中国ではロックダウンに反対するデモに押される形でゼロコロナ政策がなし崩しに撤廃された。前回の記事で「デモによってゼロコロナ政策の継続だけは困難になったに違いない。ゼロコロナ支持の農村出身者を大量に雇って白装束の中に入れて都市住民を管理させていたのだが、さすがに大半の住民が規制に従わなくなったら物理的に行動制限は成り立たない」としていた通りである。もっとも中国のリオープンは本ブログの想定より遥かに過激であった。12/7に中国国務院の共同防疫メカニズムは「新型コロナウイルス感染拡大防止抑制措置実施の一段の最適化に関する通知(通称・新十条)」を発表し、必須だったPCR検査を任意にし、また「PCR検査陰性証明の提示や健康コードの確認を求めない」としたことでスマホの健康コードも歴史になった。ついに新型コロナの感染症の管理カテゴリーを「乙類」に変更した。これは日本でも一年前から議論されているインフルと同じ扱いの5類への移行にあたるものだが、よくも悪くも先を越された形となる。それに伴い中国に入国する旅行者への集中隔離を撤廃した。陽性の大群の真ん中に降り立った陰性を隔離するのはもはや滑稽な構図になったからである。元より海外から中国に入国する旅行者はたかが知れている。中国から海外に出た後に帰国する時の隔離が最もだるいので、これは中国発の海外旅行の解禁に当たる。
全面リオープンに舵を切ったのは狂気に見えて論理的である。市民が耐えられないほど厳しいゼロコロナ政策でようやく抑え込んでいたのは事実なので、デモに押されて部分的にでもリオープンしたところで、すぐに全面リオープンと変わらなくなる。であれば確かに全て投げ出した方が早い。これまでゼロコロナ政策の空気を読んできた地方政府も一気に方向転換している。あまりにも感染者数が多すぎて人手不足になった地域では逆に陽性でも軽症なら出勤を要求する動きとなっている。その後は本ブログでも簡単に予想できたように感染が爆発した。
あれほどPCR全件検査強制にこだわってきた中国当局は一転して、感染者数と死者数をさっぱり認定しなくなった。コロナ関連死の認定を極めて厳しくしたため、公式に認定されている新型コロナ死者は毎日1~3人程度とされており、感染者数も毎日5千人程度となっている。毎日感染者数や死者数を公表してきた中国国家衛生健康委員会はアホらしくなったのか、12/25限りでデータ公表機能を下部機関の中国疾病予防コントロールセンター(CDC)に移譲した。2020年のパンデミック勃発以来、過剰なまでに透明だった(にもかかわらずグローバルの国別感染者数統計でなぜか信頼できないとして排除されがちだったが)中国当局の感染者数公表はこれで歴史になった。
現実の感染者数とコロナ関連の死者数は当然公式より遥かに多いに決まっているが、ゼロコロナ政策の終了後に透明性が一気に落ちたので正しい全体図を入手する手段はなくなった。国家衛生健康委員会の会議記録とされる流出文書では「12/20の1日だけで3700万人、これまで2億4800万人が感染した」としていたそうである。WHOでさえ中国が急に足を引っ張り始めたせいでパンデミック緊急事態の終了を宣言するのは時期尚早と考え始めた。恐らくまずは都市住民の間で流行っているので海外に出た人達の中では更に密度が高く、イタリアでは到着した航空機の旅客を検査したところ半数が陽性という結果も出ている。症状もデータは当然ないものの体感ではmRNAワクチン社会より重いようで、オミクロンでも一週間の高熱が出るケースが多いように見える。表に出ている情報の中でも分かっているのは有名人の訃報が続いてることであり、例えば清華大学が発表している教授やOBの訃報をカウントすると(冒頭のチャート)12月に入ってから急に例年のペースから大きく上方に逸脱している。
リオープンの混乱は誰でも予想できるものであった。本ブログなどはリオープンの必要な条件を真面目に整理していたのだが、まさかそれを(遅れて取り掛かり始めた形跡はあったものの)全くクリアしないまま、デモに押されて全面リオープンに雪崩れ込む展開までは予想できなかった。しかし、それでも必要な条件は必要であり、ショートカットするときっちり失敗するのである。失敗をデモのせいにできるからリオープンの決心が付いた、とまで考えるのは恐らく勘繰りすぎである。市民が再び不満を政権に向けてきた時、まさか彼らに向かってそう明言することはできないから意味がない。確かに準備不足のままリオープンに臨むことになった直接的なきっかけはデモであるものの、死者数を隠蔽しているということは、彼らは自分でもデモのせいにできるとは思っていないことを意味する。実際、これまでの3年間PCR検査や市民を檻に入れるのに熱をあげていた割りには、いつかやってくるリオープンの波に備えて医療施設のキャパを十分に増やすことはしなかったし、解熱剤などの薬品も(足りないのは買い占めのせいでもあるだろうが)十分に備蓄しなかった。ゼロコロナ政策だけが至上命題だったので、地方政府としてはそれが敗北した時に大量な薬品が必要になるところまで想像力が回らなかった。組織が一致団結している時に1人カサンドラになってはいけないのである。
