昨日の記事で触れたVIX急騰事件は、VIXを参照した投資のロスカットを狙ったものなので、株式現物市場から切り離されたVIX界のコップの中の嵐で終わるはずだった。しかし、結果的にVIXの急上昇は株式指数にも大きなフィードバックをもたらしており、持ち上げられたVIXが株式指数の急落を招いたためいわば自己実現している。VIX界と現物界の間に架け橋が存在したからだ。リスクパリティと呼ばれる運用戦略が、VIXが上昇すると株式をぶん投げるのである。
リスクパリティはリーマンショック後に脚光を浴び始め、近年最も成功したファンドの一つとすら言われている。ところが今回、こちらの日経の記事ではリスクパリティファンドを「変動指数に火を付けられた19兆円の爆薬庫」と名指ししている。また、リスクパリティファンドがあのリーマンショック以来悪名高いCTAと共に「2000億ドルの世界株を売却する過程にある」などと言われており、すっかり株式指数下落の戦犯という扱いになっている。
リスクパリティはリーマンショック後に脚光を浴び始め、近年最も成功したファンドの一つとすら言われている。ところが今回、こちらの日経の記事ではリスクパリティファンドを「変動指数に火を付けられた19兆円の爆薬庫」と名指ししている。また、リスクパリティファンドがあのリーマンショック以来悪名高いCTAと共に「2000億ドルの世界株を売却する過程にある」などと言われており、すっかり株式指数下落の戦犯という扱いになっている。
分散投資では長期的に安定してリターンを獲得できるとされているが、その過程で色々と調整が必要である。株100万円と債券100万円からなるポートフォリオがあったとして、株が下がる場面では債券が上がるので分散効果が期待できる。しかし、数年後に株が300万円まで値上がりし、債券が100万円のままとなった場合、このポートフォリオはもはや3/4が株なのでほとんど株にしか連動しないポートフォリオとなってしまう。それを避けるためには、最も古典的な調整方法は定期的に見直しを行い、時価総額が膨らんだ資産を売却してバランスを取っていくというものがある。世の中でよく「株が上がってきたので年金のアロケーション変更の株売り債券買いが」云々言われるのはこのことだ。こちらのリバランスは基本的に逆張りとなる。
更に一歩進んで考えると、ボラティリティ30%の株100万円とボラティリティ5%の債券100万円からなるポートフォリオはやはりほとんど株にしか連動しない。この欠陥を解消するために、各資産のボラティリティが等しくなるようにウェイトを調整し続けるのがリスクパリティ戦略の考え方である。各資産が取れるリスクが決まっているため、ある資産のボラティリティが上昇すると売却に動くことになり、基本的に荒れを拡大する順張りのリバランスとなる。
より公平を期するために付け加えると、ボラティリティと原資産の連動はリスクパリティファンドのみが作り出すものではない。金融工学の礎であるハリー・マーコウィッツの現代ポートフォリオ理論(MPT)の出発点となった「高ボラティリティ投資には高い期待リターンを要求する」というコンセプトは当たり前な感覚だ。しかし、そうは言っても多くの投資家がボラティリティ、特にインプライドボラティリティにそこまで敏感に反応しない中、リスクパリティは元々VIXと株価を結ぶ浮き橋の隣に大きなコンクリートの架け橋を架けたことになる。
実際にS&P 500とVIXを並べてみると、確かにS&P 500の調整場面では毎回VIXが上がっているが、後者を確認してから前者を取引しても先取りできるわけではなさそうだ。リスクオフイベントが起きたら下を売って、落ち着いたら上を買うというのを繰り返しているのではないかとも思える。もっとも、大ブル相場では低ボラティリティが続くので、クラッシュの瞬間までちゃんとトレンドに乗れるという意味では途中で利食ってしまいたくなる裁量投資家より優れている。代わりに(自分で崩すケースが増えてきたが)一般的にクラッシュの前に先にVIXが上がるということもないのでクラッシュの一発目は食らう。要するにただの順張り運用だ。
実際のリスクパリティファンドの運用実績例を引っ張ってくると、確かに安定しているが、ただの分散投資に比べてどこまで優れているのか一目ではわからない。
もう一つ引っ張ってくると、分配金が出ていないのに設立来水面下に沈んでいるという残念な結果となっている。何かの間違いだろう。
それでもリスクパリティが大好きな人は多い。なぜなら「ファンドの各資産のリスクを一定にする」というのは理論的に美しいからだ。また、「マネージャーの見通しや予想は当たらないから、予想せずに数式やルールに従って運用するのが魅力的」という考え方もありそうだ。国際通貨基金(IMF)の2017年10月の公表によると世界中でリスクパリティ戦略の投資家は最大19兆円という預かり残高を誇っているようだ。
リスクパリティのような順張り戦略の存在感が増すと、市場はスパイラルに陥りやすくなると考えられる。ボラティリティが上がる→リスクパリティが原資産をぶん投げる→原資産が値下がりしてボラティリティが更に上がる、という具合だ。爆薬庫と呼ばれる所以である。教科書に出てくる、ブラックマンデーを誘発したかつてのポートフォリオ・インシュランスも同じだ。「いざとなったら順張りすればリスクヘッジができる」という考え方は市場に甘えているのだ。また、VaRによるリスク管理が流行った後に、ボラティリティが上がると許容できるポートフォリオが小さくなるためぶん投げなければならないというVaRショックも起きたのも似たような構図だ。
