一週間前にイタリア政局をアップデートしたが、そこに貼ってあった「イタリア金利が急騰」のチャートはその後の展開からしたら誤差のようなものだ。イタリアの2年債は29日に対ドイツで1日で200bp近くワイドニングして350bpを付け、対ドイツでのスプレッドで2年と10年が逆転した。2年債の絶対利回りもマイナス域から一時2.7%に達した。



前回の記事は「EU離脱云々はまだ連立政府の議題に上がっていないが、もし彼らの歳出拡大策に対してEUが強硬に干渉してきたらそういうリアクションが取られる可能性もある。そうするとグローバルでリスクオフ要因になり得るが、今の段階ではまだイタリア一国の問題にすぎない」としていたが、EUがまだ沈黙を保っている間にエスタブリッシュ側の大統領が事態をこじらせてしまったのである。
総選挙に勝利した反エスタブリッシュ、或いはポピュリストと呼ばれる極左・五つ星と極右・同盟の二党は一旦連立政権を組むと決めていたが、彼らが財務相として推薦したサボナ元産業相について、マッタレッラ大統領が27日に「かつてユーロ離脱を言及してきた」を理由に受け入れを拒否。これを受けて両党に擁立されて組閣に取り組んでいたコンテ教授が組閣を放棄。大統領による倒閣とも言える。翌28日には大統領が元IMF高官のコッタレッリ氏を新たに首相に指名した。しかし五つ星と同盟は議会で合わせて過半数の議席を確保しているため、ポッと出のコッタレッリ内閣は議会で信任される可能性が低く、そうすれば早くて夏に再選挙となる。しかもよりによって過去に新興各国に財政緊縮を強いてきたIMFの出身者だ。再選挙をやったところで両党がさらに票が集まることは確定している。つまりカードは全て両党の方が持っているわけだ。結局、五つ星と同盟の両党が再び組閣作業に取り組むことになり、「再選挙よりはましだ」ということでイタリア国債は買い直されつつある。
もとより五つ星と同盟の主張はあくまでも財政拡張でありEUとの関係は特段争点になっていなかったが、大統領がいきなり反EU言論への不容認を持ち出してきたため、このまま次の再選挙に突入すると否応無くEUとの関係を問う国民投票の色合いを持つことになる。そして五つ星と同盟がまた過半数を取るに決まっている。するとこれはEU離脱を示唆するのではないか、と市場は危惧した。累積デフォルト確率は年が経つに連れて大きくなるため、2年と10年のスプレッド逆転はデフォルトに近い事象を織り込むものだ。デフォルトになると、短期債も長期債も一様に同じ単価でヘアカットされるため、短期債の方が利回りベースで見ると不利になる。ユーロを離脱してリラ建てに変わり、そのリラが対ユーロで下落する場合も同じた。財政拡張の手段としてのミニBOTという政府紙幣のような短期国債も話題に上がっているが、並行通貨による財政悪化を織り込みに行くなら金利スプレッドカーブはスティープニングするはずだ。
EU離脱まで織り込まれたらこの相場はもう終わりだろう。イタリア国債急落→それらを保有するイタリアの銀行セクターが急落→イタリア国債がさらに急落、というサイクルをも我々は観測した。国債利回りの上昇による財政の更なる悪化という懸念も多くの参加者が共有した。イタリア国債の多くは個人が保有している。ポピュリズムは民意とはいえ、いざ自らの財布が傷んでくると話が違ってくる。再選挙までに時間をかければ違う結果を出すことも不可能ではないだろう。両党による連立政権が実際に始まってからグダグダになった場合も同じだ。ムーディーズが週末にイタリア国債にネガティブウォッチをかけているが、1ノッチの格下げではまだ投資適格を失わない。大統領はその外圧を見て焦って倒閣に動いたのだろうが。ECBはイタリア銀行への公金注入を妨害し、銀行債保有者のイタリア国民を敵に回すと共にイタリアの経済成長を阻害してきた。財政支援がないままユーロというイタリアから見たら割高な通貨をも押し付けてきた。尻拭いをしないわけにはいかないだろう。

イタリア短期国債の1日の値幅は欧州財政危機の頃を遥かに超えてEU開闢以来のものとなった。VIXショックもそうだが、特定の市場の局地的なショックの振れ幅は過去よりも遥かに大きくなっている。その背景の一つが流動性の枯渇だ。今回のショックの途中で投資家が買うのも売るのは至難の技だったようだ。国債現物のトレーディングデスクはお客様から買うのにいちいち偉い人の許可が必要だったそうだ。欧州銀の場合はリスクを取る体力がない上にトレーダーのボーナスの上限も規制で決められているので、リスクを取って荒稼ぎしようというアニマルスピリットも萎えようというものだ。そこに収益よりも上司の不興を買うことを気にするようなマネージャーが海の向こうから成行でぶん投げを入れたら化学反応を起こすに決まっている。欧州は金利が低いが長短金利差は残っているので米債と違って円ヘッジを掛けると利回りが改善する。そんなわけで本邦投資家が大挙して米国から欧州にシフトしていったのだが、イタリアでの被弾を回避できたのだろうか。
この記事は投資行動を推奨するものではありません。