極めつけは諸外国が一斉に勧めているmRNAワクチンの頑なな輸入拒否である。真面目に聞けば「ワクチンを仮想敵国に依存するのは(今流行りの)安全保障上都合がよくない」というのが答えだろうが、ほぼ同じ話なので面子のためと決めつけて差し支えない。本ブログがずっと指摘してきたように、いずれにしても冷凍して運搬するロジスティクスがないのは如何ともしがたいので、もしmRNAワクチンを導入していれば万事解決というのも空論である。しかし、mRNAワクチンがない国はいくらでもあるので混乱の言い訳にならない。中国製ワクチンへのブースター・ショットの強制接種も進まなかった。ロックダウン自体も中国政府による中国製ワクチンのネガティブ・キャンペーンになったが、強制接種を進めないままリオープンして感染を爆発させたのは再び中国製ワクチンのネガティブ・キャンペーンになった。前回の記事で取り上げた香港のデータの印象より少し劣るものの、シンガポールでの研究でも「シノバック製、シノファーム製ワクチンを3回接種した人が新型コロナに感染した場合、mRNAワクチンを3回接種した人のほぼ2倍の割合で重症化することが分かった。中国製ワクチンを接種した人は入院に至る確率も50%高かった」と言われている。冷凍しなくても運べる上でmRNAワクチンの2倍しか重症化しないなら優秀ではないか。しかし、数字上の接種率は高齢者の低さを除けばそれなりであったが、2022年はロックダウンとPCR検査でそれどころではないので、前回ワクチンを打ったのが2021年という人も多かった。ブースターショットに限ると6割弱、80歳以上では4割と言われている。「覚醒した市民が中国製ワクチンを信頼していない」と言いたいところだが、その割りには迷信でただの草としか思えない漢方薬に殺到しているのだから、やはり本ブログが最初から決め付けたようにただのアンチ・ワクチン・カルチャーと見た方がすっきりする。もちろんブースター・キャンペーンを進めなかった当局の責任の方が重い。接種済の人間と未接種者も一緒くたに檻に入れられるならわざわざワクチンを打つモチベーションがないし、重症や死者数をきちんと公表しないなら今からでもワクチンを打つほどの危機感を持たないだろう。
批判はこの程度にして現状把握に入ると、デモでロックダウン撤廃を勝ち取った後、実際に熱を出したのか、感染をようやく恐れ始めたのか、消費者の外出は結局落ち込んでいる。ロックダウンの民主化とも言うべきだ。交通量では先行するとされる北京はどうも底を打ったようにも見えるが、果たして。
使えなくなった公式データとは別に、サーチエンジン「百度」の問診の検索数などは12/21あたりを天井にピークアウトしている。こんなにピークアウトが早くやって来るものなのか、と思うものの、解熱剤の検索数もピークアウトしている。もちろんピークが来ていないものがあり、それは遅行する死亡者数であり、死亡のピークは来年年初になりそうである。1ヶ月後になる旧正月には再び民族大移動が控えている。それまでに一旦ピークをやりすごすためにわざと素早く拡散させようとしているとの説もあるが、ピークがすぎたところでウィルスが消えるわけではないので意味がない。素早い拡散は医療インフラにマッシブなストレスをかける。そもそもピークをコントロールするつもりならリオープンの時期としては冬が最も不利ではないか。いずれにしろ、1月以降に医療インフラが更に脆弱な農村部に持ち込まれるのは避けられない。とはいえ、デルタ株の時の米国もそうだが、金融市場に影響を与えるのはあくまでもロックダウンそのものであり、死人が出ること自体は材料にならない。さすがにゼロコロナ政策の再開は無理だろう。管理する方も従う方も気力が持たない。
トラック運送量(左)も低迷が続いているが、2020~2021年のトレンドから下方に乖離したのは今更ではないので、サプライチェーンの再混乱もさることながら、そもそも景気や輸出連動で運ぶ貨物が減っている可能性が高い。
海外への中国人旅行客は好む好まざるにかかわらず増えていく。ゼロコロナ期も陽性者や濃厚接触者が海外に出るのを放置していたのと同様、陽性者でも当局が出国を積極的に止めることはない。あまりにも派手に感染が爆発しているため、受入れ国の方は逆に中国発の入国者に対してPCR全件検査を要求した。更に中国政府は面子のために変異種の検出に繋がるゲノム解析も禁止したが、幸い脅威になるような新種は今のところ(透明性の高い)国外の水際検査でも見つかっていない。一般論としては変異が進むにつれて弱毒化する方向性が見られているため、中国発の新たな強力な変異種の脅威は見込んでいない。
