中国経済の定点観測。中国の4-6月期の実質GDP成長は前年同月比+4.7%となり、政府目標の+5%ペースを下回ったが、上半期全体で均すと+5%ペースが続いていることになっている。本ブログなどは未達どころか今年4%も割れるに決まっていると言ってきたので未達でも+4.7%というペースは驚きであるが、これにはカラクリがある。デフレ(デフレーターが-0.7%)なので実質GDPが膨らんで見えるのである。
名目GDPに直すと4%となる。インフレ下の名目GDPからインフレで膨らんでいる分を控除すべきなのは分かるとして、(日本も経験してきたように)デフレ下のGDPは名目値で見る方が体感に近い。ここまでが教科書的だとして、中国の場合、GDPやCPIのボラティリティと比べてGDPデフレーターのボラティリティがあまりにも大きいし、我々がイメージする過去の中国景気の推移と合わせるとデフレーターの方がGDP本体ではないかという気もしてくる。
中身は不動産が足を引っ張ったという言い方をされることが多いが、それよりも消費が完全にコケている様子が壮観である。消費の落ち込みはもちろん雇用の弱さと不動産不況の逆資産効果のせいである。前回の記事でも述べてきたように、中国政府はもはや完全に不動産と消費を見捨ているようにしか見えず、空いた穴を製造業の生産部門で埋めることでGDP目標を維持しようとしているのが分かる。
これをハイテク産業へのリバランスとして評価する声もあるが、前回の記事でも述べてきたように、どうしようもなくなった不動産や消費の低迷からの逃げでしかない。2023年後半のGDPはややピックアップしたため、今年後半の前年同期比の成長率は更に厳しくなるだろう。
不動産市場の定点観測
不動産販売面積は6月末に一旦ピックアップしたにも見えるが、これは下のGSのチャートから分かるように季節性であり、7月に入って例年と同じように再び落ち込んでいる。そもそも売買高が増えた6月も価格は反発していない。従って「不動産市場支援策(5/17新政)」をトレードする必要がないことが分かる。
信用収縮は続く
中国の企業預金の代理変数であるM1は依然前年比深いマイナス成長が続く。M2も減速してきた。これは引続き企業も個人もバランスシートを拡張する意欲に乏しいためであり、デフレスパイラルに入りつつあることを示唆するが、前回の記事の繰り返しとなるのでそれ以上は触れない。まさかの金融引締め
デフレ長期化懸念を背景に中国国債金利が今年に入ってから低下が加速している。中国当局は今年に入ってから金融緩和を行ったわけでも、将来の金融緩和をアナウンスしたわけではない。それでも長期国債が買われ続けたのは多くの市場参加者が中国人民銀行(PBOC)がいずれ金融緩和に追い込まれるに違いないと判断したためである。なかったらなかったで、その時の融資や株式投資のダウンサイドリスクを考えると、低利回りの国債に突撃して高値掴みしたところで、「他よりはマシだった」ということになるだろう。機関投資家が極端に低い利回りの国債をどこまで追いかけられるかは、彼らが今後中国の経済成長に連動するリスク資産に投資した場合にどれだけ損しそうと見積もっているかで決定される。
長期金利の低下は間接的にファンディングコスト低下に繋がるため、経済のスタビライザーとして働く、つまり市場参加者が経済環境を正しく見通していれば彼らの効率的な資源配置がショックを和らげることができるというのが教科書的な考え方である。しかし、当局の経済環境への干渉はどこまでも的外れであった。PBOCは予想外の長期金利低下を債券バブルと認識し、激怒したのである。中国経済に対する(日本化などの)悲観的なセンチメントのせいで長期金利が低下すると、それは資本流出を加速させ人民元の為替レートにも下落圧力をかけてしまうと中銀関係者は寄稿した。もちろんここまではほぼ完全に正しいのだが、当局にとって市場参加者のデフレ期待は粉砕せねばならないものに見えた。それは金融緩和や財政出動でデフレ対策を行うということではない。「長期金利の低下」という表徴が敵なので、PBOCは表徴そのものを退治しようとした。4月以降の幾つかの長期金利を持ち上げようとする口先介入が市場参加者に無視されると、PBOCは直接セカンダリー市場での国債売却を通して長期金利に干渉しようとした。しかも先進国の中銀と違ってPBOCはバランスシート上で国債を大量に保有しているわけではないので、市場参加者から国債を借り入れて空売りしようというのである。
何もこんな面倒なことをやらなくても、低金利は国債の供給を増やしてもよいという市場の声でもあるので、普通に国債を増発して使えばいいではないかと思えるものの、当局は財政出動も嫌がっているため国債増発も行われない。伝統的に中国中央政府は財政緊縮的な小さな政府であり、地方債務の面倒もあまり見たがらなかったため、国債市場の規模も他の債券対比で大きくない。先進国と全く逆の方向のオペレーションによるPBOCの疑似YCCは引締め的であり、ただでさえ弱い経済環境に対する金融市場の修復機能をも消し去ろうというのである。
同時にPBOCはMLF(中期貸出制度)を通した中銀貸出を3月以降5ヶ月にわたって絞り続けている。また2023年と違ってMLF金利引下げも中断している。これもFedの高金利政策継続に対する通貨防衛的な引締めである。PBOCの施策を擁護するエコノミストからは、既に使いづらくなっているMLFの役割を徐々に縮小させ、上の国債市場売買を通して金融調節をより先進国に近いメカニズムに進化させるものだという解釈も提示されているが、何も今この瞬間に引締めと引締めのパッケージを同時に導入する必要はないはずだ。結局、米国より体力の弱い新興国が通貨防衛のために金融引締めを迫られる構図にすぎないのである。というより、あらゆる分野で同時多発ハードランディングをあえて加速させようとしているようにしか見えないのである。
要約
・中国GDPの体感は名目の4%ペースに近い・中国の消費不振は更に悪化している
・中国の不動産市場は反発していない
・当局は金利低下阻止のために金融引締めも辞さない
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