
S&P 500はテック中心のショートカバーが続いた。水曜はMSFTの決算をやや下げて通過した後、欧州発の謎のマクロ・リスクオフが走ったものの、NY時間には全戻ししている。これは先週の記事で想定したシナリオの一つ、「直撃したらアホらしいので引続き引け間際が最もオッズが悪いが、S&P 500ベースで1日2%以内のクラッシュならやり過ごした後は買えそうである」に完璧に当てはまった形となる。NY時間の下げ幅も2%には届かなかったものの、「下げ幅が2%以内なので押し目買い」というアイデアが狂気に見えるほど、NYオープンの下落の勢いは激しかった。もっとも先週最も押し目買いしてから安心できる場面はその日であったと言える。木曜も高寄り後に一旦前日比フラット近辺まで利食いに押されたものの、結局引けにかけて更にラリーし、日足が下ヒゲ陽線を連発した。これは後述の「株と債券の逆相関への回帰」と共に2022年より前に戻ったようなノスタルジーを感じざるを得ない。

MSFTの決算は無難な数字を出して時間外で買い直されてから、ガイダンスが慎重だったことが判明して売り直された。このパターンはMSFT決算イベントのFOMC化とも言える。


前回の記事で「物価上昇減速のパスはいよいよ確定的になったので中銀関係者発言ももはや材料視されず、テーマが物価から成長懸念に転ずるのにつれて株と債券は逆相関に戻りはじめたように見える」と肉眼で観測した通り、S&P 500と10年国債先物の10日相関は半年以上ぶりにがっつりと負に転じた。これは人間にしろ機械にしろ、適応するのにやや時間がかかる一方、これは債券の株式に対するリセッション・ヘッジ機能が回復したことを意味する。機関投資家の皆さんの2023年アウトルックの「インフレの高止まりが構造的なのでリセッションになってもFedは利下げせず、従ってデュレーションリスクはリセッションヘッジにならない」理論の寿命はわずか1ヶ月未満で終わった。その間、肝心のCPI発表はわずか1回、それもインラインであったので自然死であり、セミどころか蚊よりも寿命が短いアウトルックであった。もちろんノン・リセッションならそのヘッジも蛇足になるが、とにかく理論的には2022年ほどキャッシュを保有しなくてもよくなるかもしれない。

トロント・ドミニオンのCTAポジショントラッカーはS&P 500先物でもナスダック先物でもプラ転間近までショートカバーが進んでいることを示唆する。特に直近のショートカバーの勢いは強い。


GSのCTAポジショニング、バークレイズのHFベータも同様の傾向を示す。


選好しないのがポリコレだったテック業界、及び半導体でもショートを踏んでいる。


一方、先物に限ると非商業部門のショートはまだ動いていない。あくまでもディフェンシブからテックに戻したいだけなのか。

DBの統合ポジショニングも21%パーセンタイルとまだ低位ながらも2022年中よりは少し重くなっている。

JPMのリテールフロートラッカーも年明けから久々に流入に転じている。もっともこれについてはただの年末のタックスセリングの買戻しだろという声も上がっているが、タックスセリングの後はわざわざ1ヶ月の放置期間を置くのか。いずれにしろ、個人はそこまで主役には見えない。

目立つ売り手はインサイダーであり、このラリーで激しく売っている。

NAAIMはかなり強気になっている。これはやはり上値を追いかけるとそれなりのドローダウンが見られそうという構図が強まっているように見える。その時に今までブルを煽っていた人は「レバレッジをかけすぎたのが悪い」と掌を返すだろう。



決算シーズンは佳境に入って来た。「SNAPが毎回滑って広告系のメガテックを道連れにする →肝心のメガテック本体を通過してラリー」というのがこれまでのパターンだった。先週はMSFTの決算を避ける意義があったが、滑った後なら押し目を買えた。このパターンは露骨すぎて、滑った銘柄の方が滑っていない銘柄よりも翌日上がるという現象に繋がっている。とはいえ「滑った後は売るべきではない」地合いが続かないと見る理由もない。火曜はECI、水曜にはFOMCが控えており、25bpへの利上げ減速が見込まれているが、再び記者会見で意味のない余計なことを言って波乱を作りに来るのか。更に木曜にはECBが控えている。こちらは前回会合のまとまりに欠ける状況は改善しておらず、中身を予想するのはギャンブルである。金曜には更に雇用統計ギャンブルが控えており、こちらは過去分の下方修正がどこまで大きくなるかという問題が残るが、全体像が急に実は2022年にわたって雇用情勢もよくなかったという話にはさすがになりづらいだろう。ISMは製造業、非製造業の双方が控えており、製造業はさすがに少し改善するだろうと思われるが既にキャタピラーなどシクリカルセクターに置いていかれている。非製造業は先月モヤモヤを残したが今月はそれをノイズにできるか。いずれにしろ、ISMのテンションは金融市場などとかけ離れている。なお決算を大方通過すると自社株買いのブラックアウト期間が明けるので悪いニュースがあっても「イントラデーの2%超えの下げ」を見るまでは下を叩くほどではない。
テクニカルには4100に迫ったことにより2022年初から続く長期トレンドラインを上にブレイクした形になる。また日足も下ヒゲ陽線を連発しており、例えば最新の日足下ヒゲ4000さえもブレイクできないようでは売りは考えられない。その下では3950近辺で50SMAと200SMAがゴールデンクロスしそうになっている。上値では前回の記事で取り上げた「4050 -4100」ゾーンは攻略されつつあり、最後に12月高値の4100がレジスタンスとして残っている。ナスダックは更にチャートが強く、既に12月高値を奪還している。先週は4000より上を買わなくても3950までの押し目を待てたが、さすがに押し目は切り上がるか。売り場は水準より日柄であり、回避したいマクロイベントを選択して逆算する形になるか。ショートカバーが続いているためやや買いが有利だがそれはあくまでもショートカバーであるとの認識を維持すべきである。堅かった3800を始点とするラリーをベアマーケットラリーと笑っていたカサンドラ達は既に焼かれつつある。ポジションを全部外してしまうとFOMO取りがFOMOになってしまう危険性を孕むが、4000近辺までドローダウンしてもストレスを感じない程度にはとどめたいものである。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。