中国の反政府デモとゼロコロナ政策の持続可能性
極めつけは諸外国が一斉に勧めているmRNAワクチンの頑なな輸入拒否である。真面目に聞けば「ワクチンを仮想敵国に依存するのは(今流行りの)安全保障上都合がよくない」というのが答えだろうが、ほぼ同じ話なので面子のためと決めつけて差し支えない。本ブログがずっと指摘してきたように、いずれにしても冷凍して運搬するロジスティクスがないのは如何ともしがたいので、もしmRNAワクチンを導入していれば万事解決というのも空論である。しかし、mRNAワクチンがない国はいくらでもあるので混乱の言い訳にならない。中国製ワクチンへのブースター・ショットの強制接種も進まなかった。ロックダウン自体も中国政府による中国製ワクチンのネガティブ・キャンペーンになったが、強制接種を進めないままリオープンして感染を爆発させたのは再び中国製ワクチンのネガティブ・キャンペーンになった。前回の記事で取り上げた香港のデータの印象より少し劣るものの、シンガポールでの研究でも「シノバック製、シノファーム製ワクチンを3回接種した人が新型コロナに感染した場合、mRNAワクチンを3回接種した人のほぼ2倍の割合で重症化することが分かった。中国製ワクチンを接種した人は入院に至る確率も50%高かった」と言われている。冷凍しなくても運べる上でmRNAワクチンの2倍しか重症化しないなら優秀ではないか。しかし、数字上の接種率は高齢者の低さを除けばそれなりであったが、2022年はロックダウンとPCR検査でそれどころではないので、前回ワクチンを打ったのが2021年という人も多かった。ブースターショットに限ると6割弱、80歳以上では4割と言われている。「覚醒した市民が中国製ワクチンを信頼していない」と言いたいところだが、その割りには迷信でただの草としか思えない漢方薬に殺到しているのだから、やはり本ブログが最初から決め付けたようにただのアンチ・ワクチン・カルチャーと見た方がすっきりする。もちろんブースター・キャンペーンを進めなかった当局の責任の方が重い。接種済の人間と未接種者も一緒くたに檻に入れられるならわざわざワクチンを打つモチベーションがないし、重症や死者数をきちんと公表しないなら今からでもワクチンを打つほどの危機感を持たないだろう。
批判はこの程度にして現状把握に入ると、デモでロックダウン撤廃を勝ち取った後、実際に熱を出したのか、感染をようやく恐れ始めたのか、消費者の外出は結局落ち込んでいる。ロックダウンの民主化とも言うべきだ。交通量では先行するとされる北京はどうも底を打ったようにも見えるが、果たして。
使えなくなった公式データとは別に、サーチエンジン「百度」の問診の検索数などは12/21あたりを天井にピークアウトしている。こんなにピークアウトが早くやって来るものなのか、と思うものの、解熱剤の検索数もピークアウトしている。もちろんピークが来ていないものがあり、それは遅行する死亡者数であり、死亡のピークは来年年初になりそうである。1ヶ月後になる旧正月には再び民族大移動が控えている。それまでに一旦ピークをやりすごすためにわざと素早く拡散させようとしているとの説もあるが、ピークがすぎたところでウィルスが消えるわけではないので意味がない。素早い拡散は医療インフラにマッシブなストレスをかける。そもそもピークをコントロールするつもりならリオープンの時期としては冬が最も不利ではないか。いずれにしろ、1月以降に医療インフラが更に脆弱な農村部に持ち込まれるのは避けられない。とはいえ、デルタ株の時の米国もそうだが、金融市場に影響を与えるのはあくまでもロックダウンそのものであり、死人が出ること自体は材料にならない。さすがにゼロコロナ政策の再開は無理だろう。管理する方も従う方も気力が持たない。
トラック運送量(左)も低迷が続いているが、2020~2021年のトレンドから下方に乖離したのは今更ではないので、サプライチェーンの再混乱もさることながら、そもそも景気や輸出連動で運ぶ貨物が減っている可能性が高い。
海外への中国人旅行客は好む好まざるにかかわらず増えていく。ゼロコロナ期も陽性者や濃厚接触者が海外に出るのを放置していたのと同様、陽性者でも当局が出国を積極的に止めることはない。あまりにも派手に感染が爆発しているため、受入れ国の方は逆に中国発の入国者に対してPCR全件検査を要求した。更に中国政府は面子のために変異種の検出に繋がるゲノム解析も禁止したが、幸い脅威になるような新種は今のところ(透明性の高い)国外の水際検査でも見つかっていない。一般論としては変異が進むにつれて弱毒化する方向性が見られているため、中国発の新たな強力な変異種の脅威は見込んでいない。
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