Nikkei JREIT Historical Chart
 日本株のパフォーマンスがいい中、歴史的には日本株と同様の傾向を示してきたはずのJREITが大きく取り残されている。それどころか2~3月には大きく売り込まれており、利回りを求めて保有する投資家は厳しい試練に晒された。日本株とJREITは歴史的なまでにパフォーマンスが乖離した。

 株式指数対比ではJREITは利回り商品の側面が強く、また地銀などが債券と共に投資しているため、値動きも大なり小なりと債券に似て来る場面が出て来る。それがゆえに「JREITは債券」と言われることもある。それがどれだけ適切な言い方かはともかく、実際に債券として捉えていれば、度重なるYCC修正に加えマイナス金利政策撤廃が前倒しされる中、JREITの弱いパフォーマンスをある程度は予想できただろう。

JREIT売却の犯人

Trading Volume of Real Estate Investment Trusts by Investor Type
 東証のサイトから投資部門別の2月分までの月次REIT売買動向を見ると、2024年に入ってJREITを大きく売り越した主体は海外投資家と金融機関である。投資信託はずっと売っているがその勢いは急激ではない。それらに対して個人と事業法人が買い向かっているという構図となる。売り手の中で金融機関が目立っていることは「債券としてのクラッシュだった」説を補強する。

 金融機関の期末のポジション処分は歴史的にも3月によく行われてきた。新年度に持ち越したくない含み損のポジションの処分に際し、銀行全体として実減損を出さないように、含み益が載っているポジションを合わせ切りする場面は多々ある。特に内外金利が上昇した年度の年度末は債券との合わせ切りが行われやすいと推測される。しかし2023年度全体を通してもREITのパフォーマンスが悪かったことから、いわば益出しとしての売却だったとは考えづらく、REITを損切りたいモチベーションが先にあったはずだ。金融機関のぶん投げは明らかに予定外に早まったマイナス金利政策撤廃に伴う金利上昇を警戒したものである。担当役員から「マイナス金利政策が3月、4月にも撤廃されるらしいぞ、我が行は用意できているのか?」とご下問があった場合、ポートフォリオのコア資産である国債(往々にして簿価も高い)はそうそう動かせないため、とりあえず流動性が高いREITを売っておけば「マイナス金利政策撤廃リスクを察知し、また投資行動に移すことができた」とアピールすることができる。「撤廃後にREITが別に暴落せず、売った水準よりも高い水準でしか買い戻せなくなった」場合も、それはマーケットが必ずしも理論通りに動かないためであり、「マイナス金利政策撤廃リスクを察知できなかった場合」と違って担当者のミスではない。

 海外勢はそのぶん投げを加速させる形で売っている。一部にはマイナス金利政策撤廃トレードも入っているだろうが、「売る行動」が大事な邦銀と違って、利回りが上がった後には魅力度も高まるのが見えているはずだ。株式には海外勢から資金が入ってきているのにどうしてJREITは利回りが上がっても放置されるのか、という問いも出て来るだろうが、「日本はこれから諸外国に遅れて利上げサイクルに入る」と広く信じられており、特に本国の商業用不動産投資が利上げサイクルで焦げ付いでいる中で、海外勢が利回りだけを理由に大々的に日本のREITに投資するのはさすがに困難だったと思われる。

利回り4%という古いアンカー

JREIT Yield Spread
 非合理的なフローを無視しても、そもそも2024年に入ってからのJREITの下落は2023年後半の金利上昇の後追いと解釈される。JREITの分配金利回りから10年国債金利を引いたイールドスプレッドで見ると、2023年10月末には国債金利が上昇したにもかかわらずJREITがすぐに調整しなかったため2016年以来のレンジの下限(割高)にあった。その後の長い下落(利回り上昇)はイールドスプレッドで言うとレンジ内に復帰する動きでしかない。JREITの利回りは2020年の暴落時と同程度まで上昇しているが、スプレッドで言うとその時ほど超割安と言えるわけではない。せいぜい長期金利相応というか、長期金利対比での割高さが解消された程度である。昨年までは長らく分配金利回りが4%に達すれば買い場だったが、今回突き抜けてしまったのは、今の4%とマイナス金利政策時代の4%は価値が違うからである

