
中国の消費者ローンの不自然な急増が話題になっている。明らかに多くの個人が、本来旅行や車、その他グッズの購入に使われると想定されている消費者ローンを利用して住宅購入の頭金を借りている。この不自然な急増は7月までには話題に上っており、9月末には銀監会が問題を認識し、調査を始めている。

消費性ローン・前年比増加額(億元)
当然全部が不動産に使われたわけではないだろうが、今更中国国民がローンを借りてまでして所得の伸び以上に消費を増やすとも考えづらいため、まあそういうことだろう。同時期に中国の不動産市場はブーストした。住宅ローンを引き締められ、買いたくて仕方がない住民は消費者ローンに駆け込んだのである。消費者ローンの出し手である銀行としては、口座に振り込んだ資金が不動産業者の口座やPOS端末に流れたら即座に検知して繰上げ償還を要求できる体制にあるが、一旦現金として引き出すなり親類の口座に振り込むなりされると使い道を追跡できない。
消費者ローンの利回りは当然従来の住宅ローンより高い。10%近い利回りでお金を借りて2〜4%の賃貸利回りの不動産に突っ込むとは中々に胸が熱い行動である。我々の感覚からすれば、お金を借りづらくなった時は他人も借りづらくなるのでいずれ資産価値は下がるはずであり、ここが底だと確信できる場合以外は、無理やりみんなと異なるルートでお金を借りても市況に逆らうことになる。しかし中国では今までの度重なるバブルつぶしの締付けは長期的には効果がなかったことをも人々は学習している。不動産市場は既に中国経済を完全に人質に取ったため、政府は不動産ハードランディングさせるわけにはいかず、不動産価格が急落すれば政府は規制緩和に動くに決まっている。そうなったらまた買えないまま上にワープしてしまう。茶番のような締付けサイクルが回るたびに、揺さぶられて売った人、買おうにもお金を借りられなかった人が負け組に転落した。チャイナショック後にほとんど利息を生まない米ドルに換金した人々も、あの現金を使って不動産を買っていれば、と後悔の念に苛まれていることだろう。
という歴史を踏まえると政府がデレバレッジに努力しているのに逆らってレバレッジをキープしようとする住民の気持ちも理解できる。サブプライムショック前の米国と同じく、不動産は絶対に上がるという強い信仰が揺るぎない前提となっている。しかし、住民があらゆる方法でレバレッジをパンパンに上げた後に、規制強化でそのレバレッジを維持できなくなったらどうなるか。一旦逆回転が始まったら、果たして中国政府お得意のマイクロコントロールでモメンタムを自由自在に変えられるだろうか。その時には大半の人は消費者ローンを返せるのか。飛ぶ鳥をも落とす勢いのテック企業も個人向けに金貸しをやっているが逃げ切れるのか。個人の信用情報を活用した貸出は日本でも「フィンテックが銀行を代替する」例としてもてはやされ、
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。