
前回の記事では中国の8月の限界的な景気回復が内需ではなく外需回復主導のものであったとの仮説を立てたが、9月のデータはその見方に沿ったものになっている。中国のPMIは国家統計局(NBS)版、財新(Caixin)版の二つがあり、それぞれ製造業とサービス業で合わせて4つあるが、9月分はNBS製造業PMIが緩やかに回復、財新製造業PMIが横ばい、NBSサービス業PMIが少し反発、財新サービス業PMIが続落となっている。製造業が極めて緩やかながらも上向き(景況感下げ止まり)になっており、中でも輸出に携わる大企業が多いNBSの方がその傾向が強く、一方でサービス業はリオープン効果を食いつぶす形で明瞭な減速が続いている。サービス業主導の回復は存在せず、外需しか戻っていないことがPMIからも分かる。

中国の消費者物価(CPI)もコンセンサスを下回る0%近辺の推移が続く。生産者物価(PPI)はエネルギー価格上昇等で戻りつつあるにもかかわらずCPIが動かないのは需要サイドが弱いことを示唆している。

中国の輸出入は両方引続き前年比マイナス域ながらも、輸出は反発が続く。全てのデータが前回の記事の世界観を補強している。
10月初頭の国慶節の大型連休でも観光地の混雑を取り上げて景気の堅調さを論じる声もあったものの、蓋を開けてみれば「2019年と比べると、旅行者数は4.1%増、観光収入は1.5%増」にとどまっている。5%成長しているらしい経済体で4年前対比で観光収入1.5%増である。これは本ブログが以前の記事で「実際出張と経費での飲食が真っ先に復活し、その熱気を目撃してリオープンを説いたエコノミストもいたが、彼らは同業者の出張を鏡で見ていただけなのである。GW中に観光地は混雑したのは事実だが、2022年の悪夢を経て旅行自体は人気だったものの財布の紐は堅く、格安旅行が流行った」と取り上げた5月のメーデー大型連休と同様のパターンである。その記事の題名をもう一度繰り返そう。リオープンは存在しなかったのである。
これらのニュースを報じる時に人々は今でも「追加景気対策の必要性」を脊椎反射で最後に取って付けている。しかし、恐らく世界の大半のエコノミストを驚かせたように、また本ブログの予想通りに、中国政府は消費振興のための財政出動を決して行おうとしなかった。本ブログは代わりに、ランドセールの消滅に伴い地方財政は緊縮期に入ると宣言してきた。実際その後、財政出動どころかインフラ投資の削減などのニュースが続く。前回の記事では「今後ただでさえ民間雇用が弱い中で更に公務員の削減・賃金引下げラッシュがやってくる可能性が高い」としていたが、その後実際に公務員の給与削減や未払いがニュースになっている。バスの運行停止など公共サービスの縮小も続く。
中でも目立ったのは警察から揚がる罰金への依存である。技術や法執行体制の進化に伴い中国の罰金収入は毎年増え続けているが、2023年は露骨に地方財政維持のための罰金が目立った。中国のプログラマがVPNを使ってGitHubで海外企業から受注したプログラミングで2,000万円ほどを稼いだのが、「VPNの使用という違法行為による不当な所得」として全額を地方政府に没収されたのが話題を呼んだ。財政拡大どころか、財政難を苛政で補うかつての王朝末期の雰囲気すら漂ってきたのである。
一方、これまで散々見てきたように中国の中央財政はあきれるほど健全である。専項債を隠れ財政赤字と見なす動きもあるが、名目上は将来の税金に頼らずプロジェクトを通して民間から資金を回収することになっているので、財政赤字の代わりを務められるほどの効果はない。しかもその建前への畏れから専項債自体もそんなに発行が増えておらず枠が余っている。Bloombergは今月に入って1兆元の国債増発と共に、2023年の財政赤字枠を現行のGDP比3.0%から引き上げるとの観測記事を出している。確かに理論的には春の全人代会期以外でも2ヶ月に一回開かれる全人代常務委員会(次回は10/20 -24)で補正予算を組むことは可能であるが、ある程度の埋蔵金的な資金を使える可能性はあるものの、財政赤字拡大まで踏み込む可能性は高くない。2023年暮れにあえて財政拡張を行うとすれば、それは2023年の成長目標の5%達成が危うくなった時である。しかし、2023年はゼロコロナ政策からのリオープン効果があるのでさすがに5%成長は余裕である。3QのGDP発表を通過して今年のGDPが5%を割れると考えている投資銀行も減ってきた。2023年はリオープン効果で5%を余裕で達成できることが、景気対策の出づらさの根源なのである。次の景気対策が期待できるスケジュールは来年に向けた12月の中央経済工作会議である。

