Blackrockが運用する短期ハイイールド債ETF、SHYGからの資金流出が一部で話題になっている。なんと5月末からの数日で4割の運用残高を引き出されているようだ。画像はツイッターから。

これはハイイールド債に対して弱気な大口投資家による激しい資金の引き上げを意味するだろうか。普通の投信なら、投資をやめようと思ったら我々は運用会社に解約を申し入れる。運用会社はその分の中身の株式や債券を売却し、得た現金を我々に渡す。投資信託の運用残高はその分減少する。一方ETFは上場されており、売りたいと思ったらわざわざ運用会社を探さなくても取引所で売れば良い。むしろ運用会社に持ち込んでも運用会社が自己資金で買ってくれるわけではなく、その分の中に入っていた株式や債券現物の束と交換してくれるだけだ。そして取引所でAさんが売ったのをBさんが買っても運用残高は減らない。どういう時にETFの残高が減るのだろうか。
まず素直にETFの大口保有者が弱気になって売ってきた場合を考えよう。株式指数のような先物がある流動性の高い資産のETFの場合、巨額の売りを持ち込まれた証券会社は割安で買い取ってすかさず先物売りを入れればヘッジできる。その後ETFを運用会社に持ち込んで解約を申し入れれば渡された現物と先物ショートが残り、それをゆっくり解消していけば良い。証券会社は「解約」という仕組みを用いて原資産(先物)より流動性が悪いETFを顧客のために売りさばいたことになり、解約に伴いETFの運用残高が減る。また同時に先物市場にも売りが波及し、原資産にも影響を与える。買いの場合は逆のプロセスとなる。投信の場合と同じく解約が売り圧力となり、 ETFフローと原資産への圧力は概ね一致する。
一方、ハイイールド債のような、原資産がETFよりも流動性が悪い資産では構図が違ってくる。巨額のETFを投資家から買い取らされた場合、解約して巨額のハイイールド債現物を手に入れても更に扱いづらくなる。CDSインデックスでも買えば当面のリスクはヘッジできるが、株と違って社債現物とCDSインデックスの両建て解消も骨が折れる。まだETFのまま取引所で売りさばいた方がましだ。それでも売りきれない場合、ETFの買い板がなくなり原資産と比べて割安化する。そこで初めて、解約を申し込んで原資産の数百銘柄のハイイールド債券を1銘柄ずつ証券会社に引き合って売っていった方が合理的となる。


ではこのSHYGというETFがクラッシュの後の雰囲気を出しているかというと、運用者Blackrockの公式ページによると6/8現在、SHYGは原資産に対して0.28%のプレミアム(割高)で取引されている。具体的にはBlackrockが保有する原資産から算出したNAV (Net Asset Value, 純資産総額。原資産のbid priceから算出)が一株あたり46.63ドルであるのに対してETFは46.75ドルで引けている。1万株を解約して原資産をもらっても46万6300ドルでしか売れないが、ETFのまま取引所で売れば46万7500ドルで売れるチャンスがある。この地合いならたとえ巨額の売りを持ち込まれても解約を申し入れる必要はなかったはずだ。
ETFで運用していた投資家が現物運用に切り替える場合もETFの運用残高は減る。上の図で示されているようにSHYGは年0.3%の運用報酬を徴収している。すぐにまた売るつもりならETFの方が売りやすいが、どうせ長期投資で寝かせるなら自分でハイイールド債の現物ポートフォリオを保有し続けた方が0.3%の報酬を削減できる。実は逆に今からハイイールド債に投資したい新規投資家がいた場合も当てはまる。上場もされていないハイイールド債を1銘柄ずつ証券会社から買い集めていたら日が暮れてしまう。取引所でETFを毎日買い集め、最後に運用会社に解約してハイイールド債のポートフォリオを渡してもらう方が簡単だ。実際、5月末から6月初旬にかけて取引所でちょうど累計で4000万株近くが出会っており、これは運用残高が急減した分より少し多いのでそう見えなくもない。いずれにしても流動性が悪い資産の場合、ETFフローと原資産のフローは必ずしも一致しない可能性が高い。ETF市場は原資産市場の中の一部でしかないのだ。

