
S&P 500はレンジが続いている。前回の記事では「4000近辺 -4175のレンジ感が強まるか」「売り場が分かりやすくなる代わりに売っても値幅が出づらくなるか」としていたが大体そんな感じである。14日のCPIについては「やや上振れしやすい流れになっており、少なくとも高値圏で迎える気は起きない。一方で短期のImplied Vol期間構造ではCPIがまだ警戒されたイベントとなっており、もし無事に通過して1日2%以上のクラッシュが見られなければまだまだ押し目を買える地合いが続く」としていたが、現にやや上振れている。それを受けて金利はヘッジ外しを経てやや遅れて素直に上昇したが、株式は一旦下を試した後に反転しており、リスクを落として迎えていれば素直に押し目を買える流れが続いた。翌日の小売売上高も一層の金利上昇を招いたがこちらをもS&P 500は材料視せず再び上値を伸ばした。
では金利上昇から自由になったかというと、結局のところ4175に近付くとそれ以上は上値を伸ばせず、木曜のPPIまで上振れるとNYオープン前から先物が崩れた。木曜は2/3(金)を彷彿とさせる日足となった。PPIとメスター発言でS&P 500は▲1%以上で寄り付いたものの▲2%には向かわず、NY午前中をかけて買いがワラワラ寄ってきてプラ転近辺まで戻した。しかしNYお昼になって前日比フラットの水準に差し掛かると一気に動きが鈍り、結局引け近辺に再び叩き落されて金曜も続落となった。日経にも取り上げられ始めた0DTEによる攪乱は、先々週の記事で述べた通りNY午前中に目立つようである。安寄りした時に前日比フラットまでは買い直されやすくなるが、フラットはイントラデー・レジスタンスになりやすく、フラット近辺まで迫ったこと自体に恐怖を感じなくてもよさそうである。そして午後になるとエクスパイアまで時間が短いため息切れしやすくなる、というパターンは今後もワークするか。銘柄で言うとTSLAのキリのいい数字はイントラデー・レジスタンスになりやすそうである。早速0DTEをボルマゲドン2.0まで結び付ける声も上がっているが、今のところはやや議論が飛躍しており、タクティカルな対応が最も相性がよいだろう。



久々にDBのポジショニングがまとまって流れてきた。既に見てきたようにシステマティック勢のショートカバーは進んでおり、一部ノン・リセッション(ノー・ランディング)説に煽られた裁量投資家も株ポジションを2022年の低水準から復元している。埋める時はどうせアンダーウェイトのテックセクターから埋める。大量のメガテックのコール買いがそれを更に先取りした。

トロント・ドミニオンのCTAポジショニングも全く同じ構図となっている。とはいえ一般的には2022年のポジショニングの軽さも大してワークして来なかったため、ちょっとロングに転じたからと言って彼らがすぐ曲げると相場が決まったわけでもない。

GSのプライムブックもテックの大量のショートカバーを観測している。HFのテックショートカバーをロイターも捉えた。

GSは更にCTAは既に年初来の上昇を追いかけるロングが99%パーセンタイルまで進んでいると主張する。従って今後しばらくのCTAからの需要はどのシナリオでも大規模な買いにはならない。



相次ぐインフレ―ショナリーなデータにより米金利は大きく上昇している。特に短期ターミナルレートは大きく上昇した。にもかかわらず2022年と違ってナスダックなどは堅調さを維持しており、株式は債券対比で大幅に割高化している。

1月以降流行り出した「ノー・ランディング」説による、債券対比の株の選好がそれを説明する。



だから金利上昇だけを見て騒ぐのは間違っているのだ、と言いたいところであるがフォワードEPSの修復も始まっていない。従って指数が金利上昇に逆らって上昇できると考えるのは、金利のブル反転ないしはフォワードEPSの回復のいずれか、ないしは双方――今のところどちらも起きていない――に強いビューを持っていることに他ならない。今のところ、明らかに投機的なコール買いが持ち上げた指数の高値追いを後追いでChatGPTバブルなどのファンダメンタルズ・ストーリーで正当化するのはイケてない行為であるだけでなく、ワークもしていない。昨年10月の記事では「3.9%と3900の組合せは割高感が強い」としていたが、幸いその後金利が低下したため株式指数のラリーも正当化されたものの、直近では再び10年金利が3.9%に迫る中、更にフォワードEPSも10月対比で悲観化しており、その上でS&P 500が4100近辺となるとバリュエーションとしては話にならない。MSのマイク・ウィルソンなどは極端なまでに圧縮されたエクイティ・プレミアムを指して"Death Zone"と名付けている。

