SPX Technical
 S&P 500は大幅に続落した。週前半はMSFTが滑ったにもかかわらず、FOMCを前にショートカバーが進んだ。(内容を見るまでもなく)FOMCを無事に通過すると更にヘッジ外しが進み、一時5500台後半まで上昇した。もっとも翌日日銀がサプライズ利上げを発表して円キャリートレードを突き崩したこともあり、またFOMC翌日に反落という2022年にもあったパターンにも当てはまる形で高値からは一直線に売り込まれた。更にAMZNとINTCが激しく滑ったのに加え、雇用統計がサームルールを引っ掛けるほど悪かったことで、景気減速懸念のクラッシュが続いた。

 先週の記事では「木曜の上ヒゲ陰線のヒゲと25SMAが集まる5500は一旦レジスタンスとなり、それをブレイクされてVIXも低下してくれればある程度ショートカバーの燃料を捻出できるだろう。一方、調整のきっかけになったナスダックで見ると日足ヘッドアンドショルダーになっており、上記のショートカバーが実現したとしてもそれはネックライン~右肩の間の空間に戻ってきただけであり、右肩18180はレジスタンスとなる。S&P 500で言うと決算期スタート時点の5600手前は遠いということである」「再び5390が早々に割られる事態になればガンマプロファイルのネガティブ転換と、CTAの売り転換を押し止められなかったことを意味するので再び下値余地が広がるだろう」としていたが、先週は(傍から見たら危険な展開でも)完璧に予想通りの展開であったと言えるだろう。まずは5390をまず割ろうとして果たせず、5500をブレイクして慣性で5566まで跳ねてから5600には届かず、再び5390をカチ割って下値を広げたのである。
Bloomberg Realized Vol
 時価総額の大きいラージテックや半導体大手が決算で振り回したおかげでリアライズドVolは大きく上昇しており、その水準は今年4月の金利上昇ショックを上回り昨年春の中小銀行経営危機を上回る。ということはトリガーされたVolコントロール型をはじめとする機械の売りも4月よりも規模が大きい可能性が高い。これが先週の記事でラージテック決算を警戒していた背景であり、何もこれらの決算を先行指標として何かを読み取ろうとしていたわけではなく(分からないし)、決算の値動きが生み出すボラティリティ自体が脅威なのである。
Bloomberg CDS protection
 珍しくCDS指数の取引も盛り上がっており、CDSスプレッドは4月の調整時並みに拡大した。これは株式指数の調整にファンダメンタルズ的な根拠があることを意味する。
GS CTA
 GS CTAは案の定7月最終週に売りに回り始めている。今後の挙動はやや売りに偏っており、基本的には指数の値動きを後追いで増幅させる方向に動くだろう。
DB consolidated position
 DBの統合ポジショニングも大きく縮小された。7/25時点なので少し遅いが先々週からのCTAフリップが観測されている。
BNP Paribas CTA
 珍しく流れてきたBNPパリバもCTAについて同じ分析している。
GS Dealer Gamma
 ディーラーガンマは果たして下に伸びたが、これも7/29時点なので週末時点ではネガティブガンマ域に入っている可能性が高い。仮にネガティブ域での推移が続いた場合それが払拭されるのは来週末のOp Exを待つことになるが、少し遠い。
GS VIX move
BofA SPX and VIX VIX3M
 VIXが30近辺までブローアップしたことでVIXカーブがインバートを始めており、これは2022年には何度もあったが、2023年では3月の中小銀行危機以来である。VIXの水準の高さは今後も機械の買い出動を阻害するが、一方で中期的にはVIX剥落余地もできるということになる。
NAAIM
 NAAIMは値動きにもかかわらず少し跳ねている。GSのセンチメントインジケーターもまだまだ悲観していない。NAAIMだけ見ていると底打ちはまだ遠い。
BofA Reporting
BofA earnings
BofA Earnings
Earnings Whispers
 決算期は概ね通過した。先週の記事では「安直に考えれば先週と同様、ショートカバーが一巡した後は火曜あたりからヘッジが入りやすいと思われ、その後は個々の決算次第となるが、幸先が悪いためよほど備えが構築されない限り決算ギャンブルは危険に見える一方、インテルまで通過してゲームチェンジャーがなければ買い戻しが優勢になりやすそうに見える」としていたが、果たしてこれまでの期と異なり堅そうな銘柄でも決算ギャンブルは参加しなくてよかった。さすがに予想をビートしたらちゃんと上がるが、あまりにも事前期待が高かった。今週になると指数に大きな影響を与えるような決算は残っておらず、またブラックアウトも明け始めている。マクロ的にはだいぶ指標が軽い週になり、非製造業ISMと小売売上高を滑らずに通過できれば景気後退懸念も剥落するだろう。
ruins
 テクニカル。週足は大きな上ヒゲ陰線となり5566が週足レジスタンスとなる。興味深いことに、行きも帰りも5360 -5390は窓が空いた。もちろんその上全体がアイランド・リバーサルになると言えるほどは大きな窓ではないが、この窓は心理的なレジスタンスになるだろう。逆にもし素早く5400台を奪回できれば続落のタイミングはだいぶ繰り下がるが、その場合もS&P 500の5566、更にナスダックの右肩18180はレジスタンスであり続ける。窓さえも奪回できない場合は引続き降りかかる機械の売りと闘うことになる。金曜のS&P 500の下げ幅は再び一時2%を超えたため、一層の機械の売りを呼び始めるパターンに従うなら月曜が小十字、それ以降もしばらく引け近辺を中心に機械の売りが降ってきやすくなる。どこかで日足下ヒゲ陽線が出れば引け前の機械の売りが止んだ証となるだろう。下値はあまり手掛かりがなく、落ち着くまで値幅より(最大でOp Exということになるが)日柄ということになる。昨年以来、主なS&P 500の調整はどれも初動は三本の週足陰線の長さだったため、決算期に加えて非製造業ISMまで通過すれば一旦は反発に転じる可能性もそれなりに残っているが、その反発は簡単には5566に届かないと思われ、5566/18180の奪回を今から警戒しなくても、その前に底値圏でグダグダしているうちに何らかの買いサインが出るだろう。