平凡なイールドスプレッド

AMOne JREIT Daily
 3月半ばのクラッシュまでのデータが揃っているAM Oneのレポートからも、イールドスプレッド(利回り差)が極端には広がっていなかったことが確認できる。せいぜいここ数年並みである。ファンダメンタルズからはイールドスプレッドは更に拡大する理由は特段思いつかない。本来JREITと株式は長期的には連動するものだった冒頭の議論を想起すべきだ。概ね好景気が続く中、日本は米国ほど商業用不動産が傷んだわけではない。にもかかわらずJREITのNAV倍率は3年間かけて切り下がってきた。それが上の議論の通り長期金利上昇によるディスカウントだとして、ではオフィス、ホテルと物流施設の資産価値が金利相応に簿価対比で下落したかというとそうは見えない。つまり目下は債券のように取引されているが、JREITにも本来ある程度のインフレ耐性があるはずだ。もちろん、突き詰めるとJREITに入っている物件は必ずしもよい案件ばかりではなく、度々不動産会社の「ゴミ箱」と呼ばれてきた。しかしそれは今に始まったわけではなく、我々一般投資家がもっと利回りの高い物件を持てるわけでもなくJREITのマーケットタイミングのみを議論している以上、むしろ「ゴミ箱だから自分は買わない」との声が大きくなり、落ちるナイフを拾う決心が揺らぎそうになる時こそが買い場に思える。

金利ビューとJREIT

 イールドスプレッドが普通域なら、ここからのJREITは概ね金利商品ということになる。長期金利はマイナス金利政策撤廃の後も、本ブログが長らく決め打ちしてきた0.5%~1.0%レンジから離れて上昇する気配がない。とはいえ1.0%の方が近いのではないかというのがマイナス金利撤廃を受けた見立てだったのだが、上昇スピードが緩慢なら必ずしも債券を売って1.0%を待って買い直そうという判断になるわけではない。JREITは利回りが厚い分、更に保有の方が有利となる。あえて水準感を示すなら、完全にJREITを債券として考えると長期金利下限0.5% +イールドスプレッド下限3.3% =利回り3.8%は割高に見え、長期金利上限1.0% +イールドスプレッド上限4.0% =利回り5.0%は負けようがない水準に見える。この3.8%~5.0%レンジを元にインカムの分、そしていつか日本不動産のインフレ耐性が証券市場で再発見されるかもしれないと考えれば下方に(JREIT価格は上に)シフトしてもバチは当たらないだろう。そう考えると3月にやった水準の内側は上値追いが続く株式と比較しても遥かに落ち着いて保有できるように見える。特に3月の売り手の正体が概ね分かった後は一段と暴落するとは考えづらいだろう。

外部環境

USRT
 米国の不動産市場が今後火を噴けばJREITも連れ安する可能性もあるが、肝心の米国REITは2021年末のピーク対比ではまだ安いものの、2022年10月と2023年10月のボトムを付けてから堅調に推移している。その2回は金利のピークでもあったため、こちらも概ね金利商品だったのである。Fedが利下げ局面に入って米国REITが上値を伸ばし始めたらしばらく経ってJREITにも見直し買いが入りやすいだろう。海外投資家から見てJREITを買って米ドルにヘッジし直すとJREITの分配金利回りと日米金利差を足すと10%近くのインカムになる。これから日本が0.5%利上げ、米国が1.5%利下げしてもまだ米ドルで8%近くある。逆に内外金利が上昇した年度では2~3月は一旦保有をやめ、売られたところで拾い直すというのがやはりワークしやすいと思われる。

要約

・2024年年初のJREITの売り手は金融機関と海外勢
・金融機関は期末に加え、マイナス金利政策撤廃を警戒するポーズ
・海外勢は利上げサイクル入りに加え本国の都合でも不動産は後回しに
・長期金利上昇を考慮するとJREITは2020年ほど超割安になったわけではない
・分配金利回り3.8%~5.0%を元に、インフレ耐性分だけ利回りが低くても許される
・米国REITをモニターしつつ、米国利下げ後のどこかで見直されると期待
・内外金利が上昇した年度の2~3月は金融機関の合わせ切りを意識

関連ポータルサイト

マーケット概況|J-REIT.jp | Jリート(不動産投資信託)の総合情報サイト | ARES J-REIT View 

2024年|J-REITレポート|投資信託のニッセイアセットマネジメント (nam.co.jp) 
デイリーレポート|マーケット情報|アセットマネジメントOne (am-one.co.jp) 
国内リート見通し(2024年3月25日) | 明治安田アセットマネジメント株式会社 (myam.co.jp) 

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。