SP500 technical
 S&P 500はイントラウィークでは激しく上下したが、終わってみると前の週末とほぼ同じ位置で引けている。月曜から週末の雇用統計がもたらした米国景気減速懸念を日経平均が消化させられる形になり、日銀がタイミング悪くサプライズ利上げを放り込んだところで一瞬買いの手が引いたことで、売り圧力との需給が崩れて1日で10%以上下落した。それを見て欧州時間からVIXがブローアップして65まで付け、NYセッションも激しいリスク回避的な雰囲気の中で始まった。
Buffett 's cash pile
 ウォーレン・バフェットがAAPLを大幅に削減していたことも材料視された
Blooomberg SOXL
 もっとも日本株と違って米株は窓を開けて下げたところでは押し目買いやショートカバーが入りやすく、S&P 500はほぼ寄り底となった。先週の記事でも「マクロ的にはだいぶ指標が軽い週になり、非製造業ISMと小売売上高を滑らずに通過できれば景気後退懸念も剥落するだろう」としていたが、非製造業ISMが堅調だったことから景気減速懸念が剥落した
Bloomberg SP500 intraday move
 火曜もその流れが続いたが、月曜、火曜ともに引けにかけては売りが降ってきており、日足は陽線ながらもそれぞれ上ヒゲを残した。これは先週の記事で「(5360 -5390の)窓さえも奪回できない場合は引続き降りかかる機械の売りと闘うことになる。金曜のS&P 500の下げ幅は再び一時2%を超えたため、一層の機械の売りを呼び始めるパターンに従うなら月曜が小十字、それ以降もしばらく引け近辺を中心に機械の売りが降ってきやすくなる」と想定していた通りである。水曜になると日銀の内田副総裁が火消しを行ったことから更にリスクオンが続いたが、5360 -5390の窓に早くも近づいたこともあり、高寄りから引けまでじりじり売られ寄り天大陰線となった。木曜には新規失業保険申請件数で更に景気減速懸念が和らぎ、金曜にかけて再び買い直された。ビハインド・ザ・カーブ懸念から中銀の代わりに景気の方が少し戻ってきたことで金融政策と現実が再び細い橋を渡って嚙み合った形になる。
BofA pullbacks 
 BofAの過去統計によると5%程度の調整は毎年3回程度、10%程度の調整も毎年1回見られてきたので、(円建てで見た場合はともかく)S&P 500自体の調整としては今のところ平凡な値幅である。
JPM Yen carry trade
Bloomberg JPY and SP500
 今回の下落がたまたまドル円の下落とシンクロしていたので円キャリートレードの巻き戻しショックという解釈をされることが多いが、一般的に円を借りて米国株を買うキャリートレードが流行っているとは思えず、「最大のコンセンサストレードがクラッシュしたから他のコンセンサストレードも畳まれた」程度の話でしかない。
Sheeps
 日本円を出発点とする米株の過剰投資は新NISAが追い立てた米株インデックス投資くらいしか思い浮かばないが、実際円高と株安の双方に揺さぶられる形で日本からの米株インデックス投資は8/7計上で純流出に転じている。この恐らく初めてのいつもと方向が異なる注文は8/5の日本時間夕方までにグローバル証券会社に観測され、8/5のNY引けで執行されるまでの数時間にわたり野晒しになっていた可能性が高い。
GS Nomura VIX vs SP500
Bloomberg VIX
 VIXは8/5の欧州時間に65まで付けた。もっともこの65はトレーダブルな数字ではなかったことから信憑性に疑義が付いたままである。これは1ヶ月間で指数が毎日4%変動した場合の日次ボラティリティに相当する。かつてないほどVIXが1日で動いたにもかかわらず、イントラデーでS&P 500は大して動かなかった。
Bloomberg Vol Control
RIsk parity
 2018年のVIXショックの際はVIXがだいたい同じ時間帯に50まで持ち上げられたが、VIXの変動はリスクパリティ戦略のポジション縮小をトリガーし、S&P 500は10%下落した。今回とその時とで異なるのは国債が株式に対してヘッジ機能を提供できた点であり、これにより平均的なリスクパリティ戦略のポートフォリオは(インフレ・レジームでは長期国債投資は株式投資のヘッジにならないと笑っていた投資家がインフレの退潮と共に愚かしく顔面着地したのと違い)あまりストレスに晒されなかった。それでも計算上はリスクパリティ戦略はポジションの縮小に迫られたはずだ。或いはリスクパリティ戦略そのものがVIXショック以来あまりメジャーではなくなってきたのかもしれない。いずれにしろ、VIXのブローアップは2018年と違ってリスクパリティによる売り崩しのトリガーにならなかったようである。
SG Nas100 liquidity
 SGによるとナスダック先物の流動性は悪化した。一般的に先物の流動性が悪化すると売り注文を吸収しきれないため、VWAP砲で引けまでじりじり売られる局面が見られやすい。