よく考えてみると、背景も考えずにボラティリティを読み込んで、上がったら株式や債券を目を瞑って叩き売るだけならインターン生でもサルでもできることだ。結局、投資の王道とは他人より多くの情報を集めて将来の出来事を正しく予想することであり、適当な数式やルールを作っては聖杯を見つけたつもりになっているのはおこがましいと言うべきではないか。
更に一歩進んで考えると、ボラティリティ30%の株100万円とボラティリティ5%の債券100万円からなるポートフォリオはやはりほとんど株にしか連動しない。この欠陥を解消するために、各資産のボラティリティが等しくなるようにウェイトを調整し続けるのがリスクパリティ戦略の考え方である。各資産が取れるリスクが決まっているため、ある資産のボラティリティが上昇すると売却に動くことになり、基本的に荒れを拡大する順張りのリバランスとなる。
より公平を期するために付け加えると、ボラティリティと原資産の連動はリスクパリティファンドのみが作り出すものではない。金融工学の礎であるハリー・マーコウィッツの現代ポートフォリオ理論(MPT)の出発点となった「高ボラティリティ投資には高い期待リターンを要求する」というコンセプトは当たり前な感覚だ。しかし、そうは言っても多くの投資家がボラティリティ、特にインプライドボラティリティにそこまで敏感に反応しない中、リスクパリティは元々VIXと株価を結ぶ浮き橋の隣に大きなコンクリートの架け橋を架けたことになる。
実際にS&P 500とVIXを並べてみると、確かにS&P 500の調整場面では毎回VIXが上がっているが、後者を確認してから前者を取引しても先取りできるわけではなさそうだ。リスクオフイベントが起きたら下を売って、落ち着いたら上を買うというのを繰り返しているのではないかとも思える。もっとも、大ブル相場では低ボラティリティが続くので、クラッシュの瞬間までちゃんとトレンドに乗れるという意味では途中で利食ってしまいたくなる裁量投資家より優れている。代わりに(自分で崩すケースが増えてきたが)一般的にクラッシュの前に先にVIXが上がるということもないのでクラッシュの一発目は食らう。要するにただの順張り運用だ。
実際のリスクパリティファンドの運用実績例を引っ張ってくると、確かに安定しているが、ただの分散投資に比べてどこまで優れているのか一目ではわからない。
もう一つ引っ張ってくると、分配金が出ていないのに設立来水面下に沈んでいるという残念な結果となっている。何かの間違いだろう。
それでもリスクパリティが大好きな人は多い。なぜなら「ファンドの各資産のリスクを一定にする」というのは理論的に美しいからだ。また、「マネージャーの見通しや予想は当たらないから、予想せずに数式やルールに従って運用するのが魅力的」という考え方もありそうだ。国際通貨基金(IMF)の2017年10月の公表によると世界中でリスクパリティ戦略の投資家は最大19兆円という預かり残高を誇っているようだ。
リスクパリティのような順張り戦略の存在感が増すと、市場はスパイラルに陥りやすくなると考えられる。ボラティリティが上がる→リスクパリティが原資産をぶん投げる→原資産が値下がりしてボラティリティが更に上がる、という具合だ。爆薬庫と呼ばれる所以である。教科書に出てくる、ブラックマンデーを誘発したかつてのポートフォリオ・インシュランスも同じだ。「いざとなったら順張りすればリスクヘッジができる」という考え方は市場に甘えているのだ。また、VaRによるリスク管理が流行った後に、ボラティリティが上がると許容できるポートフォリオが小さくなるためぶん投げなければならないというVaRショックも起きたのも似たような構図だ。
なお、リスクパリティファンドの残高が世界中で一声19兆円とは言っても、株式は債券よりボラティリティより高いのでポートフォリオに占める割合はせいぜい1/4で、それを非常にラフに考えてVIXが倍になったから1/8まで売るとしてもせいぜい2兆円程度のインパクトということになる。そのインパクトも、ショックの数日後になって売りを一気にぶつけるというよりは、中長期的にもあまり保有できず上値を追いかけづらくなる、という形で市場に出てくる可能性が高い。
ただ、リスクパリティがここまで目立つと、ボラティリティ上昇=株式下落という公式が、今のリスクオフ=円高と同じように、本来はもっとゆっくりした因果関係しかないはずの市場同士でアルゴリズムによって瞬時に互いに反応するようになるかもしれない。そうするといよいよリスクパリティファンドは先回りされて高く買って安く売るようになる。特に、順張りが前提なのにボラティリティが上がりだしてから数日や数週間後に見直し売りを出すような足の遅いファンドはもはや何をやっているのかわからなくなりそうだ。
よく考えてみると、背景も考えずにボラティリティを読み込んで、上がったら株式や債券を目を瞑って叩き売るだけならインターン生でもサルでもできることだ。結局、投資の王道とは他人より多くの情報を集めて将来の出来事を正しく予想することであり、適当な数式やルールを作っては聖杯を見つけたつもりになっているのはおこがましいと言うべきではないか。
この記事は投資行動を推奨するものではありません。