
日銀の9月会合では7月会合から更に一転して煙に巻くターンとなった。金融政策は展望リポート更新月でもないので当然現状維持(論点はせいぜいフォワードガイダンスが変わるかどうか)であるが、本ブログも取り上げていたようにマイナス金利政策の早期撤廃の話題が過熱する中、記者勢からは早期撤廃の言質を引き出すための質問が集中した。それに対して植田総裁は再び言質を与えないモードになった。肝心の読売新聞の「年内マイナス金利撤廃あり得る」としていたインタビュー記事については、むしろあの時は記者に曲解されたと言わんばかりに、「前もって年内はそういう可能性は全くないということを、例えば総裁の立場で言ってしまうということは、毎回の決定会合の議論にある種強い縛りをかけてしまうというリスクを伴っているものであると、そういうことは言わない方が望ましいなという趣旨の発言でございました」にすぎないと押し返している。もっとも、4月会合の煙が結局7月会合で否定された前例があるので、市場参加者を再び煙に巻けたとは言えず、記者会見にはこれまでの織り込みを後退させるほどの威力はなかった。
従ってマイナス金利の早期撤廃について研究した前回の記事も結果的に9月会合のトーンと比べるとやや前のめりであった。もっとも「9月会合以降の会合は、結果的に相場がどう反応するかは別として、円安にジャンプしないよう金融政策案は作成されるだろう」「現実には昨年150円台で円買い為替介入を行ったくらいなので、少なくとも150円以上以上の円安が好ましくないことは当局内でコンセンサスが取れていると考えてよいだろう」としていたのは、為替市場の推移の予想としては結果的に合っていた。9月会合は円高にこそ走らなかったものの、円安に飛ぶわけでもなく為替市場は無反応であった。その後米国の長期金利が大幅に上昇するにつれてドル円相場はじり高になり、10/3夜に堅調な米国JOLTSを受けて150円に載せたが、すぐに謎のフローに円高方向に押し戻された。

ドル円のチャートだけ見るとあたかも財務省の為替介入が行われたかのように見える。日本時間の夜中ではあったものの、昨年11月の大規模な為替介入も23時台に行っている。しかし昨年の為替介入のような、夜通しで下値を叩き続けるような値動きは見られず、すぐに半戻ししている。翌日夕方に発表された為替スポット日の日銀当座預金は短資会社の予想と同じになったため、たとえ実弾介入があっても極めて小規模なものであり、或いはただのレートチェックだった可能性が高くなった。筆者はマーケット関係者ではないので誰がその時の売り手だったかについては全くの蚊帳の外である。答え合わせは10月末の「外国為替平衡操作の実施状況」の発表を待つことになる。
これまで為替介入は為替相場のボラティリティ(過度な変動)を抑えるという大義名分で行われるものと広く信じられており、現に9月にイエレン米財務長官も「為替レートの水準に影響を及ぼすことでなく、ボラティリティーを滑らかにするスムージングが目的であれば、理解できる」と述べており、そのナラティブを補強している。であれば匍匐前進のようなゆっくりとした円安進行なら為替介入がなされる正当性はないはずであった。しかしそれでもあからさまに150円を超えた途端に為替介入らしきものが降ってきたとなると、結局は水準を守るための為替介入ではないか、いったいボラティリティ云々とは何だったのかとの声が上がっても不思議はない。そこで翌日、為替介入を司る神田財務官はインタビューで「水準を守る為替介入」を正当化するロジックを提示した。曰く、「一方向に一方的な動きが積み重なって一定期間に非常に大きな動きがあった場合は過度な変動にあたりうる」「年初来からだとドル円は20円以上の値幅がある。そういったことも一つの要素だ」というのである。為替市場の過度な変動というと常識的にはせいぜい数週間の値動きの話と思いがちであるが、それを「年初来の値幅」と解釈することで財務省が考える任意の「水準」を当てはめることが可能になったのである。年初1/4のドル円仲値は131円なので、そこから20円の変動となると151円が目安となる。151円を超えると、たとえそれが匍匐前進の結果だったとしても為替介入を行う自由があるというわけである。

