週末のカタルーニャ地方のスペインからの独立を巡る住民投票は参加率が4割の中で9割の賛成票を得たことから、独立宣言に向けた動きに注目が集まっている。スペイン警察による投票阻止のための投票所制圧や投票者への暴力が全世界に流れ、一時はリスクオフのきっかけになるかと思われたが、結局反応は局地的なものにとどまっている。ここでカタルーニャ問題について簡単に整理してみようと思う。
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 カタルーニャはバルセロナを中心とする地域であり、スペインとフランスの間に位置し、750万人の人口を擁している。10世紀から独立国家を作ってきた歴史があり、1700年初頭にスペインに併合されたが、フランコの死後に自治州の地位を獲得し、独自の言語を保持している。カタルーニャはスペインの他の地域よりも裕福であり、スペイン中央政府に税金を吸い上げられていることからスペイン金融危機後に独立の気運が高まっていた。

    単一民族国家から見たら住民投票で多数の支持を集めたら独立するのが当たり前と思えるだろうが、民族自決に基づく新しい独立国家の設立は基本的に認められていない。大半の国家は多民族国家であり、ウェストファリア条約以来、主権国家の領域はよほどのことがなければ神聖不可侵だからである。民族自決は第一次世界大戦後に敗戦国のオスマン帝国とオーストリア・ハンガリー帝国を連合国が解体する時(その割にはドイツ民族はドイツ、オーストリア、ポーランド、チェコスロバキアに分割された)、また東側であったユーゴスラビア連邦を西側が解体する時に恣意的に使われただけである。

    政府が独立を認めない中で独立が達成されるのは戦争の洗礼を経た場合、さらに母国が親西側国家でなかった場合のみだ。カタルーニャと同じく裕福な単一民族地域に近かったスロベニアはすんなり独立できた方だが、それでもスロベニア地域防衛軍が独立阻止のために侵攻して来たユーゴスラビア連邦軍と一戦を交えている。クロアチアを始めとする他のユーゴスラビア連邦構成国の独立は更に激しい戦争を経ており、また独立した国の中に取り残された他民族がさらに独立を宣言したり、それを阻止したり防ぐために民族浄化が行われたりと、民族自決の黒歴史となっている。親西側のグルジアからロシアの支援で独立した南オセチアなどは戦争の洗礼を経ても国際社会に認められていない。東ティモールは元々独立国家であり、インドネシアに占領されて30年も経っていなかった。ユーゴスラビア解体後にお蔵入りになった民族自決は、カタルーニャの住民投票結果の無視によって蔵に鍵が掛けられることになると思われる。
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    さて、今後について。スペイン憲法では分離独立は認められていない。カタルーニャ地方政府が独立を宣言すればスペイン政府は憲法155条(Article 155)に則ってカタルーニャ地方政府の自治権を停止し、地方選挙のやり直しを命じると思われる。民意がそこにある限り何度やり直しても同じ繰り返しになる、という考え方もできるだろうが、実はスペイン経済が金融危機から立ち直るに連れて独立支持の割合は徐々に減ってきている。州政府が今回過激な行動に出たのは、もしかしたら今を逃すともう盛り上がらないと見ているからかもしれない。なお、(個人的には謎な行動だが)残留派は選挙をボイコットすることが多いため、独立が9割の賛成を集めるのは特に珍しいことではない。 実際のところカタルーニャの独立支持派は4割にも満たないと言われる。残留派にしてみると、反対投票のためにわざわざ投票所に行って警察に暴行を振るわれたらいい面の皮である。

カタルーニャで浮き彫り、欧州に巣くう病理

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 「カタルーニャの分離独立派はEUを断固支持しており、指導者らはEUに対し、独立派とスペイン中央政府との間を取り持つよう訴えている」そうだが、EUはただでさえフランスの離脱でヒヤヒヤしてきたのにスペイン政府をも敵に回せるわけがない。たとえ独立してもスペイン政府が認めない限りEUは助けにならない。国連もそうだろう。本気で独立したいならEUなどに頼らず地域防衛軍や警察軍を作って戦争の洗礼を経なければならない。むしろ母国が西側なので戦争に勝っても難しいかもしれない。結局、自治権拡大や財政の吸い上げの軽減あたりで折り合いを付けるのではなかろうか。

 そして、実はここまでは事前勉強で予想できたはずだ。まさかここに来て選挙で残留が決まると予想していた人はいないだろう。週末のサプライズは、スペイン中央警察による過剰暴力に尽きる。これで一応EUの心証が悪くなる可能性があった。また、ここまで騒ぎになったからには、ラホイ首相の責任が問われるだろう。野党PSOEは政府を支持するとしているが、同じく独立分離を求めてきたバスク民族主義党は警察の暴力を目の当たりにしてカタルーニャ側に同情を抱く可能性がある。ラホイ政権の不安定化から総選挙前倒し、2016年の政局混乱に逆戻りするのがスペインの最も現実的な、また最大なリスクである。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。