
新NISAのインパクトの定点観測。新NISAが始まって1ヶ月余りで既に1兆8千億円以上の資金が流入した。日経の取材記事では投資信託と個別株に分けて紹介しており、海外資産と日本株という切り口では切っていない。1兆8千億円のうち約1兆円が投資信託、残りの約8,000億円を個別株になっている。個別株は証券会社の窓口チャネルが強いということもあり高配当株を中心に日本株が健闘しており、トップ10銘柄はシェアは低いものの全て日本株が占めている。そういう意味では、1兆8千億円のうち過半数は海外資産に向かったと確信できるものの、日本株も案外健闘していると言えるだろう。もっとも新NISAでは個別株は成長投資枠でしか投資できない。積立て投資枠のフローは海外株が8割以上を占めると思われる。投資信託1兆円のうちトップ10投信が全て海外株投信であり、それだけで8,000億円を占めるからである。本ブログが唱えてきた年5兆円の外貨購入説については、既に1月だけで1兆円近く進捗したため、残り11ヶ月で4兆円こなせばよくハードルは低い。

1月分の資金流入には年初一括投資派のスタートダッシュが含まれているため、2月分まで見てようやく新NISAのフローの全容を掴めると本ブログは述べてきた。現にeMAXISシリーズをモニターすると2月分は1月分と比べて大きく減速した。2月の、特にアノマリーの1日積立て分は2024年以降の積立てフローの規模を表現するものと見なしてよいだろう。過去対比の2024年の増え方ではS&P 500投信よりオルカンの方が派手なのは、初心者は後者を選好するためと思われる。

更に年が明けてもネット証券のNISA口座数は増え続けている。eMAXISの2月分の昨年対比の増え方から更に少し増えると考えると、2024年以降の海外株式へのNISAフローは2023年の2倍弱というところか。このフローがコツコツと続く限り、日本と他の先進国の金融サイクルのズレが多少修正されたところで、大幅な円高転換は見込みづらいだろう。

新NISAにおいて日本株投資は思ったより健闘しているが、それでもトータルで見ると個人投資家は日本株投資を増やすどころか、新NISAのための資金捻出、或いは値頃感で2023年12月に以降、売り越しが加速している。「海外株は投資信託、日本株は個別株」という棲み分けの中で日本株投資信託の人気の薄さが目立つ。それでも年初から日本株指数が高騰したのは、個人投資家の売却額以上の量を海外投資家が買ったためである。前回の記事でも述べたように、「資産運用立国」の中で日本株の需給を支える役割はあくまでも海外資金に与えられている。従って日本株の中でも初心者でも知っている銘柄ほど買われやすくなっている。
新NISAが加速させた海外株式投資ブームに対して、個人の旺盛な日本株買いをもっと期待していた一部の市場関係者が「証券会社が米国株投資ばかり勧めている」「専門家が世界株式指数連動型のファンドがよいと言い回っている」とこぼしていたそうだが、もしそのような市場関係者が実在するならあまりにもセンスがない。インデックス投資化はホームバイアスを取り除くものであるため、必然的に海外志向、ドル化に繋がると本ブログは2021年から述べてきた。「新NISAは海外投資も税制面で優遇する制度であり、日本の個人金融資産という国富が海外に流出することを促しているのではないか」という怒りの声まで紹介されているが、国富の流出とまで言い切るのは大げさである。投資資産の所有権は依然日本に居住する日本国民にあるからだ。国境を跨いで出て行く時には円安圧力になるが、長期的に見て運用資産が増えていれば、出て行った時の数倍のフローになって将来返って来るかもしれない。米株が実は詐欺的なバブルで、新NISA組が大規模にお金を減らして帰ってきた時のみ、国富の流出と言えるだろう。もっとも、逆に「日本株が投資対象としての魅力度が低いのが悪い」と悪態付くのもまた極論である。海外資金が日本株を大掛かりに買い上げており、日本人だけが買っていない構図から分かるように、魅力度が低いのは客観的な事実ではなく、言う側の認識の慣性にすぎない。
一方、NISAが手本にした非課税制度ISA(個人貯蓄口座)を持つイギリスでも確かに「英国は自分自身に投資していない」という議論が持ち上がっている。従って例えばNISAの対象を日本企業に限定するのは、日本の個人投資家にとって間違いなくありがたくないし、実務的にも困難だが、問題提起そのものが荒唐無稽というわけではない。少なくとも日本政府から税金を免除してもらう側が「オレの最適な資産形成を妨害するな」程度の反論しか提示できないようでは議論にもならないだろう。同じようにISA制度を持つ韓国でも国内株は人気なかったが国内株ISAを新設している。もっとも韓国当局も韓国国民が保有する海外株式は韓国の対外純資産であるとポジティブに捉えており、ウォン安でピリピリしていた期間も海外投資のレパトリを促すような施策は取っていない。過去の不遇などから自国企業を毛嫌いするタイプの個人投資家への日本政府の歩み寄りは格別に手厚いと言え、一般的にISAは国民の「オレの資産形成」だけを最優先するものではない。逆に新NISAという制度がキャピタルフライトと円安に繋がった構図を批判したい気持ちを持つ側の人々は制度そのものではなく、必然的に海外化、ドル化に繋がるインデックス投資化を、唯一の正しい投資であると布教して回っている人々に責任を帰するべきである。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。