 Reuters 0DTE options
 興味深いことにインプライドVolがブチ上がった結果、0DTEの活動は鎮静化した。これは既にプットが高くなっているため後から突撃しても非線形的に儲けられないと判断されたためであり、2023年に本ブログが0DTEについて考察した行動パターンと合致する。0DTEが下落方向に威力を出すのは高いプットを彼ら自身がイントラデーで既に稼いだお金で購入できる場合であり、具体的には朝一にリスクオン気味に高寄りしたところからのセンチメント反転、寄り天大陰線パターンがそれに当たる。
WSJ Bond Market
 USIGとUSHYのスプレッドは一時かなり拡大しており、これも4月の調整より今回の調整の方が深刻であったことを示唆する。
GS Magnificent7
GS Sector anc Stock Correlation
 これまでの調整幅ではマグニフィセント7が大きかったが、これは特に新しいセクターへのローテーションというわけではなく、クラッシュと共にセクター間の連動は戻ってきた。
GS CTA
 GS CTAは確実にポジションを落としており、その規模は既に4月の調整を超えている。ここからはイメージでは売りで追いかけそうとも思えるものの、GSの推定ではやや中途半端になっており、ベアシナリオ以外では一旦買戻しに動きやすいと解釈される。
Bloomberg CTA Index
 リスクパリティとは逆にCTAは株式ロングと債券ショートを追いかけがちだったので、成長期待のリプライスと共に起きた債券のショートカバーにも巻き込まれたようで元気がない
DB positioning
 DBの統合ポジショニングはかなり急速に削減され、一気に31パーセンタイルというアンダーウェイト域まで突っ込んでいる。
Barclays Asset Managers Nasdaq future positioning
 上司や顧客から魔術師と思われていないがために説明責任があり、従って行動が遅いことが多いAMもナスダック先物ロングを削減し始めた。
JPM Tactical Positioning Monitor
 JPMのタクティカル・ポジショニング・モニター(TPM)は4月よりも売りに振り切っている。
GS Dealer Gamma
BofA Gamma
 GSのディーラーガンマは先週の記事の見立て通りネガティブガンマ域に入った。ここ一週間はまさにネガティブガンマらしい、イントラデーの上げにも下げにも慣性を持つ値動きになった。ネガティブガンマに転じた水準は先々週の記事の「5400を著しく割り込むとネガティブガンマに転じる可能性が高く、その場合は指数の下落が進むにつれて追加ヘッジがトリガーされやすいだろう」が今でも参考になる。今後5400に再び載せることができれば一気に値動きは安定しやすくなるだろう。
NAAIM
 最も気持ち悪さが残り、高値追いの勇気を喪失させるのはNAAIMである。これほどのVIXと調整幅なのにどうして振り落とされないのか。GSのセンチメントインジケーターは少し悲観化したものの依然4月の水準にも達していない。
Bespoke SP500 2023
 テクニカル。5360 -5390の窓はいまだにレジスタンスとして意識されやすく、値動きの安定化は5400載せを待つ必要がある。先週の記事では「主なS&P 500の調整はどれも初動は三本の週足陰線の長さだった」としていたが、結果的には今回の連続週足陰線は3本で終わった(ただし値幅は遥かに下に伸びたためこの観測には意味がない)。5400に載せた場合のレジスタンスはナスダックの18180であり、この水準は9月利下げの催促相場が終わらないと届かないだろう。一方、下値については週足が実体の長い下ヒゲ陽線になったため、二番底があるとしても5120に届かないだろう(届いた場合はそもそも底ではなくなる)。従って5120 -5570という極めて広いレンジの中ではあるが、これまで順張りが必要だったフェーズから徐々に「上か下を試したら動かないので反転」パターンになりやすいフェーズに移行しそう。引け近辺での機械の売りは週後半から止み始めた。VIXが早々と20まで戻っており、それを確認してクレジットスプレッド等も平常化するなら週足ベースではあまり動かなくなる可能性に期待できるだろう。最も好ましいのは5400台でのじり高であり、それが見られれば機械勢のポジション復元にも期待できるだろう。それが観測されるまで「2, 3%の大幅反発や最高値更新をレバレッジをかけて捉えたい」ようなゲームではない。代わりに(9月50bp利下げ確定など、ファンダメンタルズ的に不確実性が本当に消えたケース以外の)大幅な反発は必ずしも好ましくなく、リアライズドVolが下がらないのにインプライドVolが先にクラッシュした場合はプットが割安に見えてくるため、寄り天からのクラッシュに要注意となる。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。