 この調整は天井からでも指数ベースでたかが1桁%であり、本来マクロ的な解釈を与えられるほどの規模ではない。しかしその背景は明瞭であり予想可能でもあった。先だってFedの9月利下げを断定した記事では株式にも触れており、

利下げが近付いてくるにつれ、利下げ織込みの進行が(どうやら受難が終わった地銀や、ラッセルのショートカバーを除いて)ゴルディロックス的な株高にも繋がっていないのは、利下げは正しい時期に提起されたものであり、実際に近付くにつれてビハインド・ザ・カーブ懸念との闘いが見えてきたためである。一方、では過去の利下げのように"利下げが始まると逆に株式が暴落しやすくなる"ジンクスが効いてくるかというと、今回は過去のように景気後退対応ではなく、実質GDP 2%ペース下の調整利下げなので、そちらも信用に値しない。株式が"マイルドなインフレと堅調な実質GDPが合わさった極めて高い名目GDP"を理由に買われてきたとすれば、"インフレ引締めの効きはじめ"のタイミングでは物価、実質両面からの名目GDP減速が株式にとって逆風になりやすいだろうが、根本的に景気後退に陥るわけではないのでバリュエーション調整が済み次第平穏が戻るだろう

と予め実質GDP期待のレンジ切り下げに伴う調整を想定していたが、まさにそれが現実に起きていると考えられる。本ブログはそのタイプの調整を定性的に予想していただけでなく、タイミングまでもテクニカルを利用して週単位で精密に予想できたが、現実の展開が想定を超えない以上、結論の方も変える理由がない。利下げが近づく局面でのビハインド・ザ・カーブ懸念は9月FOMCでの50bp利下げを展望できれば直ちに終わるものであるが、残念ながら9月FOMCまでまだ2ヶ月近くある。それでも利下げが近づくにつれて長期国債は既に自動的に株式のヘッジ機能を回復しており(インフレ・レジームでは長期国債投資は株式投資のヘッジにならないと笑っていた投資家はインフレの退潮と共に愚かしく顔面着地した)、従って景気減速ヘッジそのものはとても簡単にできる。本格的な下落に襲われるとすれば9月FOMCが近づいても50bp利下げを見通せず長期国債のヘッジ機能が再び喪われる時と思われるが、それでもインフレが既に問題にならないため、パウエル・プットは根本的には復活したと信じて差し支えないだろう。ラージテックの下落は嘲笑の対象になっているが、ラージテックvsラッセルのリラティブバリューの爆発は今回の調整の最初で済んでおり、このペアはどちらかというと修復プロセスに入りやすいと思われる。

NY市場サマリー(29日)S&Pとナスダック上昇、利回り低下・ドル安定的 | ロイター (reuters.com) 
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NY市場サマリー(31日)ドル一段安、S&P・ナスダック上昇 | ロイター (reuters.com)  
NY市場サマリー(1日)株急反落、ドル上昇・利回り急低下 | ロイター (reuters.com)  
NY市場サマリー(2日)ダウ600ドル超安、利回り急低下 ドル下落 | ロイター (reuters.com) 

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。