総裁記者会見スクリプト
(参考)イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用の見直し
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。