2023年のGDP成長率が5%を維持できそうと分かった途端に中国株がクラッシュしたのは偶然ではないだろう。リオープンなど存在しなかったのである。
著しい減速が見られそうなのはあくまでもリオープン効果がなくなった来年である。今年の5%成長と同じ経済環境さえ維持すれば自然体で来年も5%成長できるとは中国の官僚機構もまさか思ってはいないだろうが、思い切った財政赤字の拡大に踏み切れるかどうか。来年春の全人代で財政赤字目標が現状のGDP比3.0%から大幅に増加しない限り、2024年の中国のGDP成長率はドタ勘で3%前半まで急減速するだろう。地方政府の財政引締めの激化は既に決まっている。中央政府が身銭を切らず、地方政府や民間に何やら号令をかける程度の流れが続くなら、来年の3%台成長への確信は深まるというものである。
これらのニュースを報じる時に人々は今でも「追加景気対策の必要性」を脊椎反射で最後に取って付けている。しかし、恐らく世界の大半のエコノミストを驚かせたように、また本ブログの予想通りに、中国政府は消費振興のための財政出動を決して行おうとしなかった。本ブログは代わりに、ランドセールの消滅に伴い地方財政は緊縮期に入ると宣言してきた。実際その後、財政出動どころかインフラ投資の削減などのニュースが続く。前回の記事では「今後ただでさえ民間雇用が弱い中で更に公務員の削減・賃金引下げラッシュがやってくる可能性が高い」としていたが、その後実際に公務員の給与削減や未払いがニュースになっている。バスの運行停止など公共サービスの縮小も続く。
中でも目立ったのは警察から揚がる罰金への依存である。技術や法執行体制の進化に伴い中国の罰金収入は毎年増え続けているが、2023年は露骨に地方財政維持のための罰金が目立った。中国のプログラマがVPNを使ってGitHubで海外企業から受注したプログラミングで2,000万円ほどを稼いだのが、「VPNの使用という違法行為による不当な所得」として全額を地方政府に没収されたのが話題を呼んだ。財政拡大どころか、財政難を苛政で補うかつての王朝末期の雰囲気すら漂ってきたのである。

一方、これまで散々見てきたように中国の中央財政はあきれるほど健全である。専項債を隠れ財政赤字と見なす動きもあるが、名目上は将来の税金に頼らずプロジェクトを通して民間から資金を回収することになっているので、財政赤字の代わりを務められるほどの効果はない。しかもその建前への畏れから専項債自体もそんなに発行が増えておらず枠が余っている。Bloombergは今月に入って1兆元の国債増発と共に、2023年の財政赤字枠を現行のGDP比3.0%から引き上げるとの観測記事を出している。確かに理論的には春の全人代会期以外でも2ヶ月に一回開かれる全人代常務委員会(次回は10/20 -24)で補正予算を組むことは可能であるが、ある程度の埋蔵金的な資金を使える可能性はあるものの、財政赤字拡大まで踏み込む可能性は高くない。2023年暮れにあえて財政拡張を行うとすれば、それは2023年の成長目標の5%達成が危うくなった時である。しかし、2023年はゼロコロナ政策からのリオープン効果があるのでさすがに5%成長は余裕である。3QのGDP発表を通過して今年のGDPが5%を割れると考えている投資銀行も減ってきた。2023年はリオープン効果で5%を余裕で達成できることが、景気対策の出づらさの根源なのである。次の景気対策が期待できるスケジュールは来年に向けた12月の中央経済工作会議である。

2023年のGDP成長率が5%を維持できそうと分かった途端に中国株がクラッシュしたのは偶然ではないだろう。リオープンなど存在しなかったのである。
著しい減速が見られそうなのはあくまでもリオープン効果がなくなった来年である。今年の5%成長と同じ経済環境さえ維持すれば自然体で来年も5%成長できるとは中国の官僚機構もまさか思ってはいないだろうが、思い切った財政赤字の拡大に踏み切れるかどうか。来年春の全人代で財政赤字目標が現状のGDP比3.0%から大幅に増加しない限り、2024年の中国のGDP成長率はドタ勘で3%前半まで急減速するだろう。地方政府の財政引締めの激化は既に決まっている。中央政府が身銭を切らず、地方政府や民間に何やら号令をかける程度の流れが続くなら、来年の3%台成長への確信は深まるというものである。
関連記事
米国の脳内景気後退とシクリカルな中国外需これより先はプライベートモードに設定されています。閲覧するには許可ユーザーでログインが必要です。
この記事は投資行動を推奨するものではありません。