一般的に水準を守る為替介入は手の内を明かしている形であるため投機筋に狙われやすいとされている。実際に151円に何兆円ものドル買い需要が集まったら必ずしも防衛し切れるわけではない。しかし前回の記事の観測通り、財務省はドル円が150円を超えるのがよほど嫌だったのだろう。市場参加者からすれば、151円まで財務省にチャレンジしに行く前提なら、例えば148円からドル円を買って151円の手前で降りれば3円弱とその間の金利差を獲ることができる。それ以上含み益を伸ばそうとすると為替介入で一旦は数円分損することになる。もしチャレンジしに行かないならその3円も獲れない。逆に151円を背にしたドル円ショートが集まればそのロスカットフローが介入をアタックすることになる可能性もあるが、金利差が5%以上あるとそれをあえてやる人間も少ないだろう。151円を超えるとすれば金利差目当ての海外投資の実需が大量に集まった場合であり、投機筋だけでチャレンジしようとは中々思わないはずだ。逆に151円が遠くなるほどドル円が下落すれば蓋が意識されづらくなるため再び金利差狙いの買いが集まりやすいと思われ、従って150円より下での停滞が長く続くことになりそうである。これは前回の記事の想定と変わっていないが、150円より上を防衛する主体は再び日銀から財務省に戻ってきた。

日銀の次の決定会合は10月末であり、今度は展望リポートが発表される月であるが、早速共同通信から今年度の物価見通しを7月の2.5%から更に3%近くに引き上げるとの観測が出ている。もしこれがリークだとすれば、読売新聞がこの前の断片的な取り上げ方で日銀を怒らせたので今度は共同にやらせたという経緯になるのだろうか。実際、少なくとも8月分までは減速の兆しがない。7月の物価見通し引上げにはYCCのレンジ再拡大が続いた。9月会合は据え置きだったが物価見通しが出ない会合であるため10月会合のスタンスを予想するものではない。10月に再び物価見通しが上振れるなら、金融政策も何らかのアクションが伴うと考える方が自然である。いきなりマイナス金利政策を撤廃することはできないのでせいぜい来年早々の撤廃に向けた予告の強化くらいしかできないだろうが、既に形骸化されているYCCもより一層形骸化されるのだろうか。いずれにしろ、10月会合もドル円が150円より上に向かって吹っ飛ぶような会合にはならないだろう。
YCCがなくなった「戦後」については、前回の記事でも「公的債務の残高が金融システム対比で大きすぎるため、国債消化の一部は永久に日銀の買入れに依存することになるのは論を俟たない」としていたが、世の中でも「YCCが撤廃された後も何らかの買支えはスキームは残る」との観測が出ている。同じ記事に、我々が既に議論した日本の中立金利(自然利子率)の話も登場しており、本ブログの記事では中立金利を「-1%から0%の間」としていたのだが、日経はちょうどそのど真ん中の-0.5%と決め打ちしている。ただインフレの2%と中立金利に加えてタームプレミアムが要求されるため長期金利のフェアバリューを2%~2.5%とした上で、その手前で日銀が国債買入れが支える(タームプレミアムは結局潰れる)だろうというまとめ方になっている。つまり1.5%や2%あたりの上限のみのYCCが漫然と残るのが最終形態になるということか。
それほど遠いYCCが実際に機能するのはエクストリーム・ケースである。我々が盛り上がっているのはせいぜいこの1, 2年にわたって日銀が「物価目標未達」と言えなくなる点であり、長期金利の10年間で言うと残りの8, 9年間にわたって目標を上回る物価上昇が続くと考える根拠があるわけではない。続かないなら中立金利も当然 -0.5%などよりもっと下であるし、その間これまでの利上げサイクルのように世界景気が減速してくれば中立金利チャレンジどころではなくなる。期待値はせいぜい、物価目標「未達と言えなくなった」からある程度の金融引締めに入って円安を止めてくれるかどうか、という程度である。本ブログは一貫して日本の長期金利が1%を大幅に超えるとは想定していない。