0DTEの働きもあってイントラデーの値幅は小さくないものの、日次で見ると本ブログが「低ボラティリティ・レジーム」からの逸脱を意味するS&P 500の1日2%以上の値動きというのは結局見られず、その結果VIXと共にリアライズドVolも縮小している。0DTEのアクティビティはより長いタームのオプション・ポジションを突っつかない限りVIXに出ないし、現に最も派手に観測されているのは時間外に下落した後の逆張りの買戻しに見え、日次リアライズドVolの上昇には必ずしも寄与していない。リアライズドVolの低迷はCTAが利食いに転じた時、値幅さえ出なければ他のシステマティック勢が買支えに動きやすいことを示唆する。

ナスダックと米金利の正相関化はしっかり続いている。これは株式指数が金利の束縛から離れやすいことを意味すると共に、債券と株式からなる伝統的ポートフォリオのマーケットリスクが2022年対比で小さくなりやすいことを示唆しており、通常双方を保有する投資家のキャッシュへの逃避の必要性を低減させる。リアライズドVolの低下と合わせたこの2点はひっくり返る(雑に言って1日2%を超えるか、大幅なダブル安)まで下値での買い需要を示唆する。

メスターやブラードが50bp利上げの正当性に触れていたのは金利上昇とMOVEの小幅な上昇に繋がった。金利水準が大幅に上昇したにもかかわらずMOVEの上昇幅は限定的であり、これは2022年と比べて今後の利上げ幅の不確実性がせいぜい25bp刻みになっているからである。引締め再強化の議論をもしパウエルなど中核部も共有したと見られると一段とMOVEが上昇して債券が、そしてMOVEの低迷がVIXの低迷に繋がってきたことを考えると株も一気に買いづらくなる。逆にもし22日に発表される議事要旨で50bp説の登場が限定的であったなら火消しになるが、FOMC後の指標が強いのが問題なので完全な火消しにはなりづらい。先週の記事では「インフレ―ショナリーな流れが来つつ、パウエルFedがハトスタンスを崩さないという、いいとこ取りの時間帯になっている」と述べたが、いいとこ取りの片割れに少し綻びが入りつつある。ただ今のところ綻びは限定的であり、「株が上がるとパウエルが怒る」神話は滅亡したままである。


NAAIMは二週連続の陰線で少しは落ち着いたものの依然2022年対比でかなり楽観的である。久々にプラス域に回復したGSのセンチメント・インジケーターも同様であり、このあたりは引続き高値追いを正当化しない。
テクニカルは今のところ、テクニカル以外のありとあらゆる切り口よりワークしている。前回の記事は4000近辺〜4175のレンジと決め打ちしていたが、実働域は4048 -4160と値幅を含めてだいぶ精度がよかった。とはいえ、ここからの展開はS&P 500のチャートよりもMOVEが一段と上昇するかどうかが決定しそう。週足は2本目の上ヒゲ陰線となっており4160までレジスタンスは降りて来る。下値は4050が先週に続き恐らくオプションサポートになっており2度も弾き返されているが、抜けるとしばらく真空地帯となり、その下では50SMAと200SMAがゴールデンクロスしている3900台で買いにぶつかりやすいか。先に4160を上にブレイクできれば一段と上値余地が広がるものの、付いて行ったとしてバリュエーションを考えるとどこまでアップサイドを見込めるのか。一方、2022年中は上ヒゲ陰線が1本でも見えれば直ちにクラッシュしていたが、低Volレジーム・債券と株式の逆相関レジームへの移行に伴いその場味では明らかになくなっており、従ってまだまだ下を叩く場面ではない。
上値は4100台が徐々に重くなってくるだろう。少なくとも上下のリスクバランスがここまで悪化するとレバレッジは残すべきではない。S&P 500と10年金利の正相関は既に終わったと言えばそれまでだが、金曜などは金利が低下に転じたにもかかわらず、株式は底値圏では買戻しが見られたものの始終債券をアンダーパフォームした。木曜以降の買戻しの鈍さはシステマティック勢が既に売りに転じ始めたことを示唆するか。転じてなくても先週の記事で触れたようにシーズナリティ的にもやや不利な時間帯に差し掛かる中、例えば4160手前でロングで何かを狙う意味は薄いように思える。一方4000近辺〜4175のレンジが既に破れたと考える理由はなく、3900台まで調整した場合も――近いうちに3900台にも戻って来ないと見る市場参加者は少数でありサプライズは薄いはずだ――慌てて付いて行くほどではない。色々点検はしたものの、結局はレンジ、プラスMOVE発不確実性上昇のありやなしや、の2点に尽きる。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。