実際に何が起きたかは我々はインサイダーではないので、「どうもETF投資家から現物投資家に巨額のポジションが移動したようだ」くらいしかわからないが、何よりも解約祭りの後、SHYGの価格は上昇を続けている。残高が激減したのは公開情報であり、SHYGやハイイールド債現物の市場参加者の大半も承知している。たとえ本当に巨額の売りがあったとしても既に全部キャッチされ、むしろ売りが買いを呼んだということだ。
まず素直にETFの大口保有者が弱気になって売ってきた場合を考えよう。株式指数のような先物がある流動性の高い資産のETFの場合、巨額の売りを持ち込まれた証券会社は割安で買い取ってすかさず先物売りを入れればヘッジできる。その後ETFを運用会社に持ち込んで解約を申し入れれば渡された現物と先物ショートが残り、それをゆっくり解消していけば良い。証券会社は「解約」という仕組みを用いて原資産(先物)より流動性が悪いETFを顧客のために売りさばいたことになり、解約に伴いETFの運用残高が減る。また同時に先物市場にも売りが波及し、原資産にも影響を与える。買いの場合は逆のプロセスとなる。投信の場合と同じく解約が売り圧力となり、 ETFフローと原資産への圧力は概ね一致する。
一方、ハイイールド債のような、原資産がETFよりも流動性が悪い資産では構図が違ってくる。巨額のETFを投資家から買い取らされた場合、解約して巨額のハイイールド債現物を手に入れても更に扱いづらくなる。CDSインデックスでも買えば当面のリスクはヘッジできるが、株と違って社債現物とCDSインデックスの両建て解消も骨が折れる。まだETFのまま取引所で売りさばいた方がましだ。それでも売りきれない場合、ETFの買い板がなくなり原資産と比べて割安化する。そこで初めて、解約を申し込んで原資産の数百銘柄のハイイールド債券を1銘柄ずつ証券会社に引き合って売っていった方が合理的となる。


ではこのSHYGというETFがクラッシュの後の雰囲気を出しているかというと、運用者Blackrockの公式ページによると6/8現在、SHYGは原資産に対して0.28%のプレミアム(割高)で取引されている。具体的にはBlackrockが保有する原資産から算出したNAV (Net Asset Value, 純資産総額。原資産のbid priceから算出)が一株あたり46.63ドルであるのに対してETFは46.75ドルで引けている。1万株を解約して原資産をもらっても46万6300ドルでしか売れないが、ETFのまま取引所で売れば46万7500ドルで売れるチャンスがある。この地合いならたとえ巨額の売りを持ち込まれても解約を申し入れる必要はなかったはずだ。
ETFで運用していた投資家が現物運用に切り替える場合もETFの運用残高は減る。上の図で示されているようにSHYGは年0.3%の運用報酬を徴収している。すぐにまた売るつもりならETFの方が売りやすいが、どうせ長期投資で寝かせるなら自分でハイイールド債の現物ポートフォリオを保有し続けた方が0.3%の報酬を削減できる。実は逆に今からハイイールド債に投資したい新規投資家がいた場合も当てはまる。上場もされていないハイイールド債を1銘柄ずつ証券会社から買い集めていたら日が暮れてしまう。取引所でETFを毎日買い集め、最後に運用会社に解約してハイイールド債のポートフォリオを渡してもらう方が簡単だ。実際、5月末から6月初旬にかけて取引所でちょうど累計で4000万株近くが出会っており、これは運用残高が急減した分より少し多いのでそう見えなくもない。いずれにしても流動性が悪い資産の場合、ETFフローと原資産のフローは必ずしも一致しない可能性が高い。ETF市場は原資産市場の中の一部でしかないのだ。

実際に何が起きたかは我々はインサイダーではないので、「どうもETF投資家から現物投資家に巨額のポジションが移動したようだ」くらいしかわからないが、何よりも解約祭りの後、SHYGの価格は上昇を続けている。残高が激減したのは公開情報であり、SHYGやハイイールド債現物の市場参加者の大半も承知している。たとえ本当に巨額の売りがあったとしても既に全部キャッチされ、むしろ売りが買いを呼んだということだ。
この記事は投資行動を推奨するものではありません。