「一帯一路」協力へ指針

政府は中国が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」への協力を後押しするための指針をまとめた。省エネ・環境、産業の高度化、物流の3分野における日中の民間企業の協力を積極的に推進するため、政府系金融機関による

 中国政府が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」は本邦では基本的に批判の対象だが、最近になって日中関係が好転するにつれて政府関係者が相次いで協力を言い出しているため、批判の振り上げた拳の持って行き場がなくなっている。
One_Belt_One_Road

 一帯一路は一言で言うと中国の慢性的な過剰生産力を外貨準備を使って中央アジアに吐き出し、そこでインフラ整備をしていくと言うものだ。一帯は中央アジアを通る陸上の、一路はインド洋を通る海上の交通路である。初めて提唱されたのは2013年だが、生まれてすぐにチャイナショックが起こったため外貨準備をばら撒くどころではなくなり、一時はその誕生すら危ぶまれた。

 独裁国家にも平等にバラまいていく一帯一路は、「資金援助は常に内政干渉が伴う」というIMFモデルへのアンチテーゼでもあるため、米国は参加しようがない。日本も中国と領土を巡って対立しているため当然非好意的である。しかし地政学的に見ると、中国が一帯一路に入れ込むのは西太平洋への圧力を低減させるため日米に有利である。非常に深読みすると、一帯一路は(イデオロギーではともかく地政学的には)米国には対抗しないという意思表示にも見える。或いは逆に、まるでクリミア戦争でバルカン方面への南下を食い止められたロシアが極東に流れてきたように、日米によって東への膨張を押さえられているからこそ西に向かっているとも言える。また、一般的に米国が中東で消耗するほど中国に有利であるように、中国が中央アジアで対イスラーム原理主義と対インドの双方で消耗するするのは米国に有利である。従って妨害するよりも盛り立てる方が日米の利益となる。

 日本政府は一帯一路に対抗意識を燃やす時に「質の高いインフラ」というワードを好んで多用していたが、インフラプロジェクトの質については残念ながらアルジェリア高速道路の一件で勝負が付いている。アルジェリアを東西に結ぶ高速道路を日中がそれぞれ受注したところ、鹿島、大成建設などのJVがトラブル続きで数百億円の特損を出していたが、中国勢は東西の次にアルジェリアの南北を結ぶ高速道路をも受注している。政治的な理由で歯を食いしばって低利融資を付けていくつか案件を受注しても、得るのは精神的なものが大半だ。それよりは一帯一路に乗っかる方が遥かに楽である。