一般的に水準を守る為替介入は手の内を明かしている形であるため投機筋に狙われやすいとされている。実際に151円に何兆円ものドル買い需要が集まったら必ずしも防衛し切れるわけではない。しかし前回の記事の観測通り、財務省はドル円が150円を超えるのがよほど嫌だったのだろう。市場参加者からすれば、151円まで財務省にチャレンジしに行く前提なら、例えば148円からドル円を買って151円の手前で降りれば3円弱とその間の金利差を獲ることができる。それ以上含み益を伸ばそうとすると為替介入で一旦は数円分損することになる。もしチャレンジしに行かないならその3円も獲れない。逆に151円を背にしたドル円ショートが集まればそのロスカットフローが介入をアタックすることになる可能性もあるが、金利差が5%以上あるとそれをあえてやる人間も少ないだろう。151円を超えるとすれば金利差目当ての海外投資の実需が大量に集まった場合であり、投機筋だけでチャレンジしようとは中々思わないはずだ。逆に151円が遠くなるほどドル円が下落すれば蓋が意識されづらくなるため再び金利差狙いの買いが集まりやすいと思われ、従って150円より下での停滞が長く続くことになりそうである。これは前回の記事の想定と変わっていないが、150円より上を防衛する主体は再び日銀から財務省に戻ってきた。

日銀の次の決定会合は10月末であり、今度は展望リポートが発表される月であるが、早速共同通信から今年度の物価見通しを7月の2.5%から更に3%近くに引き上げるとの観測が出ている。もしこれがリークだとすれば、読売新聞がこの前の断片的な取り上げ方で日銀を怒らせたので今度は共同にやらせたという経緯になるのだろうか。実際、少なくとも8月分までは減速の兆しがない。7月の物価見通し引上げにはYCCのレンジ再拡大が続いた。9月会合は据え置きだったが物価見通しが出ない会合であるため10月会合のスタンスを予想するものではない。10月に再び物価見通しが上振れるなら、金融政策も何らかのアクションが伴うと考える方が自然である。いきなりマイナス金利政策を撤廃することはできないのでせいぜい来年早々の撤廃に向けた予告の強化くらいしかできないだろうが、既に形骸化されているYCCもより一層形骸化されるのだろうか。いずれにしろ、10月会合もドル円が150円より上に向かって吹っ飛ぶような会合にはならないだろう。
YCCがなくなった「戦後」については、前回の記事でも「公的債務の残高が金融システム対比で大きすぎるため、国債消化の一部は永久に日銀の買入れに依存することになるのは論を俟たない」としていたが、世の中でも「YCCが撤廃された後も何らかの買支えはスキームは残る」との観測が出ている。同じ記事に、我々が既に議論した日本の中立金利(自然利子率)の話も登場しており、本ブログの記事では中立金利を「-1%から0%の間」としていたのだが、日経はちょうどそのど真ん中の-0.5%と決め打ちしている。ただインフレの2%と中立金利に加えてタームプレミアムが要求されるため長期金利のフェアバリューを2%~2.5%とした上で、その手前で日銀が国債買入れが支える(タームプレミアムは結局潰れる)だろうというまとめ方になっている。つまり1.5%や2%あたりの上限のみのYCCが漫然と残るのが最終形態になるということか。
それほど遠いYCCが実際に機能するのはエクストリーム・ケースである。我々が盛り上がっているのはせいぜいこの1, 2年にわたって日銀が「物価目標未達」と言えなくなる点であり、長期金利の10年間で言うと残りの8, 9年間にわたって目標を上回る物価上昇が続くと考える根拠があるわけではない。続かないなら中立金利も当然 -0.5%などよりもっと下であるし、その間これまでの利上げサイクルのように世界景気が減速してくれば中立金利チャレンジどころではなくなる。期待値はせいぜい、物価目標「未達と言えなくなった」からある程度の金融引締めに入って円安を止めてくれるかどうか、という程度である。本ブログは一貫して日本の長期金利が1%を大幅に超えるとは想定していない。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。