GS option volume by  maturity
 今年に入ってから0DTEがバズワードになっており、指数や個別株の変動のドライバーとしてマーケットニュースでちょくちょく登場するようになっている。0DTEとは"zero-Day-To-Expiration"であり、一般的に24時間以内にエクスパイアする超短期のオプションを指す。昨年の記事でも一度取り上げた通り、SPXオプションのうち24時間以内にエクスパイアを迎える物の出来高は全体の4割を超える0DTEの流行は2022年後半以降の出来事であり、恐らくは取引所が短期オプションの上場を増やしたことなどをきっかけであり、かつて個人投資家の間での給付金を使ったMeme株投資の流行とはだいぶタイミングがずれている。原資産は指数であったり、テスラ株などポピュラーな個別株だったりする。
JPM 0DTE option size
 主な参加者については個人投資家と決めつける声もあれば、個人投資家の取引に占めるウェイトは実は高くないとするデータもある。昨年11月時点でJPMは0DTE取引高のうち個人投資家と思われる取引は5.6%にすぎないとしている。取引サイズの分布もオプション全体と大して変わっておらず、0DTEだけの特徴があるわけではない。オプションのフローを繋げてもらってマーケット・メイキングをしている金融機関もヘッジで他の0DTEを利用するだろうし、普通にカジノに顔を出す機関投資家もいるのだろう。
JPM 0DTE unwind
 JPMによると0DTEの1日の想定元本ベースの出来高は1兆ドルを超える。あまりもの巨大なリスクのやり取りは、何かの拍子で指数が急落した場合に下落が加速する懸念を我々に本能的に抱かせる。S&P 500が5分間で5%下落した場合305億ドルの0DTE関連取引が発生し、指数の下落幅を最大で20%増幅する可能性をJPMは指摘する。イン・ザ・マネー(ITM)に近付いて急増するリスクをオプションの売り手がカバーしないといけないいからである。これをJPMは2018年のVIXショックと同様の「ボルマゲドン "Volmageddon"」と名付ける。あの時もボラティリティ・ショートのポジションが重いところを金利上昇が突っついて爆発させた。

 「歴史は繰り返すとは限らないが、韻を踏む」とJPMは言う。しかし我々が肉眼で見える0DTEの動きはどちらかと言うとコール買いっぽく、プット売りが積まれてきたようには見えない。そもそもプットを売るなら何もプレミアムが大して付かないイントラデーでやる必要はないし、大半の日で少しずつプレミアムを儲けては大きく動いた日に吹き飛ばすストラテジーは、リスクの割には夢があるわけでもなく、エンドユーザーがギャンブラー気質であればあるほど相性が悪い。VIXショック前の「ボラティリティ売りの圧力が供給されて実際にボラティリティが上がらなくなった」局面とは必ずしも韻を踏んでいない。
BofA Intraday momentum
 0DTEのエンドユーザーのフローがオプションの売りに偏っているか、買いに偏っているか。バンカメは0DTEが流行った後の方がイントラデー・モメンタムが強くなった(イントラデー順張りのパフォーマンスがよかった)ことをもってエンドユーザーはガンマロング、マーケットメイカー(ディーラー)はガンマショートに偏っていると推測する。もっとも更に時間が経つとイントラデー・モメンタムは再び弱まったのでその偏りも一時的なものだったそうである。
GS SPX 1d straddle
 GSによると1日のストラドルを買った時に、大半の日は理論通り少し損して終わるが、PnL分布はそれなりに右に伸びており、0DTEを買って儲ける夢をそれなりに維持できることが示されている。これは1日のボラティリティが慢性的に安くプライシングされていたことを示唆しており、逆にエンドユーザーとしてわざわざ1dオプションを――慢性的に安く――売る戦略が大流行するようには思われない。
BofA 0DTE intraday
BofA 0DTE implied vol
 流れてきたBofAのチャートを眺めているとより「くずコールを買って一攫千金」を狙う構図に見えてくる。0DTEはエクスパイアから時間的余裕がある朝にoffer sideで取引されやすく(買われやすく)、引け(時間切れ)が近くなってITMが近づく希望が薄れるとbid sideで取引されやすい。教科書的にはオプションはプット需要(ヘッジ需要)の方が慢性的に大きいためインプライドvolのスマイルはプット割高になりやすいものだが、0DTEは長いオプションと比べると著しくコール割高である。NY引け近辺になると0DTEのイントラデー・インプライドVolは割高になりやすいが、これはどうせ引けで消滅するのでわざわざ二束三文で投げ捨てずにエクスパイアに任せる行動パターンからではないか。0DTEのよいところは持ち越しはされないので、負けてもエンドユーザーのお金が減るだけでポジション自体は毎日綺麗になることが挙げられる。従って爆発的事象が起きるとしてもあくまでもイントラデーであり、2018年のVIXショックのように中期的なVol売りポジションが何層にも重なっている構図とは異なる。
BofA Intraday vol vs open to close vol
 3月になるとマクロ方面の不確実性の急速な高まりで0DTEどころではなくなった。オプションを安くて買えて夢があるのが0DTEチャレンジの理由になるとすれば、インプライドVolが上昇すると0DTEのアクティビティは低下しやすいと推測される。BofAはイントラデー・リアライズドVolと日次のリアライズドVolを比較することで0DTEのイントラデー・インパクトを抜き出そうとしたが、大した違いはなかった。ガンマ・ショートにされたマーケット・メイカーをプラス域で、例えばかつてのGMEショックのようなノリで際限なく踏み上げる動きも最近は見られない。

 結局0DTEのアクティビティはどういう場面で目立ちやすいかというと、消去法的には「インプライドVolが低い時に」「安寄りしたところで前日引けに向けて買い上げる」ということになるのではないか。本ブログがこれまで何度も取り上げてきた「イントラデーで2%下落」があれば0DTEどころではなくなるが、欧州時間やアジア時間発の小さな安寄りは恰好の押し目にされやすそうである。基本的に1日以内の短い時間内でイン・ザ・マネーになると思われていなかったオプションがストライクに近づいて10倍や100倍になった後、結局僅差でアウト・オブ・ザ・マネーで引けたらアホらしすぎるので、ストライクに近づくと投資家は散っていくと思われる。一部は梯子を登るように次のストライクにベットするだろうし、普通に利食う人もいるとすれば、次の梯子チャレンジまで成功しない限り、最も流行ったストライクの手前ではスポットが止まりやすいのではないか。前日引けなど誰もが意識しそうな水準もレジスタンスになりやすそうである。一連の0DTEのアクティビティはボラティリティ売り方向ではないものの、いわば手動でリアライズドVolを押し下げるものであり、それがインプライドVolが低下する場面で起きやすいとすれば一種の自己実現となる。

 「ボルマゲドン」になりやすいのはいつかプット0DTEが流行った時と思われるが、今のところそのようなアクティビティは流行っていないし、流行りそうな兆候も見えない。そもそもベアに仕掛けたくなる時はインプライドVolも上がっているだろうから、かなり力技でプットを高く買って買い上げないと儲からないだろう。あれだけカジノのようなアクティビティが集まった挙句に「あまり動かなくなる」のが結論となるのはだいぶつまらないが、流行が反転するか、次のマクロ不確実性が火を噴くまでは低ボラティリティが自己実現しやすいと思われる。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。